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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第一章 魔王は座すのみ
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第五話

 ここはリリナ、エミリー、オリエが住む一軒家。オリエがぼっかーんとやらかしたためにそれまで借りていた家を追い出されてしまい、探し探してどうにか見つけたのが町外れのこの家だった。それも吹っ掛けられた金額での購入が条件でだ。その前にはオリエが半壊させた家屋の賠償もしなければならず、びっくりするような総額になった。それをどうにか賄えたのは、魔王から貰った魔法結晶をエミリーがずっと握り締めていたからであった。

「魔王さまが滅びるなんて絶対に看過できませんわ!」

 拳を振り上げて宣言するリリナ。拳を振り上げるのに合わせておっぱいもたゆんたゆん。

 エミリーはそんなリリナを暑苦しそうに見る。リリナが全裸同然の実に涼しげな格好でも、やっていることが暑苦しい。

「だからって妨害もできねぇだろ」

 妨害は国と喧嘩するようなものだ。それに人々の共感も得られないだろう。国はともかく人々を敵に回すようことになっては、とても生活し辛くなる。

 そしてオリエがエミリーの言葉に頷く。

「魔王殿も望むまい」

 滅びの時を待っていると言う魔王が妨害を望むはずがないのだ。

 そんな二人の気の無い返事がリリナは面白くない。バンと両手をテーブルに叩き付けて凄む。

「あたくしが望んでいるのですわ!」

 しかし、ぷるんぷるんと揺れるおっぱいの方が迫力満点であった。

「心配すんな。どうせ誰も何にもできねぇし、辿り着けるかさえ怪しいだろ」

 エミリーが百人同時に攻撃しても魔王はビクともしないと思われる。そこに行き着く前には瘴気や魔物も立ち塞がっている。

「うむ。わたし達が気を付けなければならないのは、魔王討伐に駆り出されることだ」

 リリナとエミリーはびっくりした表情で顔を見合わせた。盲点だったのだ。

 三人は魔物猟師としては新参だが、実績を上げていて目立っている。始めたのは魔王と出会う少し前のこと。まだ人だった頃のカーミットと一緒に魔王の捜索を始めた時からだ。全くの無収入では長期間の捜索が難しいので、捜索費用を得るためだった。そしてダンジョンで得られる収入源は魔法結晶だけなのだ。

 始めから目立ってはいた。男一人に美女三人と言うだけでも目立つ。ただそれだけでカーミットを睨みつつ血の涙を流した男が居るとか居ないとか。まあ、血の涙と言っても大方は妄想を膨らませて出した鼻血が逆流して目から出ただけであろうが。いや、それはどうでもいい。その後に男が帰らず、一人が全裸、もう一人が服を破られて胸元を露わにした状態で帰って来たのだ。表向きは強力な魔物に襲われてカーミットを失い、残る三人は命からがら逃げたことになっているが、痴情の縺れとの噂も絶えない。そのせいか、オリエのぼっかーんとリリナの身形(みなり)の豹変も相まって、「一緒に猟をしよう」などと言う誘いも皆無である。

 しかし魔王討伐ともなれば話も変わるだろう。

「でもまあ、いざとなりゃ、逃げりゃいいさ」

「そんな! 魔王さまから離れるなんてできませんわ!」

 身を乗り出すリリナ。またもやおっぱいがたゆんたゆんと揺れる。

「何も魔王から離れようってんじゃねぇよ。魔王の所に逃げてもいいじゃねぇか」

「そうですわ! それがよろしいですわ!」

 リリナが勢いよく身を起こして力瘤を作りつつ言うのに合わせ、おっぱいがぷるんと揺れて一瞬だけ乳首が見え隠れする。

 その様子を少々目を(すが)めて見るエミリーとオリエ。いつもこれでは同性の仲間と言えども気になる時もある。

「リリナ殿。貴殿はどうしてその……はしたない格好をするようになったのだ?」

 オリエに問われて眼をパチクリとさせるリリナ。

「決まっているではありませんか。魔王さまの愛を感じるためですわ!」

「愛?」

「そうですわ! こうして肌で空気を感じていれば、その中の微かな魔王さまの愛を感じられるのですわ!」

「ん? それって瘴気が町の中にも入って来ているってことか?」

 エミリーが尋ねた。

「そうなりますわね。でも、あたくしでさえこうでもしなければ感じられませんから、人が害されるようなことはありませんわ」

「なら安心だ」

「それよりオリエさん? はしたない格好だなんて貴女には言われたくありませんわ」

「確かにな」

 深く頷くエミリー。

「ええ!?」

 目を丸くするオリエ。

「あたくしは貴女と違って何もかも晒して歩いてはいませんのよ」

 また深く頷くエミリー。

「わたしはこうしてしっかり服を着ているではないか」

 オリエは自分の胸元を軽く叩いて主張した。家の中なので鎧までは着けていないが、肌が殆ど隠れるシャツとズボンを着けている。

「魔王さまにお会いした後のことですわ。手で隠しているおつもりでしょうけど、全然隠れてませんのよ」

「ええ!?」

 オリエは両手でおっぱいと股間を隠すが、今は服を着ているので意味は特に為していない。

「あたしはてっきり見せたがっていると思ってたんだが、違うのか?」

「ち、違う! 違うのだ……」

 咄嗟に否定したオリエだが、どこか尻窄みだ。

「ならどうしてあたしが着替えを持って行ってやってた時にも『恥辱を忘れないため』とか言って着なかったんだろうな?」

 二度目、三度目の時はそうなるとはエミリーも思っていなかったためにオリエの着替えを用意していなかったが、四度目ともなるとさすがに用意していた。しかし顔を上気させたままのオリエが拒否するので、今は持って行っていない。理解しているのは、どこかにスイッチが入ったようにテンションがおかしくなっているのだろうと言うことだけだ。

「あ……、う……」

 その時の記憶が抜け落ちている訳ではないオリエは自分がおかしくなっていたのも解るので返事に詰まる。

 そしてその時のことが頭の中で再生される。

「何たる、屈辱……」

「え!?」

 ぼそっと呟いたオリエの言葉に慌てるのはエミリーだ。転がるようにリリナの陰に隠れた。その瞬間。

「くっ、殺せ!」

 \ぼっかーん/

 オリエの着ていた服が千切れ飛び、家も半壊だ。リリナにはチラリズムの特殊効果で爆風も吹き飛ばされた物も当たらず、エミリーもリリナの陰に隠れたことで無事だった。物的被害は甚大でも人的被害は皆無。不幸中の幸いだ。

 しかしそれを喜ぶ筈もない。

「けほっ」

 埃を避けられなかったエミリーが軽く咳き込んだ。

「てめぇ! いい加減にしろよ!」

「面目ない」

 小さくなるオリエ。

 溜め息を吐くリリナ。家の修理や後片付けには結構な時間とお金も掛かる見込みだ。

 ともあれ、互いの身形(みなり)について言及するのを御法度にする三人であった。


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