第五十四話
自分のせいで周りの空気が悪くなっているとなれば居たたまれなくもなる。動揺し、おろおろすることしかできないなら、誰かに介入して欲しくもなる。ノルトもそんな調子で周りを見るが、少女――外見だけならそう見える――の連れの一人は未だ天を仰いだままで、もう一人は「やれやれ」と言った風情で小さく首を横に振っている。全力で放置する体勢であった。
しかしながら、全く意に介していない人の存在と言うのは多少なりとも心を落ち着ける効果が有るものだ。ノルトも僅かながら動揺から解放され、事態の整理に頭が回るようになる。
魔の森のただ中に在るだろうログリア帝国帝都の遺跡の発掘を直近の目的としていて、そこまで乗って行くゴンドラを魔物から護衛してくれる人材を必要としている。そしてその人材を魔物猟師に求めていて、報酬が言うなれば現地調達だと言うことは話した。しかし、目の前の女性達には護衛を依頼などしていない。魔物猟師かどうかさえ判っていないのだからできる筈がないのだ。と言うか、内二人はどう見ても魔物猟師には見えない。何より女性達が護衛に値する腕を持つかも判らない。ところが女性達は護衛を請け負うつもりでいる。
ノルトとしては更なる整理と軌道修正が必要だ。
「あ、あの……、貴女方は魔物猟師なのでしょうか?」
「あら? どこをどう見ても魔物猟師ではありませんこと?」
リリナが不思議そうに答えた。ノルトは首を傾げる。
「いえ、とてもそのようには……」
「おう、兄ちゃんは判ってるようだな。兄ちゃんからも言ってやってくれよ。魔物猟師の格好じゃねぇってな」
エミリーが重苦しいのはもうごめんとばかりにノルトの話に入った。
面食らうのはノルトだ。今の言い方だったら、目の前の身体に小さな布切れを纏っているだけの女性がまるで魔物猟師のようではないかと。
「魔物猟師……、をされているのですか?」
「だから、どこをどう見ても魔物猟師ではありませんか」
リリナが自分の胸元をパンパンと叩きながら主張する。おっぱいもそれに呼応して自己主張するかのようにたゆんたゆんと揺れる。
「いえ、とてもそのようには……」
理解に苦しむノルトは話をループさせる始末であった。
「ほら見ろ。魔物猟師には見えねぇんだよ」
エミリーはリリナをジロッと睨む。それからノルトをじとっと見る。
「兄ちゃんも信じられねぇのは解るが、さっきから魔物猟師だって言ってんだから信じたらどうなんだよ」
「はあ。すみません……」
ノルトは項垂れつつ頭を掻いた。何度言われても信じられないものはどうにもならないのだ。
すると魔法結晶買い取り屋の女将がクスッと失笑した。自身はリリナがこんな格好をするようになる前から知っているから疑問に思っていなかったのだが、こんな格好をするようになってからしか知らなければ信じられないのは無理からぬものと思うのだ。だから先まで怒っていた相手であっても同情心が湧き、ちょっとだけ助け船を出す。
「お兄さん。このコ達が魔物猟師なのは間違いないよ。それも飛びっきりのね。この町一番じゃないかねぇ」
「そうなんですか!?」
「勿論さ」
「そうなんですか……」
目を丸くしながらしげしげと小さな布切れを纏っているだけの女性を見る。他意は無かったはずなのに、その身形のギリギリさには色々湧き上がってくる。堪えきれず、目を逸らした。
クスッと笑う声。
「漸く理解してくださったようですわね」
「チッ、何だよ。あたしの言っても信じないのに、おばちゃんが言ったら信じるのかよ……」
「いえ、けしてそんなつもりでは!」
不服そうな少女に向かい、慌てて弁明しようとしたものの、全くその通りだったので続かない。
「……すみません」
「はあ……。まあ、その素直さに免じて今回は許してやるぜ」
エミリーは言った。




