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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第四章 魔王を求めて北へ
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第五十二話

「あんたね、魔物猟師を何だと思ってるんだい! あんたの道具じゃないんだよ!」

 魔法結晶買い取り屋の女将は盛大に腹を掻いた。ぼーりぼーりと引っ掻く音が町中に響きそうなほどだ。いや、そのまんまに腹を掻いているのではなくて怒っている意味だけど。

 ともあれ、怒鳴られたノルトはたじたじだ。腕の良い魔物猟師を雇いたいと相談していて、その際の条件を言った途端にこうなった。

「ボクはけしてそんなつもりでは……」

「じゃあ、どんなつもりだってんだい!」

「それは……」

 どんなつもりもこんなつもりも全て説明した後であり、弁明しようにも同じ話の繰り返しになるだけで、怒りを静めて貰える見込みが無い。むしろ火に油を注ぐだけになるのが目に見えている。だからノルトは言い淀んだ。

 ノルトにも虫のいい話だとの自覚は有るのだ。何せ、報酬が依頼遂行中に倒した魔物や動物の権利だけ、つまりそれらの遺す魔法結晶や皮や肉と言うのだから、ほぼただ働きである。だが、ノルトにも出せないものは出せない。別途十分な報酬を出そうとしたなら、早々に資金がショートしてしまう。長期間が見込まれ、その期間に必要になるだろう食費やゴンドラのメンテナンス費用を差し引いたらもう手持ちの資金は幾らも残らない。無いものは支払えない。

「黙ってないで、何とか言ったらどうなんだい!」

 しかし黙っていたら黙っていたで女将は怒る。途方に暮れるノルトである。

「おばちゃん、何を大声出してんだ?」

「おや? ご無沙汰じゃないか、エミリー。リリナとオリエも……、オリエっ!?」

 オリエを見るなり女将の声が裏返った。

「そ、その格好……、と、とうとう完璧な変態になっちまったのかい?」

「女将までもか! どうして誰もこの女騎士らしさが解らぬのか!」

 オリエは両手を挙げて天を仰いだ。勢い、おっぱいもたゆんと揺れる。女将は窺う視線をエミリーに投げかけるが、エミリーはただ首を横に振る。女将は小さく頷いた。「解る?」「解る訳ねぇよ」「だよね」と言ったところである。

 傍から見ていたノルトは目が点だ。扇情的すぎて無意識に生唾も呑み込む。ごっくん。この音は結構響いたらしい。

 リリナが音の出所を追って視線をノルトへと移す。

「初めて見るお顔ですわね?」

 今気付いたような言い方だが、初めての部分には今気付いたのに相違ない。

 リリナが一歩踏み出せば、オリエ同様にこちらもたゆんとおっぱいが揺れる。ノルトの喉は無意識のままに鳴りっぱなしだ。そのせいで返事をしようにも声が出なくなっている。

 エミリーもノルトを見咎めた。オリエとリリナを見た反応が顕著すぎる。

「どこからどう見ても初めてだな。この町に来たのから初めてか?」

 最初の頃ならいざ知らず、今は町の男達もリリナやオリエの格好にもかなり慣れてしまっていて、ノルトのような青臭い反応はしなくなっている。だから初めてだと判るのである。

「そんで、さっきのおばちゃんの大声もこの兄ちゃんが原因なのか?」

 エミリーはオリエの話を続けたくは無く、さりとてノルトが固まってしまっていて話ができそうにないので女将に話を振った。

「そうそう、そうだよ。もう、聞いとくれよ……」

 女将は未だ嘆き続けるオリエを視線の脇に追いやってエミリーの話に乗った。そしてノルトから聞いたことを話す。魔王を探すからその護衛を雇いたいが、報酬は途中で倒した魔物だけだと言った内容だ。ノルトの話とは若干違っているが、女将の理解がそう言うことだったのだ。

「報酬も碌に払わずに連れて行こうって言うんだよ。だから言ってやったのさ『あんたの道具じゃないんだよ!』ってね」

「ふぅん」

 エミリーは少し違和感を抱いた。倒そうとするのでもなければ魔王を探す意味は無さそうなものだ。しかし、目の前の男はとても荒事ができるようには思えない優男(やさおとこ)である。話が少しおかしい。

「随分気の無い返事だねぇ」

 エミリーがこれと言った反応を示さないので女将も毒気を抜かれてしまった。

 その傍ら。初心な反応が何だか新鮮ですわと、リリナはノルトに興味津々だ。近寄って人差し指でノルトの顎を軽く持ち上げる。ぼーっとしているノルトは為されるがままだ。

「魔王を探すなんて本当かしらん?」

 ノルトは尋ねられてから初めてリリナが近いのを認識し、慌てて二歩後退った。同時に我にも返る。

「ち、違います。探すのは魔王ではありません!」

「じゃあ何を探すんだ?」

 リリナが尋ねる前にエミリーが尋ねた。ノルトは真顔になる。

「魔王の真実です。彼がどうやって生まれて、どうして大崩壊を引き起こしたのか。ボクはそれを知りたい」

「そんなもの、知ってどうする?」

「おかしな言い方ですけど、そうしたら魔王と仲良くなれるんじゃないかと。いえ、そこまで行かなくても、共存はできるのではないかと思うのです」


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