第五十話
まず、町長が発起人になってリリナ親衛隊が結成されたと言う噂が流れた。その翌日には対抗するように警邏隊長が発起人になったオリエ親衛隊が結成されたと言う噂が流れた。
「何であたしのだけ無いんだよ!」
更に二、三日経ってもエミリー親衛隊の噂が流れないのでエミリーは癇癪を起こした。「まあ、まあ」とリリナとオリエが宥めるが、その顔には明らかに優越感が浮かび上がっている。「ぐぬぬ」と悔しげに喉を鳴らすエミリーであった。
実のところ、もっとずっと前からエミリー親衛隊は少人数でひっそりと活動している。夜陰に紛れて集会しては、「今日のエミリーたん」などと報告し合っていて甚だキモい。彼らの当面の目標は、風の噂に聞く映像を記録する装置を手に入れることだ。勿論、それでエミリーを撮して皆で観賞するのである。
斯くの如く、国の情勢などどこ吹く風で、町の住人は呑気なものであった。
ところが、呑気でいられなくなったのがリリナ、エミリー、オリエの三人だ。国から直接、魔王討伐隊への参加を要請された。それも結構強権の発動を示唆されている。「拒否すれば国への反逆と取られかねない」と言った、「誰に!?」と突っ込みたくなる言い回しで。恐らくは世論に押されて仕方なく罪を問うとのポーズを取るためだと、三人の意見が纏まった。町長が無理強いしないと明言していたので安心していたら、町長を飛び越えて要請がやって来た訳だ。
「どうするよ?」
「どうしたものかしらね」
さすがにこの三人でも国を相手に喧嘩などしていられないので困ったものであった。
「町長に相談すれば力になってくれるだろうが……」
「大事になる予感しかしませんわね」
恐らく力を貸してくれるだろう。しかし下手をすれば国を相手に戦争するようなことになり兼ねない。
「ああ。それにこんな変態共を野放しにしてくれてる町の連中を巻き込みたくねぇ」
「失礼な。あたくし達のどこをどう見たら変態だと仰るのですか」
おっぱいをたゆんと揺らしながら、不服そうに顎を斜に突き上げるリリナ。対するエミリーの眉間には皺が寄る。
「どこからどう見ても変態だ!」
所変わって魔物猟師の町の南方では一台のゴンドラが北上していた。魔の森に挟まれた回廊のような場所を抜け、広大な牧草地に差し掛かる。
「見ましたか? 切り株だらけでしたよ」
「ああ。ゴンドラが通りやすいようにしてるんだろうけど、良くやるぜ」
ノルトの問い掛けに、クインクトは小さく首を横に振りながら答えた。
ゴンドラは高度を上げるほど、相応に強くなる風の影響で揺れやすくなる。あまり揺れては墜落の危険も増す。乗員も大変だが、それ以上に積み荷を破損する可能性が高まることが問題になる。高度を下げれば揺れが小さくなるが、下げすぎると地上の出っ張りで座礁する。そのため、通常の高度は歩いている人にぶつからない程度となっている。墜落しても死なない程度と言い換えても良い。
振り返って、魔の森はと言うと、人の背丈の数倍に及ぶ高木も多い。それを飛び越えようとするなら、吹き曝しの風の中を揺られることになる。しかしその木々を切り倒してしまえば逆に風除けになってくれる。
「大崩壊前に有ったと言う街道のようですね」
「それと比べたら昔の人が怒るんじゃないか?」
地面は草ぼうぼうで、とても道路とは呼べないものだった。
「そうかも知れませんね」
ノルトは苦笑した。
牧草地を通り抜ければ目的の魔物猟師の町に着く。目に映る建物は割と新しめだ。
「ここが最古の魔物猟師の村ですか。他の町とあまり違いが感じられませんね」
「そりゃ、建物だって古くなれば建て直すだろうさ」
実際には単純な建て替えよりも、火事で燃えたり、迷い込んだ魔物に壊されたりで建て替えたものが多いが、二人の与り知らぬところである。
「そうですね……」
心情的には古いと言うだけで壊して欲しくないノルトだ。
二人がこの町に来たのは、最古の魔物猟師の町なら自分達が求める人材に溢れていると考えたからであった。




