事情を知っている者の胸が痛んで死。
私は、天才女子大生の倉田麻子だ。
講義の間の時間に、恋人の佐久間吉美に呼び出された。
「はいどうぞ、あーちゃん!」
手渡されたのは、ハート型に包まれたなにか。
「……なんだこれは」
「やだなぁあーちゃん、これはチョ・コ・レ・イ・ト、だよ♪」
「チョコレートだぁ?」
「そうそう。今日はバレンタインデーだからね♪」
「ヴァレンティヌスが殺された日だろ」
「この広い世界、一年中誰かしらは殺されているんだから、そんなの関係ないよっ♪」
「お前の言い方も大概物騒だぞ」
「まあまあそう言わず、食べて食べて!」
「……ったく。……こういうのはな、素人が湯煎すると味が落ち」
「細かいことはいいから♪」
「……まあ、吉美がわざわざ作ってくれた物だ。食ってやるよ」
断る理由も無いから、一口食べた。
「どうかな? どうかな?」
「ああ。チョコレートの味だな」
「えー、それだけー?」
「……ありがとな」
「ん? なに? 聞こえなーい」
「Thank you very much」
「恥ずかしいからって英語で言わないでよ。もー!」
◆
「……ねぇ、午後の講義サボってどこか行かない?」
「……ちょうど退屈していたところだ。付き合ってやる」
「あーちゃんはどこに行きたい?」
「吉美の行きたいところ」
「んー。……じゃあ、遊園地に行きたいなー」
「んじゃ、そうするか」
私は無愛想に答える。私の左腕に両腕を絡ませて身を寄せてくる吉美は、嬉しそうにニコリと笑っていた。