読者の心が萌え死。
「うふふ、私の勝ちね」
「あー! 負けたー!」
「茉胡里、顔に出ていたわよ?」
「えー?」
昼休みの、星花女子学園。その旧校舎の空き教室で、私、黒馬美兎と友人の平菱イアナと愛粕茉胡里の三人でトランプのジジぬきをしていた。私は早々にあがり、二人の戦況をうかがっていた……が、思ったよりも早く決着がついた。
「いやー、たっくさんバレンタインのチョコもらっちったやっふふー!」
そんなとき、もう一人の友人、剣咲安寧が教室に入ってきた。
私達四人は、こうして昼休みにここに集まってトランプで遊ぶのを日課としている。ちなみに全員同い年の中学三年生だ。
剣咲安寧はバッグいっぱいに詰め込んだチョコレートを私達に見せびらかしてきた。
「あら、今年もすごい量ね」
「でも、このあとももらうんでしょ?」
「そーなんだよ。学校が終わってからももらうアテがあるからなー。いやいや、モテる女は辛いねー」
イアナと茉胡里の問いに、安寧は困った困ったというように振る舞っている。あの顔は絶対に困っていない。
「……また他校の愛人からもらうのか。この尻軽女め。チッ」
「いやいや美兎。いつも言ってるけどさ、彼女達は愛人じゃなくて、オ・ト・モ・ダ・チ、だから」
「チッ、嘘つけ」
私の皮肉も、彼女には届かない。まあ、いつものことだ。
「安寧は、今日も誰かを誘うの?」
「今日はバレンタインデーだからなー。甘くてほろ苦くておいしい娘を連れ込もうと思ってる。これぞデキる女の過ごし方!」
「おー!」
「勉強になるわねー」
「茉胡里もイアナも真に受けんな。チッ」
「美兎の舌打ちグセも治らないよなー」
「余計なお世話だ。舌打ちくらい勝手にさせろ。チッ」
「風紀委員がそんな態度でいいのかー?」
「うるさい。指でつつくな。こっちの方が落ち着くんだよ。チッ」
「ほら、今度はみんなで七並べしましょう?」
「おう」
「やろやろー!」
「チッ。……まあ、やるか」
そう言って、私達四人は机を囲むように座った。
……三人が机の上のトランプに視線が向いている間に、持参してきたチョコレートを安寧のバッグに放り込んで。
「じゃ、配るよー」
◆
「ふぇー、負けた負けたー」
「……チッ、今日は安寧がビリか」
「……あら、もうすぐで授業ね」
「それじゃあ、かたづけよっかー」
これが、私達の日常だ。
嫌いじゃない。むしろ好きだ。
……だが。
「あれ、なんかいつの間にか一個増えてる。ミントチョコレートだ」
「知るか。チッ」
………………だからこそ、あいつに気持ちは伝えたくない。
この関係を……壊したくないから。
ずっと友達のままで、いたいから。