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ダーリン、監禁ゲーム(クソゲー)

 ~アキラくんによるあらすじ~


 ナイフを咥えたヤンデレ やってきて

 素足でかけてく 三十路の雲谷うんやさん

 ヤンデレ笑ってる 俺は笑えてない

 ルルルルルル 今日が命日かな?

「アッハッハ、僕、ゲームは苦手だなぁ」

 

 アロハ・カニオ(武器)を構えた俺に対して、鋭利なナイフをもったフィーネは、笑顔のまま室内に踏み込んでくる。


「大丈夫だよ、楽しくて簡単なゲーム」

 

 テーブルにナイフを突き刺した彼女は、笑ったまま言った。


「『ダーリン、監禁ゲーム』だよ」

 

 ゲーム名だけで、ろくでもないクソゲーだということがわかるわ。


「それじゃあ、早速、ルールを説明するね」

 

 参加表明もしてないのに、ルール説明を始めるな。


「ダーリンはこの島のどこかに隠れて、絶対に見つからないように息を潜めるの。参加プレイヤーであるフィーネとウンヤは、ダーリンを探し求めて、この島を彷徨い歩き……先に見つけた方のプレイヤーが勝利。

 敗北したプレイヤーは――」


 月光を浴びた白金プラチナが、潮風になびいて幻想的な煌めきを投影する。


「死ぬ」

 

 金づる同士のデスゲームとか、わくわくすっぞ!!


「つまり、ダーリンは、『生かしたい』プレイヤーに見つかればいいの。逆に『死んでもいい』と思ったプレイヤーには見つからないように努力して」

「なんで、そんなことをするんだ?」

「……呪いかな」

 

 親指に描かれた顔を視たフィーネは、どこか哀しそうにつぶやく。


「フィーネはね、ウンヤに勝たないといけないの。勝たない限りは、〝あの頃〟から一歩たりとも進めない」

「復讐か?」

「違う」

 

 微笑んだ彼女の美貌は、月の魔力を超えて、雲上の天使に至ったかのようだった。


「コレは、〝愛〟だよ」

 

 絶対的な勝利を確信しているかのように、ふたつの夜の女王(アクアマリン)が月明かりの中で瞬いた。


「思えば……彼女ユイを第二婦人として選んだのも……ダーリンを分けてあげてもいいと思ったのも……あの子と〝同時〟に恋に堕ちたからかもしれない……」

 

 第二婦人? なんの話?


「思い出話は終わり。ウンヤがこの島に入ってきた以上、フィーネとの確執は避けられなかったんだよ。

 さ、ダーリン、逃げて」

「いや、逃げるのは良いんだが……俺のメリットはなんだ?」

「え?」

 

 呆けているフィーネを前に、腕組みをしている俺は応える。


「逃げると体力を使うよな? 体力を使ってまでお前らから逃げて、俺に何のメリットがあるんだ? そもそも、楽しくて簡単なゲームとか抜かしてたが、逃げる俺にとっては何が楽しいゲームなんだよ?」

「……フィーネたちに見つからない状態で、一秒が経つごとに100ドル贈呈するよ?」

 

 俺はフィーネの脇を通り抜けて、勢いよく窓から飛び出しながら反転、窓枠を掴んで勢いを殺し着地と同時に受け身をとる。


「えっ」

 

 驚愕で身動きがとれないフィーネの死角をとるために、俺は斜め右方向へと全速力で駆け出し、島の中心部に向けて森の中に踏み込んでいった。


「だ、ダーリン! ちょ、ちょっとストップ!! 今回の趣旨は、ダーリンがどちらを選ぶかっていうことで――」

「2.7時間」

「え?」

 

 闇夜に隠れた俺は、声の方向で位置がばれないように、ゆったりとした動作で移動しながら叫ぶ。


「2.7時間で100万ドルだ。

 現代サラリーマンの生涯賃金の平均は、大卒で定年まで働いたと仮定すると、退職金と合わせて2億7492万円。つまり、2億7492万円を稼いでしまえば、人はそれなりの生活で一生を送ることができる。

 この島に来る前にチェックした時は、1ドル109円だった。そう考えると、100万ドルは1億900万円。5.4時間逃げ切れば、2億1800万円だ。家族をもたない〝俺一人〟で考えれば十分な額面」


 溢れ出る幸福が口から漏れ出て、俺は思わず一人で微笑む。


「5.4時間だ。5.4時間、お前らから逃げ切ってやる。

 契約は守れよ、フィーネ。もし、嘘をついたら、俺はお前のことを嫌う。今後、絶対に愛することはない」

「そ、そんな……だ、ダーリン、それだけは……」

「アーハッハッハッ!! だったら、公言したことは遵守するんだなぁ!!

 じゃあな、フィーネ! 5.4時間後に会おうぜ!!」


 颯爽と走り出した俺は、柔らかいなにかにぶつかって後方に尻餅をつく。


 凄まじい殺気を肌に感じ、嫌な予感をひしひしと感じて、俺が恐る恐る顔を上げると――ソコには、三十路鬼ウンヤがいた。


「よう、桐谷」

 

 悪鬼のような面をした雲谷先生は、年齢という名の壁を感じさせる威圧感をもって、微笑み混じりにこちらを見下ろす。


「せ、先生」

 

 このままでは殴られると悟った俺は、両腕を封じるために先生に抱き着く。


「うぇえ!! 怖かったよぉ!! しぇんしぇい、しゅきしゅきぃ!! しゅきぃ!!」

 

 嘆息を吐いた先生は、大好きホールドする俺を抱えたまま、屋敷の方へとゆっくり歩いていった。

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