エイプリルフール番外編:もってくれよ、心臓!! 最期の最期、究極のヤンデレ!!
~前回までのあらすじ~
最強のヤンデレ屋、『桐谷ママクラブ』を打倒した桐谷彰だったが、その身体は激戦に次ぐ激戦によってボロボロだった。
桐谷ママクラブによる『そもそも、ヤンデレってなに?』という心無い一言により、知恵熱を出したアキラは心臓に爆弾を抱えてしまう……だがしかし、彼は心臓に負荷のかかるヤンデレ創りをやめようとは決してしなかった。だって、ヤンデレが好きなんだもん(本人談)。
そんなある日、彼の店に流浪の一匹狼が訪れる。
「究極のヤンデレを創るのなんて無理よ!!」
暖簾を抜けた先、古びたヤンデレ屋の中に、衣笠麻莉愛の叫び声が響いた。
「いや……俺はやる……究極のヤンデレを創る……鍋を用意してくれ……うっ……!」
アキラが立ち上がった瞬間、心臓が悲鳴を上げて、彼は蒼白い顔をしてその場に蹲る。
「無茶よ!! もう、その身体は、ヤンデレの摂りすぎでボロボロなのよ!?」
「へ、へへ……不思議なもんだよな……ヤンデレって……主人公を独占するタイプを摂取したら、次は主人公の周りの人間を排除するタイプが欲しくなる……その次は、自分が彼と付き合ってると妄想してるタイプが美味しくいけちまうんだからよ……」
「ちょっと、やめてよ!!」
アキラはうろんな目つきでヤンデレ本を読み始め、マリアは必死になってソレを地面に叩き落とした。
「ヤンデレなんて邪道じゃない!! 正道はイチャラブ!! 最終的に、ヤンデレが負けるのは決まってるのよ!! 漫画の歴史が語ってる!! 相棒ポジションの女の子が、勝利確定ルート!!」
「バカヤロォ!!」
「キャッ!」
アキラに突き飛ばされて、マリアはカウンターに倒れ込み、毛髪麺と血液スープで出来たヤンデレーメンを勢いよくひっくり返す。
「ヤンデレは負けてねぇ!! 作者の都合で改心させられたり、邪魔者扱いされて敵対したり、都合の良い当馬になったりはしてねぇんだよ!!」
「あ、あんたぁ……身も心もヤンデレに売っちまったんだねぇ……う、うぅ……!」
泣き崩れるマリア、アキラは舌打ちをして新聞を読み始め――薄汚れた暖簾をくぐる一匹狼の影がひとつ。
「邪魔するぞ」
「今日は、もう終わりだ。帰ってく――」
「ヤンデレをひとつ」
カウンター席に腰を下ろしたジャージ姿の女性は、挑発的に店主を見据えて、人差し指を一本立てた。
「あ、あんたは……!」
「ヤンデレをひとつだ。早くしろ」
ヤンデレ殺しの雲谷――たかが高校教師にしか過ぎない彼女は、数多くのヤンデレ屋を潰してきた〝潰し屋〟として名を馳せていた。
「あ、あんた、帰ってもらったほうが――」
「うるせぇ!! 何が潰し屋だ!! こちとら、究極のヤンデレを創る男だぞ!! 引き下がれるかバッキャロー!!」
ヤンデレ屋の意地をかけ、アキラは黙々とヤンデレを創り――
「……へい、お待ち。『水無月結』だ」
一人のヤンデレを差し出した。
「ほう……」
テーブルに正座する水無月結を弄り回し、彼女の設定ノートを読みふけり、雲谷は腕を組んだまま「フッ」と苦笑した。
「な、なにがオカシイ!!」
「それはオカシイだろう。コレが究極のヤンデレ? 笑わせるな」
「み、水無月結は、序盤から登場数も多いし、メインヒロインとして人気を博し――」
「人気投票3位」
「うっ……!」
人気投票3位。メインヒロインなのに、人気投票3位――その事実は明白なものだったが、ヤンデレ屋店主として、反論のしようは幾らでもあった。
が、アキラは、何も言えずに口をつぐむ。
「どうした? コレで終わりか?」
「ま、まだだ!!」
次にアキラが出したのは、人気投票1位である『桐谷淑蓮』だ。間違いのない売れ線を出すことにより、アキラは精神的な余裕を取り戻し、ゆっくりと味わっている雲谷へと強気に迫る。
「どうだ! 良いヤンデレだろう!?」
「くだらん」
「あ、あぁ!!」
雲谷は、一瞬の躊躇もなく、ヤンデレを窓の外へと放り投げる。
「て、テメ――」
「義妹じゃん!!」
「うっ……!」
実妹か義妹か、そんなことはヤンデレの本質には関係ない。関係ないのだから、ヤンデレ屋店主として、反論のしようは幾らでもあった。
が、アキラは、何も言えずに口をつぐむ。
「どうやら、終わりのよ――」
「ふ、ふざけるんじゃねぇ!! 俺を舐めるな!!」
ドン!! 勢いよく『衣笠由羅』がテーブルに置かれ、雲谷は目を細めてソレを観察し、初めて髪の毛をスープに入れて啜った。
「や、やった!」
アキラは、歓声を上げるが――雲谷は、顔をしかめたまま、大型鍋へと衣笠由羅をダンクシュートする。
「な、何が気に入らねぇんだ!!」
「この髪の毛、ウィッグだろう?」
「うっ……!」
確かにヤンデレーメンに置いて、人工毛髪を用いるのはマナー違反。当たり前と言えば当たり前の話だったが、アキラは『大事なのは、ヤンデレの気持ち』という軽い考えで、人工毛髪にゴーサインを出してしまっていたのだ。
「……今度こそ、終わりのようだな」
「う、うぅ……」
アキラは膝を付き、そんな彼を慰めるようにマリアが寄り添う。そんな光景を見て、雲谷は床に唾を吐いた。
「ふん、似非が……究極のヤンデレなんて、存在するわけがない……」
颯爽と立ち去ろうとする雲谷、しかし、その足がピタリと止まり――背後で、アキラが立ち上がっていた。
「次で! 次で最期だ!!」
「目は死んでいない、か……面白い……」
雲谷は、今一度席に腰を下ろし、アキラは調理を始める。
ヤンデレを創りながら、彼は思い出していた。ヤンデレとの出会いを。
思えば、彼が好きになったヤンデレは、少年漫画の敵役側として登場したキャラクターであり、主人公に付きまとって猛アピールするものの、最終的にはメインヒロインにボコ殴りにされた挙げ句、謎の改心を遂げて自己犠牲の元に散っていった。
ヤンデレとは何か――ヤンデレ歴十七年の彼にもわからない。ヤンデレとメンヘラの区切りも、正直、ハッキリとしない。
しかし、そんな彼にもわかることはある。
「お待ち」
「コレは……」
「俺の集大成、『ヒモになりたい俺は、ヤンデレに飼われることにした』だ」
ヒロイン全員、ヤンデレにすれば負けはない。
「お、思い切ったな……が、ヒロイン全員、ヤンデレは諸刃の剣……扱いきれず、散っていったものは数多い……」
「いいから、食ってみな」
アキラは、腕組みをして言った。
「食えばわかる」
雲谷はヒロインたちの髪の毛をスープに浸し、口に含んでから微笑を浮かべた。
「なるほどな」
「あぁ」
彼女は、優しげな笑みを浮かべ――
「コレ、コメディじゃん!!」
またひとつ、ヤンデレ屋が潰れた(本作品は、誰がなんと言おうと恋愛作品です)。




