日曜日の兄妹合体
「ファインプレイだ、マリア!」
「ま、まぁね!」
電話口にそう叫ぶと、マリアの嬉しそうな声が返ってくる。
「どこの待機列にも、由羅先輩たちがいなかったから、もしかしてと思って……一応、警告しておいて良かったわね」
「偉い! マリアちゃん、可愛い!!」
「え、えへ……ま、まぁ、もっと頼りにしてもいいわよ!」
ガキ向けのラジコンみたいな扱いやすさだな、コイツ。
「それで、次は淑蓮ちゃんと合流するんでしょ? こっちから、あんたの携帯使ってメールで誘導する?」
「あぁ、頼む。
由羅たちが解散して、淑蓮が『アンダーホラー』まで着くのには、大体どれくらいかかりそうだ?」
「大体、3分くらいかしら? ショップエリアからそこまで離れてないし、待ち合わせはアトラクション前でしょ?」
「わかった。何かヤバい動きがあったら、空メールを送って警告してくれ」
「了解」
走りながら、俺は電話を切った。
不気味な洋館をモチーフにしたアトラクション前では、フードで顔を隠した淑蓮が、つまらなそうにスマートフォンを弄っていた。
「……あ」
俺を目視すると、先ほどまでの仏頂面が嘘かのように、全力疾走してきた淑蓮が笑顔で抱き着いてくる。
「お兄ちゃん! 約束どおり、来てくれた!
大丈夫だった? 水無月先輩に、薬漬けにされたりしなかった?」
されてたら、ココにいねぇよ。
「大丈夫だ。安心しろ」
妹は俺にしがみついたまま深呼吸して、それから「いい匂い」と微笑む。
「お兄ちゃんの匂い、すごく安心する」
香水をつけた手首は、ウエットティッシュで拭き取っておいたものの、淑蓮の嗅覚を騙せるか疑問だったが……どうにか、大丈夫だったらしい。
「でも、ちょっと、変な匂いもす――」
「よーしよしよしよし! 良い子で待てて、俺の妹は偉いなぁ!」
誤魔化すために耳の裏やら顎の下を撫でてやると、淑蓮はにへらと笑って全身の力を弛緩させる。
「お兄ちゃんは、シスコンなんだからぁ……あ、そうだ!」
ミニスカートを履いて足をニーソックスで覆っていた淑蓮は、俺の前でフードを取り払い、ショップエリアで購入したらしい猫耳を露出させた。
「どう? 可愛い? お兄ちゃん、私、可愛い? ね~、お兄ちゃん、可愛い~? 私、可愛い~? にゃ~ん、にゃんにゃ~ん」
アホみたいにあざとい――が、兄である俺以外の男性には、クリティカルヒットだったらしく、歩いていた男たちがわかりやすく足を止めて、視線が集まってくるのを露骨に感じる。
「私、お兄ちゃんの猫だよ? 可愛がって! 可愛がって、にゃんにゃん!! 頭、撫でて! 挨拶代わりにキスして! ちゅーして、ちゅー!! にゃんにゃ~ん!!」
挨拶代わりに、去勢したろか?
「いいから、とっとと行くぞ」
「はーい」
当然のように俺の腕を抱え込んで、当たり前のように胸を押し付けてくる。
「興奮しろ興奮しろ興奮しろ興奮しろ……!」
「淑蓮さん、兄妹間では許されない呪文はやめて」
「そんなこと言って、お兄ちゃん、ホントは私にメロメロなんで――」
バイブ音が足に伝わり、アンダーホラーの近くでうろついている由羅が視えた瞬間、俺は淑蓮を抱きかかえるようにして180度回転する。
「ヤバい……由羅がまだいる……淑蓮、一度、離れるぞ……って、オイ」
当たり前のように俺のシャツの内側に潜った淑蓮が、腹筋あたりにちゅっちゅっとキスを始める。
「いや、何してんの?」
「……事故りました」
事故ってんのは、お前の頭だろ。
「フザケてないで、とっとと出てこ――」
「アキラ様?」
由羅の呼びかけに、俺は顔だけで振り向く。
「よ、よぉ、由羅!」
「アキラ様! もう来ていたんですね!」
距離に開きがあり、淑蓮が小柄なせいもあってか、妹の姿は人混みと俺の身体で隠れているらしく、由羅にはこの珍妙な格好が視えていないらしい。
「迎えに来てくれ――」
「そ、それ以上、近づくな」
歩み寄ってこようとする由羅に、俺はハッキリとノーを突きつける。
「な、なぜですか……?」
妹と合体中だからだよ!!
「い、今、ちょっと、汗臭くてな……お、お前に嫌われたくないか……お、うおぉ……!」
胸の辺りに強烈な刺激が走り、俺は思わず声を上げる。
「あ、アキラ様……だ、大丈夫ですか……?」
「だ、だいじょ――お、おぉん!」
どうして、俺は白昼堂々、妹に乳首を吸われて喘いでるんだろう。
「さ、さっきから、変な音が……具合が悪いんですか……?」
「お、おう……さ、さっきから、(妹の頭の)具合が悪くてな……て、テメェ……こ、この野郎……絶対に許さ――ほぉん!!」
先端を甘噛みされて、俺の額からどっと変な汗が流れる。
「ゆ、由羅、お、俺はお前を迎えに来たんじゃない……〝たまたま〟、ココで会ったんだ……勘違いしてもらっちゃ困る……」
意味ありげに周囲に視線を動かすと、由羅はハッとしたかのように顔を上げ、周りを見回してから微笑した。
「……わかりました。残念ですが、迷惑をかけるつもりはありません」
由羅は注意深く辺りを警戒しながら去っていって――俺は夢中で胸に吸い付いている妹を引きずり出す。
「ご、ごめんなさい……が、我慢できなくて……」
顔を赤らめた妹は、口元を涎でベトベトにしたまま、おずおずと謝罪を口にする。
「ご、ごめ――お、お化けはやだ!!」
俺は目の前にある洋館風のお化け屋敷へと、笑顔で妹を引きずっていく。
「待ち合わせ場所にするだけってゆった!! ゆったのにぃ!! ごめんなさぁい!! お兄ちゃん、ごめんなさぁい!!」
始めようぜ、乳首の敵討ち――満面の笑みのまま、俺はアンダーホラーへと入っていった。




