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そして、デートへ……

「実は、俺も『アトロポスパーク』のチケットを手に入れていたんだが……とある事情で、ある人にチケットをゆずってしまってな。

 だから、俺は行けなくなってしまったんだ」

「ある人?」

 

 この対象が〝水無月(みなつき)さん〟であることを、淑蓮(すみれ)は知らない。


 逆に由羅ゆらはそのことを知っており、俺の〝譲った〟、そして〝行けなくなってしまった〟という発言を元に、水無月さんと一緒に遊園地へ行くというわけではないことを察知する。


「久々に会う親御さんと行きたかったらしくてな。俺もそこまで興味があるわけじゃなかったし、ついその場の情に流されて渡してしまったんだ。

 だが、そのチケットは、実は由羅のものでな」


 正確に言えば、〝俺と由羅〟のペアチケットだったが、この物言いでも特に間違ってはいない。間違ってはいないので、由羅からのツッコミも入らず、淑蓮もそれを信じざるを得ない。


「俺が行けないのは問題ないが、心待ちにしていた由羅が行けなくなったというのは、さすがの俺も心苦しい。だからな、淑蓮。お前と由羅とで、一緒にアトロポスパークを楽しんで来てくれないか?」

 

 半ば強制的とは言え、淑蓮は、俺の前で由羅と楽しそうに時を過ごす場面を幾度も見せていた。

 

 だからこそ――


「今日の二人は、姉妹みたいで相性がすごく良さそうだったし、特に何の問題もないよな?」

 

 この言葉は、絶対に刺さる。


「で、でも! お、お兄ちゃん、さっき、淑蓮と一緒に『アトロポスパーク』でデートしてくれるって!」

「言ったぞ。

 だから、〝グランドオープンしたら〟一緒に行こう」


 淑蓮は愕然がくぜんとして――ピンク色の唇を噛み締めた。


「今度の日曜日って言った!」

「あぁ、〝今度の〟な。別に〝来週の日曜日〟なんて、言わなかったろ? それとも、淑蓮は、お兄ちゃんと一緒にアトロポスパークに行きたくないのか?」

 

 まんまとはめられたことがわかったのか、淑蓮は悔しそうに歯噛みしてから、〝ご褒美〟へと変化した遊園地デートのために「それでいいよ、もぅ」と納得した。


「あ、アキラ様……ぼ、ボクは――」

 

 俺は由羅にだけ視えるように、表記を隠して〝ペアチケット〟を見せつけ、それから人差し指を唇に当てた。


「よし。なら、これで決定だ。

 淑蓮がペアチケットを手に入れたら、俺の方から由羅に連絡を入れる。というか、由羅には一度謝らないといけないな」


 由羅の腕をそっと掴んで、俺は淑蓮から距離をとり、謝っているフリをしながら胸元から〝ペアチケット〟を取り出す。


「実はな、由羅。水無月さんにペアチケットを譲った後、とある経緯いきさつでシングルチケットを手に入れてたんだ」

 

 指で〝ペアチケット〟の記載を隠し、俺はコソコソと由羅にささやく。


「だから、遊園地に入ったら、俺と合流することにしないか? お前は淑蓮と入場して、人混みではぐれたことにすれば良い。そうすれば、やきもち焼きのアイツも、諦めて大人しく家に帰るだろ?」

「え、えっ……じゃ、じゃあ……?」

「あぁ、遊園地デートは日曜日、予定通りに行おう。

 淑蓮には悪いが、元々、そういう予定だったしな。あ、でも、淑蓮には絶対バレるなよ? アイツはブラコンだし、下手すれば、俺とお前のデートを邪魔してくるかもしれないからな」

「わ、わかりました……み、水無月結の件は……そ、そういう事情だったんですね……あ、アキラ様は、なんとお優しい……」

 

 もうこれ以上、俺の株は上げないで。

 

 和解し終えたという素振りを見せ、俺と由羅が淑蓮たちのところにまで戻ってくると、唖然(あぜん)としていたマリアがこっそりと身を寄せてくる。


「ね、ねぇ、ど、どういうこと? あんたの妹とは、本当に後で遊園地に行くことにしたの?」

「いや、由羅と同じ手を使って、予定通り、日曜日に行くつもりだ。三人同時デートを行わないと、不満を抱えて、探りを入れてきた淑蓮にバレる危険性が高い」

「由羅先輩と同じ手でって――」

 

 俺が胸元のペアチケットを見せると、マリアは驚きで目をしばたかせる。


「それ、水無月結に渡してなかったの?」

「当たり前だ。一緒に行くことになったんだから、数少ないアドバンテージまで、ヤンデレに渡してたまるか」

 

 このペアチケットをシングルチケットに見せかけて、当日に由羅、淑蓮、それぞれと合流するというシナリオを話すと、マリアは奇妙な笑い声を上げて「あんた、何者?」と引きつった笑みを浮かべる。


「三人同時デートまで行き着くわけがないと思ってたのに、あっさりと前提条件クリアするなんて……信じられないわよ、あたし。

 そもそも、どうやって、妹の方から遊園地デートを誘わせたわけ?」

「母親に『最近、アトロポスパークって遊園地が出来たらしい。プレオープン、家族で行けたらいいな』とメールを送っただけだ。

 あの人はレスポンスが異常に速いし、そう言ったチケットの手配について、まず相談するのは淑蓮だ。相談された淑蓮はチケットを手配しようとするだろうが、家族全員分を用意するのはさすがに無理。無理でなくとも、ペアチケットを入手して、俺との遊園地デートに漕ぎ着けるだろうと予測した」


 マリアは、乾いた笑いを上げて「で、ことごとく的中したわけね」とつぶやく。


「三大ヒモ原則のニだ。

 相手の気持ちを考えて、最善の手を打つ……その相手が、ヤンデレであろうとな」

 

 作り終えた長文のメールを送信すると、淑蓮は満面の笑みでこちらを振り返り、俺の携帯に『日曜日、楽しみにしてるね♡』というメールが届く。


「舞台は整った」

 

 俺は、水無月さんあてに、新しいメールを作成する。


「始めようぜ、三重の遊園地(地獄の)デート……!」

 

 送信が終わった後、コンマ秒で、日曜日のデートへの意気込み(文量オーバー)が届けられ――戦い(デート)の火蓋が切られた。

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