クズで良いから!! ホントにクズで良いから!!
衣笠由羅 ⇔ 衣笠真理亜(衣笠由羅のイマジナリーフレンド)
:肉体を共有しており、黒髪あるなしで人格交代を起こす
衣笠麻莉愛(本編では、マリアと呼称):現実に存在する、衣笠由羅の後輩。衣笠由羅のイマジナリーフレンドと同姓同名。桐谷彰が、友だちとして彼女に紹介した。
「……ようやく思い出した。あの時の女の子か」
水無月さんはボソリとつぶやいて、衣笠を拘束から解き放つ。
「せっかくの〝後輩からの親切〟、無駄にしちゃったんだ……可哀想に」
「え?」
「下駄箱、見ればわかるでしょ? アキラくんが登校してたかしてなかったくらい」
愕然として、衣笠はゆっくりと目を見開いた。
「まさか……そんな……手紙、読んでなかったの……?」
「いや、読んだ」
「〝ゴミ箱の中〟にあったのを拾い上げて、細切れになったのをわざわざ修復したんだよ! お兄ちゃん、家にまで行ったのに! 『来てくれなかったの』~じゃないよ!」
あ、マズいわ。嫌な流れを感じるわ。
「ど、どういうこと?」
「手紙を入れるなら、自分でやりなさいって話」
ため息を吐いて、水無月さんは首を振る。
「実際は心のなかで猛反発してた後輩に任せたら、そういう結果になるとは思わなかった?」
立ち上がった衣笠は、あまりの衝撃によろめいて――落ちている黒髪をつけて唖然とする。
「ぼ、ボクは……だ、だって、真理亜は……い、家にまで来てたなんて、し、知らなかった……!」
「落ち着け、由羅。クールダウンしろ。好きなお菓子、100円までなら買ってやるから」
聞く耳をもたないのか、彼女は頭を抱えてブツブツと呪言を放ち始める。
「わかった!! 150円まで買ってやるから!!」
「お兄ちゃん、値段の問題じゃないと思うよ」
嘘だろ?
「う、裏切られた……と、友だちだと思ってたのに……う、裏切り者……しゅ、粛清だ……粛清だ……!」
急に走り始めた由羅に反応し、この場からの離脱も兼ねて、俺は全速力で追跡を開始する。
「ね、アキラくん」
俺の全力疾走に涼しい顔でついてくる水無月さんは、ニッコリと笑う。
「手紙をゴミ箱に入れたのは、あの後輩の女の子……なら、手紙を細切れにしてあげた功労者はだーれだ?」
「水無月結!!」
「当たり! せっかく読めないようにしてあげたのに、アキラくんったら、勘が良いんだもん!」
ご褒美に、溶鉱炉に沈めてやろうかな。
「ね、お兄ちゃん、放っておいたら? 詳しい経緯は知らないけど、あっちが勝手にお兄ちゃんに好意を抱いて自爆したんでしょ? どうして、お兄ちゃんが悪いことになるの?」
「俺が悪者のほうが、丸く収まったからだよ!!」
お陰様で、死亡確率上昇キャンペーン実施中!!
衣笠を追いかけて辿り着いたのは、俺が彼女にまんまと騙されてやって来た一般住宅だった。
「ど、どうして、ぼ、ボクを裏切ったんだ……!」
「あぁ、やっぱり、わたしをつけてきてた信者か……どこかで見たことがあると思った」
ゆったりと腰掛けて、由羅と対峙しているマリアは、こうなるとわかっていたかのように泰然自若として構えている。
「桐谷彰が――」
アキラ教の信者を装っていた彼女は、憎悪の篭った視線で俺を射抜く。
「クズだからですよ!」
「はぁ?」
みっつの返答が重なって、擁護されている俺は、もう死ぬんだろうなと思った。




