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疑惑のお家へGO

水無月みなつきさん、ポニーテール似合うね!」

「ありがとう」

「どうして、急に髪型、変えたの?」

「……なんででしょうね?」

 

 放課後、隣の席で雑談を行う水無月さんから、手足を絡め取ってくるような視線を向けられ、俺はそそくさと立ち上がる。


「アキラくん」

 

 誘導ゆうどうミサイルかよ、コイツ。


「どこに行くの?」

 

 受け答えの度に生死がかるから、疑問系を発しないで欲しい。


「とりあえず、雲谷先生うんやせんせいのところへ。それから……気になることがあるんで、ちょっと友人の家に」

衣笠真理亜きぬがさまりあ?」

 

 廊下で立ち話しているだけだというのに、既に噂話をされている彼女は、愛らしい顔立ちを不満そうに歪ませる。


「ダメ、絶対に行かないで。

 わたしの〝お仕置き〟、まだ身に染みてなかったの?」

 

 お仕置き? え、俺、知らずに何かされてんの?


雲谷先生うんやせんせいだって……危険人物かもしれないのに……」

 

 危険人物は、お前じゃい!!


「忠告は有り難いんですけど、アイツに疑惑をいだいたままっていうのもスッキリしないんですよね」

「そこまで、彼女に興味があるの?」

 

 はたから聞いていれば、恋人同士の痴話喧嘩であるが、俺からすると生存択一(せいぞんたくいつ)ゲームである。


「いや、欠片(かけら)もありません。ただのです。

 でも、ヤツに大事な物を盗まれたので、取り返さないといけないんです」

「大事な物?」

「ゆいの写真です」

 

 数秒間沈黙した後、水無月さんが急激に赤みを帯びて、両頬を手で覆い「う、嘘……」とささやいた。


「で、でも、そ、それが本当だとしても、ゆ、ゆいが取り戻すよ……あ、アキラくんは、ダメ……」

 

 お、()いてるいてるぅ!


「これでも、俺、男ですから……大事な人の写真、取り戻そうと思ったら……ダメ、ですか?」

「だ、ダメだよ……」

 

 水無月さんを壁に追い詰めてささやくと、恥ずかしそうに目線を逸した彼女が、ちらちらと俺を瞥見べっけんする。


「ぜ、絶対、ダメ……」

 

 なんで、目を閉じるの?


「大丈夫。危険なことはしませんし、直ぐに〝ゆいの元〟に帰ってきますから。

 それに、いざという時は、助けに来てくれるんですよね?」

「う、うん……」

 

 唇を突き出すな。

 

 とりあえず、了承(りょうしょう)はとったものとしてその場を離れ、目を閉じたままキスを待ち望むお姫様(ヤンデレ)を放置し職員室へと向かった。




 結局、雲谷先生による生徒指導は、有耶無耶(うやむや)のままで終わり(俺と衣笠の供述きょうじゅつが噛み合わない)、彼女に先導せんどうされて、俺は衣笠きぬがさ真理亜まりあの家へとおもむく。


「ココがあたしの家だよ」

「ふ~ん」

 

 一般住宅、マイナス100ポイント。


「上がって上がって」

 

 植木鉢の底にある鍵を取り出し、衣笠は扉を開けて、自宅へと招き入れてくれた。手早てばやく靴を脱ぐと、俺の手を引っ張ってリビングまでいざなう。

 

 リビングには使用感のある小さめのテーブルがあり、壁に隣接している箪笥タンスの上には家族写真が立てかけられていた。数ある調度品ちょうどひんには、少なくともひとつは傷がついていて歴年れきねんを感じさせる。


桐谷きりたに、何か飲む?」

「温かいお茶で……トイレ、借りてもいいか?」

「あぁ、うん。どうぞ」

 

 俺は廊下に出て、忍び足で階段を上がり、見当(けんとう)をつけて『衣笠の部屋』の扉に手をかける。


 既に証拠隠滅(しょうこいんめつ)はかっているとしても、彼女が〝ヤンデレ〟であるならば、何かしらの〝隠しきれない〟証拠が残っているかもしれない。

 

 よし、開け――


「桐谷」

 

 背後から声が聞こえ、俺が振り向くと、笑顔の衣笠が立っていた。


「トイレ、そこじゃないよ?」

「……間違えたんだ」

 

 なんで、足音消すの? 忍者なの?


「いいよ、誤魔化さなくてさ……あたしの部屋、興味あるんでしょ?

 ほら、視ていいよ」


 そう言って、衣笠は扉を開け放ち、何の変哲へんてつもない女の子の部屋が現れる。


「ど、どう? なんか変?」

 

 自分の部屋を見られる気恥ずかしさで、身動(みじろ)ぎしている彼女を見てホッとした。さすがに、俺の考え過ぎだっ――(かざ)られている家族写真を見つけ、頭の中にアラームが鳴り響く。


「あ、あの、衣笠、さん?」

「なに?」

 

 押さえつけるようにして、俺の両肩に衣笠の爪が喰い込む。


「間違えだったら、アレなんですが……」

 

 振り向かされた俺の視線の先では、衣笠の後ろに立っている黒尽くめの少女が、長い黒髪で顔を覆い隠していた。


「どうして、家にある〝全て〟の家族写真に、アナタが〝一枚たりとも〟映ってないんでしょうか?」

「ココが、あたしの家じゃないから」

 

 微笑びしょうした衣笠は、俺にささやく。


「黙って付いてきてくれるよね、アキラくん?」

 

 両手を挙げて、俺は愛想(あいそ)よく笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] この小説は「安地ゼロ!味方ほぼゼロ!ハードモードの世界を生き抜け!」みたいな話だと認識した方がまだ脳が理解できそうだ、と思った。 まともなひと…どこ?
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