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婚約破棄できなかった悪役令嬢でもないアラサー物書きの末路

作者: 燐紅


「結婚する相手は、お前しか考えられない」



 あなたはそう仰ってくださいました。なので、私達は婚約しました。


 憧れていたプロポーズは、安くさいラブホテルの一室でした。


 ご大層な身分でも何でもない私にとって、どうせシチュエーションまでこだわることなんておこがましいと思っていたのです。



「世界中の誰よりも、お前を愛している」



 そんなお言葉は、どんなおとぎの国の王子の台詞だったことでしょう。


 私はというと、あなたより好きな人はいくらでもおりました。


 あなたが私に惹かれてしまったせいで、私の想いを拒んだあの御方に関しては、未だにお慕いしているほどです。


 どうしてあなたは、私がよかったのでしょう。


 どうして私は、あなたでよかったのでしょう。



「お前以外を好きになるなんて絶対にない」



 そう仰ったあなたは、私と恋人になり契りを交わしてからお付き合いされた方々に、好意を抱いていなかったのでしょうか。


 愚かしいあなたに惹かれてしまう女性が何故そんなにも身近におられるのか、不思議でなりませんでした。



「必ず幸せにする。絶対に泣かせたりしない」



 そのお約束だけは、確かに叶えられました。


 あなたが隣にいない今、私はとても幸せです。


 あなたに散々泣かされてきた私は、あなたから解放されて以来泣いてません。







 こんなお話はいかが?


 あなたと婚約して、あなたを一途にお慕いしていた従順な私。


 そんな私が、あの御方の純潔を奪うの。


 そう。あなたの目の前で。


 とても素敵じゃございませんこと?


 私がどれほど愚かしい女か。お二人の前でしっかりと示していたら。


 彼はきっと心から私を疎んで、私から遠ざかっていったことでしょう。


 そしてあなたは、私を失望と軽蔑の眼差しで見るようになったことでしょう。


 そうやってお二人へのしがらみから解放されていれば、私はもっと早くに自由の身になれたの。


 ああ……とても愉快よ。愉快だわ。


 そんな風に悪役に徹してさえいれば、私はこんな不幸な未来を迎えずに済んだのよ。


 誰かを傷つけることさえ厭わなければ、私だけが幸せになれたのよ。


 いずれ私を深く傷つけるあなたは、そうなれば間違いなく婚約を破棄したことでしょうから。


 ああ……笑いすぎたせいよ。


 涙が止まらないのは。







 あの日。あなたが恋人を連れて、私に別れを告げた日。


 あなたは、気付いてらした?


 あなた方の前で悲しみに暮れてみせた私が、本当は少しも泣いてなかったことを。


 だって、滑稽で仕方なかったんですもの。


 こんな醜い女を選んだあなたが、あまりにも哀れで。


 そんな醜い女にも劣ることを示された私が、あまりにも無様で。







 あれから、ようやく一年です。


 あなたに想いを寄せていたことなんて、ずっと遠い過去に感じておりますのに。


 今日は私の、独立記念日。


 盛大な花火でも、あなたと恋人にぶち込んで差し上げましょうか。

私には好きな人がいました。とある男性に、その人について恋愛相談に乗ってもらっていました。そのうち相談相手の男性は私に好意を抱くようになり、それを正直に告白してきました。色々あって、私は好きな人を諦めて彼と交際し、結婚しました。

そんな彼と離婚したのが一年前の今日です。まだたった一年しか経っていないのか、と感じているのが正直なところであり、このようなお話を思いついて書き上げた次第です。


この私の実体験に基づいた小説「涙の魔法 -彼女の終わりと恋の歌-」の完結を今日に合わせる予定でしたが、あまりにも作品に愛着が湧きすぎて筆が慎重になりすぎてしまい、独立記念のお祝いには間に合いませんでした。なので流行りの(?)悪役令嬢とやらになったつもりで書き上げたこの作品を以て、私が自由の身になった日を勝手に祝うつもりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実体験とは…… なんか愛の虚しさを感じられましたね…… 俺、やっぱ恋なんて絶対にしないようにしよ
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