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「ふむ。どうやら妾はお主にテイムされたということのようじゃな」
「いや、俺はフェルネをテイムしたんだが? どうして弥生とやらの名前になっている?」
俺は現状を理解できずにいた。
「もしかして、お主の言うフェルネとは妾の片割れのことかの?」
片割れか・・・
俺はフェルネ改め弥生はいわゆる多重人格的なものなのだろうと考えた。
「1つ聞いてもいいか?」
「もちろんじゃ」
「この事をフェルネは知っているのか?」
「わからぬ。妾が知ったのは偶然が重なったからじゃ。片割れが知っているとは思えん」
「そうか」
「そんなことよりも、お主はどうやらこの家に用事があったのではないのか?」
弥生に指摘され思い出した。
「そうだな。用事と言うか、この家を借りるような状態だがな」
「そうか。ならば入っても問題はないのであろう? 入らぬのか?」
「いや、いままで忘れていた。じゃあ、入るか」
「そうじゃな」
俺たちはそう言いながら、アクタの家の中へと入っていった。
中に入ると、リビングにあるソファーに向かい合って座った。
「で、色々聞きたいことがあるんだが、大丈夫か?」
「もちろんじゃ」
「なら、遠慮なくいかせてもらうぞ。まず、弥生、お前は何者だ。なぜこんなことになっている。フェルネとの関係はなんだ」
「やはりこの質問が来たか。まあいいじゃろう、その前にまともな自己紹介もまだだったの。妾は弥生、お主らで言うとろの金毛九尾の狐じゃな。これから長い付き合いになりそうじゃ。よろしく頼むぞ」
弥生はそう言って手を差し出してきた。
俺はその手を取り、握手を交わす。
「わかった。俺はリクだ。冒険者でヒーラーを目指している。副職で生産職を目指している。よろしくな」
俺が自己紹介をすると、弥生は「うむ」と言って手を離した。
フェルネの手、柔らかかったな。などと考えていたことは絶対に言えない。
「で、質問に対する説明じゃが、先ほども言ったように妾は金毛九尾の狐じゃ。片割れ、フェルネと言ったかの?」
「ああ」
「あやつとはこの体を共有しているにすぎない。お主ら風に言うステータスとやらも別々じゃな。もっとも、ステータスは妾達の中では能力値と呼ばれておるがな」
「じゃあ、フェルネと弥生は別の人物と言うことか?」
「そういうことじゃな。まあ、人物と言うのは少しおかしいがの」
弥生はそう言って笑った。
ひとしきり笑うと落ち着いたようで、また話始めた。
「ふぅ、次の質問はなんじゃったかの?」
「ああ、わからないのは、なぜこんなことになっているのかと言うことだけだな。確認だが、フェルネとの関係は、弥生が一方的に知っている体を共有しているもの。であっているよな?」
「ああ、そのようにとらえてもらって構わぬ」
「そうか」
「なぜこんなことになっているのかと言う質問に対してじゃがな、それは妾にもわからぬ」
「え?」
「どうしてこんなことになったのかはわからぬと言っておるのじゃ。これ以上は説明のしようがないからの、この答えで勘弁してくれぬかの」
弥生がとても真剣な表情で言ってきた。
「わかった」
「うむ。感謝するぞ。さて、妾からもお主に聞きたいことがあるのじゃが、いいかの?」
「どうした?」
「片割れとはどうやって知り合った。もしやおかしな方法で契約をしたのではあるまいな」
弥生はグッと顔を近づけて言ってきた。
「だっ、大丈夫だ。フェルネが俺に連れて行けって言ってきたんだよ。だからこうなってるんだって」
「そうか。安心したぞい」
弥生は顔を戻し、ソファーに座り直した。
「時にお主はなぜそのようなしゃべり方をしておるのじゃ?」
「ああ、この話し方のことか。俺はこんな格好をしているが男なんだよ。だから直す気はない」
「そうなのかの? もったいないのぉ。これだけの美人なら口調を変えるだけでも、人気が出るじゃろうに」
「そんなこと言ったら、お前らだってそうだろ?」
「そうかの? まあよい。世の中には色々な者がおる。少しくらい違っても問題はないじゃろ」
弥生はそう言うと、ソファーにもたれかかりくつろぎ始めた。
こんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
次回の更新は6月1日午前9時です。