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「い、いや、戻った方がいいかな~、って思っただけだよ?」
フェルネは俺から目を逸らしながら言った。
あやしい。
俺はそう思った。フェルネはなにかに怯えるような状態だった。たぶん隠そうとしているのだろうが、残念ながら隠しきれていなかった。
「どうしたんだ?」
「なんでもないよ?」
「いや、なにかあっただろ」
「ぜ、全然? 転移台が怖いとか思ってないよ?」
「そういうことか」
「あっ!!」
フェルネが頬を膨らませ、むー、と唸っているが、そんなことは気にしない。どうやらフェルネは、転移台の水溜まりのようなものが怖いらしい。水が嫌いなのだろうか。一度使ったなら怖くなると思ったのだが、どうやら違うらしい。
「フェルネは水が怖いのか?」
俺は気になって、直接聞いてみた。すると、フェルネは睨んでいた顔を素早く他の方向に向けた。
それから3分ほどフェルネを見続けていると、観念したように肩を落とし、話始めた。
「わかったよ。話すからそんなにまじまじと見ないで・・・」
「あ、悪い」
俺は少し恥ずかしくなり、視線を移した。移す直前に見たフェルネの顔が少し赤くなっていたのは、きっと気のせいだろう。
「わたしは小さい頃にねお母さんと湖に行ったことがあるの。その湖は魔物がいないから泳げるって有名で、わたしもお母さんと泳いでたんだよ。そこでお母さんと泳ぐ競争をしたら、足がつっちゃってね、溺れたんだ。その時は他の人が助けてくれたんだけど、この出来事のあとから、水のなかにはいるのが怖くなっちゃったんだ」
「そうだったのか・・・」
「お風呂とか、それまでに使っていた物は大丈夫なんだけど、それ以外が怖くて泳げなくなったんだ」
フェルネは話終わると、少しだけ笑った。きっと俺に気を使ってのことだったのだろう。
「わかった。そんなことなら先に言ってくればいいのに。
なあフェルネ、転移台まで行ってから戻るようにしないか?」
「それでもいいけど、いいの?」
「もちろん」
俺は笑顔でそう返した。
「わかった。そうする」
そう言うと、また歩き始めた。
10分ほど歩いてくと、転移台の前に着いた。
転移台は予想外なことに、門を潜って使うようになっていた。
まともな台はないのかよ・・・
俺はついそんなことを考えてしまった。
「よかったなフェルネ。今回は水溜まりじゃないぞ」
俺がそう言うと、フェルネは笑顔で
「うん!」
と言った。
「じゃあ、行くか」
「そうだね! 早く戻ろ!」
「あ! フェルネ!」
フェルネは俺を置いてさっさと転移台を潜ってしまった。
「ったく。慌ただしいやつだなぁ」
俺はそうぼやきながら、フェルネを追うように転移台を潜った。
こんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
次回の更新は5月30日午前9時です。