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子育てやくざ  作者: 朱里
4/12

愛華と海

愛華ちゃんが珍しく自分の欲求を出す話。新しいキャラが出てきます!

「ぷーる」


 愛華が突然発した声に、その場にいた蓮次、秀二、雅人の三人が愛華を見た。急に皆に見られて少し緊張した愛華は、しかしはっきりと言った。


 「ぷーるに行ってみたい」

 「プールそれは愛華ちゃんつまり水着を着るという俺へのプレゼン―――」

 「うるせえ」


 暴走しかけた雅人を制したのは、例のごとく蓮次だ。黙った雅人の代わりに、蓮次が聞く。


 「愛華、プールってあの、あれか。泳ぐとこか」


 愛華はこくりと頷いた。学校の授業で初めてプールというものを体験して、楽しかったので是非皆と行きたいと思ったのだ。愛華の目は珍しく爛々としている。その明らかに期待した目に、蓮次と秀二が少しばつの悪そうな顔をした。そんな二人の代わりに、雅人が言う。


 「あー…愛華ちゃん、プール行くなら、必然的に俺と愛華ちゃんだけになるんだけど…」

 「?」


 何で、と言いたげに、愛華は首を傾げる。愛華は、三人と一緒に行きたいのだ。雅人が続ける。


 「組長と秀二な、刺青あるじゃん。刺青分かる?」

 「…体に、模様がいっぱいの?」

 「そうそうそれ。秀二なんかああ見えて全身に入ってるしな。刺青あったら、プール入れないんだよなぁ」


 雅人がじろりと二人を睨むと、二人は同時に明後日の方向を向いた。目を合わせようとしない。


 「……そうなの…」


 愛華が目に見えて落ち込んだ。蓮次と秀二は一抹の罪悪感を覚える。二人は顔を寄せて、こそこそと話し始めた。愛華に聞こえないように、声のトーンを落とす。


 「…おい、どっか刺青あっても行けるプールとかねえのかよ」

 「このご時世にそんなとこあるわけないじゃないですか馬鹿ですか。もう雅人と二人で…」

 「お前ふざけんなよ愛華の身の危険を顧みろ」

 「じゃあ刺青消すんですか?俺は嫌ですよ入れるのより痛いんで」

 「薄情者め…」


 結果、何も決まらなかった。愛華は泣きこそしないものの、俯いて落ち込んでいる状態は続行中だ。そこで蓮次が、ぴんと閃いた。


 「そうだ、愛華。海なんてのはどうだ?」


 愛華が、ぱっと顔を上げた。目に明るさが戻っているのを見て、蓮次も秀二もひとまずほっとした。雅人が、ナイス、と言うように親指を立てた。


 「うみ…魚、いる?」

 「さっ、」


 魚か、と蓮次は悩む。愛華が行ける範囲に果たして魚はいるだろうか。

 そして、目で雅人に合図をした。


 (いざとなったら捕りに行け)

 (了解)


 「そうだな魚もいるかもしれないな」

 「行きたい!」


 愛華が椅子から立ち上がって声を上げた。目は先程のきらきらしたものに戻っている。


 「…海行くのはいいんですけど」


 そこで声を挟んだのは、秀二だ。安心したと同時に、いつものごとく冷静になったのだろう。核心を突いたことを言った。


 「愛華、学校用のスクール水着しか持ってないですよね。それで海行くんですか?」


 あ、と、蓮次と雅人が同時に声を上げた。愛華は首を傾げる。


 「海、あれじゃだめなの?」

 「だめって言うかむしろ捨てがたいんだけど、せっかくだからやっぱこう、できればちょっと際どい―――

 「うるせえ」


 蓮次の肘鉄が雅人の鳩尾に決まる。蓮次は気を取り直すと、愛華に向き直った。


 「愛華の水着をまずは買いに行かねえとなぁ」


 海には暇があればいつでも行けるが、できればその前に水着は買っておきたい。時計を見る。午後二時だ。


 「誰か手ぇ空いてないか?」

 「まさしく今組長の手が空いてるじゃないですか」


 秀二に指を差され、う、と声を詰まらせる。愛華の買い物に付き合うのは構わないんだが、服と違って、水着は、こう、普通『お父さん』的立ち位置の人とは買いに行かないんじゃないのか。


 「…誰か女装似合う奴…」

 「全員身長180超えてるのにそれは無理じゃないッスか」


 今度は雅人にすら正論を言われる。愛華を見れば、不安そうな目で蓮次を見ていた。…ああ、くそ、と蓮次は覚悟を決める。


 「…相当な羞恥の目を覚悟して行くか」

 「しゅうち?」

 「何でもない。よし、愛華。今から水着買いに行くか」

 「うん」


 ***


 「愛華はどんな水着がいいんだ?」

 「…みずいろの」

 「水色か」


 やっぱり愛華は水色が好きだな、と言うと、愛華はこくりと頷いた。どんなものがいいか、と想像してみるが、何も思い浮かばない。…やっぱりこういうのは、雅人が適任じゃないか。いや、早まるな、と自分を律する。


 そんなことを考えながら歩いていると、水着が売っている店に着いていた。あぁ、知り合いがいませんようにと願う。


 一歩躊躇って諦めて中に入ると、やっぱり店員に二度見された。視線がうるさい。だから誘拐じゃねえって。


 愛華はその視線には気付かず、店内を進む。もうこの際視線は無視して、愛華の歩幅に合わせて歩いた。

 愛華はいろいろな種類の水着を見る。主に手に取るのは、水色の物だ。


 「れんじ」

 「お?」

 「これ、にあう?」


 そう言って愛華が、ハンガーを持って自分に当て、蓮次に見せた。愛華が持っていたのはやはり水色の物で、上下に分かれており、胸元は水着の上に可愛らしいフリルが付いていて、ズボンの方は、見た目はジーンズのようだった。


 …ちょっと露出が多い気もするが。


 「まぁ、いいんじゃねえか?」


 愛華が気に入った物を買うのが一番いいだろう。


 そこで、ふと組を出る前に雅人に言われたことを思い出した。


 ―――ちゃんと試着させるんスよ!


 …あぁ、忘れてた。


 「愛華、水着一応、試着しとくか」

 「うん」


 愛華を試着室に連れて行って中に入れ、外で待つ。傍にあった長椅子に腰かけると、スマホを見た。すると、メールが入っているのに気付いた。秀二からだ。


 『金持って行ってますか』


 こいつどんだけ俺が馬鹿だと思ってんだ。


 持ってるに決まってんだろと返したが、少し心配になって財布を覗く。ほら見ろ入ってるじゃねえか。


 そんなことをしていると、試着室の中から愛華の呼ぶ声が聞こえた。


 「お、着れたか?」

 「着れた」


 愛華がカーテンを開けようとしたので焦って止める。前回は駄目だろ。

 気を取り直した少しだけ開けて中を覗く。サイズはちょうどいいようだった。


 「ぶかくないか」

 「ぴったり」


 そうか、と言うと、愛華を元の服に着替えさせるためもう一度カーテンを閉めた。少し待って水着を持って出てきた愛華を連れてレジに向かうと、会計をして外に出る。


 とりあえず、第一関門突破だ。蓮次は一息吐いた。


 ***


 「ただいま」


 愛華が組の応接室に入り、言った。おかえりー、と雅人が返す。


 「愛華ちゃんどんなの買った?」

 「これ」


 愛華は嬉しそうな顔で、雅人に水着が入った紙袋をぐいぐいと渡した。雅人が中を見て、声を上げる。


 「おー、可愛いじゃん!これは速く海に行って水着姿を写真に」

 「うるさい、雅人」


 今度雅人を制したのは、秀二だった。後ろから軽く雅人を殴ると、紙袋を取る。洗っときます、と言って、洗濯機がある方へ消えた。


 「ほんとあいつ主夫な」

 「ですよねぇ」


 万が一にも秀二に聞こえないように、こそこそと言う。聞こえたら最後どうなるか、愛華以外は知っている。


 少しして戻ってきた秀二が、そういえば、と言った。


 「海って、どこの海行くんですか。海水浴は開いてますけど、海水浴場なら刺青禁止のところもありますよ」

 「それはあれだろ、恭四郎に頼めばいいだろ」


 蓮次が言った、恭四郎、という単語に、雅人が反応した。


 「げ、恭四郎⁉嫌ッス絶対嫌ッスよ!あいつの世話になるのだけは―――」

 「愛華のため、愛華のため」

 「…くううううう」


 頭を抱える雅人を見た愛華は、何事かと首を傾げる。恭四郎という単語が出た時点で話が分からなくなっていたのだ。


 「しゅーじ」


 愛華は近くにいた秀二に聞こうと話しかけた。


 「何だ」

 「きょうしろう、って?」

 「あぁ…」


 秀二が、そういえばまだ知らなかったか、と言って説明した。


 「恭四郎は、まぁ平たく言うと、大金持ちだな」

 「おかねもち…」


 細かく言うと、裏社会に幅を利かせていたが、若くして死んだ父親の遺産全てを受け継いでその上、恭四郎本人が株読みの天才であるというのが正しいが、愛華には難しいだろうと、割愛した。

 秀二が愛華に説明し終えたのを見計らって、蓮次が雅人を見た。


 「おい雅人、いいな?恭四郎に電話するからな」

 「…んんんんんはいぃぃ…」


 微妙な返事をした雅人を尻目に、蓮次はスマホをいじって恭四郎に電話をかけた。そう待たずに、電話の向こうから軽快な声が聞こえる。


 『あっれ組長?久しぶりじゃないッスか。金ッスか?』

 「相変わらず率直な奴だな、恭四郎」


 電話から漏れ聞こえた声に、雅人が顔をしかめた。愛華は、この恭四郎という人と、雅人は仲が悪いのだろうか、と思った。


 「お前、何つーんだ、あれ、プライベートビーチ?持ってたよな」

 『あっ、はい持ってますけど。どしたんすか?もしかして例の子ども連れてくるとか?』


 蓮次は愛華をちらりと見ると、あぁ、と返事をした。


 『まじっすか楽しみ~!いつですか?いつでもいいですけど』

 「あーじゃあ、来週の土曜だな」

 『もっと早く来てもいいのに。ま、了解です。あ、バーベキューとかします?』

 「それもいいな」

 『A5余ってますよ。じゃ』


 ぷつ、と電話が切れると、雅人が体を乗り出すようにして聞いた。


 「何て言ってました?」

 「おっけーだってよ。あと、A5の肉」

 「肉?」

 「バーベキューだと」

 「おぉ⁉」


 雅人の目が一瞬輝き、いやでも、と言うように首を振る。そしてまた肉の誘惑に目を輝かせる。このくだりが続いたので、無視して秀二が言った。


 「で、とりあえず来週の土曜ですね?」

 「おう。愛華、良かったな、海行けるぞ」

 「うん!」


 愛華は恭四郎という男の存在に来たいと不安を織り交ぜながら、しかしやはり期待に、目を輝かせる。今から、来週が楽しみだった。


 ***


 そして、土曜日。


 恭四郎のプライベートビーチには、蓮次の車で向かった。助手席に愛華、後部座席に秀二と雅人だ。


 恭四郎のプライベートビーチは恭四郎の別荘の近くにあるので、とりあえずはその別荘に向かうのだ。後部座席では、珍しく雅人が不機嫌でいる。


 「ちぇー恭四郎の奴に会わねえと駄目なんてよー」

 「しつこいぞ、雅人」


 秀二になだめられ、頬を膨らませる。愛華が少し申し訳なさそうに雅人を見ているのすら、気付いていない。蓮次が、気にするな、と愛華に言った。


 車で三十分、恭四郎に別荘に着いた。恭四郎の別荘はいかにも金持ちという佇まいで、愛華はふと、おっきい、と声を漏らす。まず恭四郎を呼ぶため、インターフォンを押した。少しすると、玄関の扉が勢いよく開く。


 「おひさです組長!秀二も!」

 「おい俺のこと見えてねえのか」

 「見えねーなー」


 愛華は、わざとらしく額に手を当てて遠くを見るようにして雅人をスルーする恭四郎を見上げる。蓮次たちよりは随分背が低いようだが、態度は大きかった。そして、この四人で並ぶと、幼い愛華から見ても一番美形だ。顔に刺青がありはするが。


 「お、」


 恭四郎が視線を下げ、愛華を視界に入れた。興味深そうな顔をすると、愛華の視線に合わせるようにsゃがむ。


 「お前が噂のがきんちょかぁ、何だっけ?名前」

 「ひなもり、あいか」

 「愛華かぁ可愛いな!あ、雅人とかいう奴には気をつけろよ、食われちゃうぞ~」


 そう言って愛華の頭を撫でる。いや、撫でようとした手を、雅人が軽く蹴った。


 「愛華ちゃんに気安く触ってんじゃねえよこの守銭奴が」

 「おやおやぁ大好きなロリータの前でそんな乱暴な言葉使っていいのかよ雅人サン?」


 ばちばち、と火花を散らす二人に、蓮次と秀二が同時にため息を吐いた。行くぞ、と言って、蓮次は愛華の手を引いて海側へ向かった。


 「あ、バーベキュー道具持って来いよ恭四郎。雅人、手伝ってやれ」

 「はぁ⁉何で俺ッスか⁉修二でいいじゃないッスか!」

 「愛華のため愛華のため」

 「うぐ…」


 結局、雅人は引き受けた。蓮次と秀二と愛華は先に海へ向かい、二人を待った。


 少し待って、何やら騒ぐ声がする、t振り返ると、雅人と恭四郎がバーベキュー道具を持ちながら言い争いをしていた。バーベキュー道具を適当な場所に置くと、蓮次たちに近付いてくる。


 蓮次が愛華に、行くか、と問い掛けた。さっきから、愛華がうずうずしていたのを見ていたのだ。愛華は頷くと上に来ているパーカーを脱いで、ぱたぱたと海へ向かった。蓮次も着いて行き、雅人と恭四郎が走って続く。秀二はと言えば、持参したパラソルの下に、座った。


 「あーーー愛華ちゃんの水着姿やっぱ最高!!可愛い!!写メ!!」

 「はい犯罪者~お巡りさんこっちですっ!」


 愛華に駆け寄ろうとした雅人に恭四郎が飛び蹴りし、雅人が沈む。てめぇ、と雅人もやり返し、というのが繰り返された。


 愛華は、ちゃぷん、と海の中に潜った。冷たかったが、ちゃんと整備されているのか、綺麗な水で、透き通ったように海中が見えた。


 「きれい!」


 海から顔を出して、言う。雅人と取っ組み合っていた恭四郎が、反応した。


 「お、そうだろ?俺の土地だからな!暇なときちゃんと掃除してるし業者も呼んでるしー」

 「きょーしろう、まじめ」

 「ま⁉真面目じゃねーよ!」


 愛華としては褒めたつもりだったのだが、何故か恭四郎には否定されてしまった。よく分からなかったが、愛華はもう一度海に目を戻すと、次は蓮次に目を向けた。蓮次は、パーカーを着たまま、膝まで海に浸かったところで止まっている。


 「れんじ、泳がない?」

 「あ?あー、一応水着着てっけど濡れたら面倒だしなぁ」


 そう言った蓮次を見て、雅人が愛華に耳打ちした。愛華はこくりと頷くと、小さな手で海水を掬って、ぱしゃっと蓮次にかけた。


 「うおっ、おま、雅人!愛華に変なこと吹き込むな!」

 「何のことッスすか?」


 調子に乗った雅人と恭四郎も、蓮次に水をかけ始めた。パーカーごと全身を濡らした蓮次はひくりと笑みを浮かべると、パーカーを投げ捨てて愛華を抱き上げ、雅人たちに飛びかかった。


 「…子どもか」


 離れて見ていた秀二が、そう呟く。蓮次が投げ捨てたパーカーを回収すると、またパラソルの下に戻った。秀二も念のため水着を下に着てはいるが、泳ぐ気はなかった。


 ひとしきり海の中ではしゃいで一息吐くと、愛華が言った。


 「ふかいとこ、行ってみたい」

 「浮輪持ってきたっけか?」

 「クルーザー出します?俺一応運転できますけど」

 「さらっと自慢してんじゃねーよ」


 またいがみ合いを始めた二人は放っておいて、蓮次が言った。


 「じゃあ俺にひっついて行くか。多少深いとこなら行けるぞ」

 「いく!」


 じゃあ掴まれよ、と蓮次が少し深いところに進む。愛華を背負うようにして、器用にそのまま泳ぎ始めた。


 少し沖に行って愛華が満足して帰ってくると、いったん上がってバーベキューを始めることにした。秀二がいるところまで四人で帰ると、すでにバーベキューセットが用意されていた。


 「そろそろ来ると思いましたよ」

 「さぁっすが秀二!」


 恭四郎はそう言って秀二の背中をばしっと叩いた。


 気を取り直して、恭四郎が用意していたA5ランクの肉を焼き始める。秀二は野菜を焼き始めた。愛華は野菜も食えよ、と念を押すと、愛華が頷く。


 愛華は肉焼き台まで手が届かないので、蓮次に取ってもらった。紙皿に入れられた肉を一口頬張ると、すぐに口の中でとろけてびっくりした。


 「どうだがきんちょ、旨いだろ!」

 「おいしい」


 だろだろ、と恭四郎が満足げな顔をした。


 「主夫が買うようなやっすい肉とは違うだろ?」

 「おい誰が主夫だって」

 「お前に決まってんだろ秀二~」


 にこやかに悪気無く恭四郎が言うと、秀二は割りばしで器用に炭を拾い上げると恭四郎の素肌に当てた。


 「あぁっづ!!!ちょ、おま、炭は駄目だろ馬鹿じゃねーの皮膚が消し飛ぶ!」

 「生えてくるだろ」

 「こねーよ!」


 ふい、と秀二は顔を背け、素知らぬ顔で食事を続けた。愛華はそこで、秀二に先程野菜も食えと云われたのを思い出し、蓮次に野菜を取ってもらって食べた。蓮次に、えらいな、と頭を撫でられる。ちなみにこの中で野菜を食べているのは秀二と愛華だけである。


 ぎゃいぎゃいと騒ぎながらしばらく肉を焼いて、食べてを繰り返す。

 そこでふと気になり、愛華は恭四郎に話し掛けた。


 「きょーしろう」

 「お?」

 「なんさい?」

 「俺?」


 恭四郎は自分を指差すと、何事も無いように言った。


 「18だけど」


 その言葉に、愛華は少なからず衝撃を受ける。愛華が聞いた話では、蓮次は24歳、秀二、雅人はともに22歳だと聞いていた。そして、今日の恭四郎の態度を見ると、とてもそんなに下には見えなかったのだ。


 「わかい!」

 「お前ほどじゃねーよ!」


 ツボに入ったようで、恭四郎が腹を抱えて笑った。確かに、6歳の愛華に若いと言われるほどではない。笑われたのが恥ずかしくて、愛華は思わず反論する。


 「だ、だって、まさとと仲良し、だから、」

 「「はぁ⁉」」


 これには雅人と恭四郎が、同時に反論する。蓮次と秀二は、笑いを必死に堪えているようだった。


 「「どっからどう見たら仲良く見えんの!?」」


 また声が揃ったことに堪え切れず、ついに蓮次と秀二が噴き出した。そして四人での口論が始まり、何だか楽しくなった愛華は、小さく声を立てて笑った。


 ***


 「そういえばお前らそれさぁ、お揃いなわけ?」


 恭四郎がそう言ったのは、結局秀二も海に叩き込まれ、全員で海を満喫して、帰り際になったときだった。

 恭四郎の言う〝それ〟とは、蓮次たち四人が足首に付けていた色違いのミサンガである。

 恭四郎の質問に、蓮次が答えた。


 「あぁ、そうそう、愛華が作ったんだ」


 恭四郎は、言葉少なに、へぇ、と答えると、その後に声を立てて笑い始めた。


 「がきんちょは良いとして、組長らいい年してミサンガとか女子かよ!ウケるわ~」


 何だととまた口論が始まりかけたところで、秀二が三人の頭を連続で殴った。


 「ほらもう遅くなりますよ。愛華連れていつまで外にいるつもりですか」


 秀二のその言葉で自然と解散となり、家に戻った恭四郎と別れて蓮次たちは車に戻った。


 帰り道は行きより空いていて、そう時間はかからなかった。組に帰り、各々着替え始める。


 愛華も自分の部屋で着替えていたのだが、ちょうど着替え終わったところで、こんこん、と部屋がノックされた。はい、と返事をすると、雅人の声がする。扉を開けた。


 「おーす愛華ちゃん。今日の晩飯俺が作るんだけどさ、何が良い?」

 「お」

 「お?」

 「おむれつ」

 「愛華ちゃんはほんとに卵好きだなー」


 了解、と雅人は敬礼のまねごとをした。そのまま部屋を後にするかと思ったが、予想と違って、雅人は愛華に耳打ちするようにしゃがんで、言った。


 「愛華ちゃん、今度な、恭四郎の野郎のミサンガも作ってやんな」


 愛華は訳も分からず、こくりと頷く。作るのはいいが理由が気になったので、何で、と聞くと、ほら、後々何か言われても面倒だろ、と返ってくる。実際には、ミサンガの話をした時に恭四郎が羨ましそうにしていたのに気付いたのだが。


 雅人がいなくなった後で、愛華はにこりと微笑んだ。


 「やっぱり、なかよし」


                                         END

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