ごはんの漫画を読もうじゃないか!!!
久住昌之。
もしくは泉昌之でもいい。
この名前にぴんとくる方には、ぜひとも紹介したいマンガがある。
「めしばな刑事タチバナ」(徳間書店)
「このマンガがすごい!2012」(オトコ編)にて、第9位に選ばれたグルメマンガである。
このマンガをコンビニで立ち読みした時、わしは喜びに震えた!そして心の中で叫んだ。
「・・・ついに、ついにわしにふさわしいグルメマンガがあらわれたぞっ!」
数日後、全巻買った。
読んだ。
泣きそうになったね。
これ、これだよ。こういうマンガを待っていた。食べることは好き。でも料理に手間暇かけたくない。でもできるだけ美味いものは食いたいという、食に対して、ワガママで雑なわしのような男にふさわしいグルメマンガがついにあらわれた!
このマンガは新しい。
しかし、この新しさを伝えるためには、まずグルメマンガというものについて、あれこれ語っておきたい。ちょいと長くなるかもしれない。
グルメマンガとは、文字通り食べ物のマンガである。一般的に有名なのは、やはり「クッキングパパ」や「美味しんぼ」などだろう。簡単にくくると、「料理のマンガ」ということになる。
わしが知るかぎりこのグルメマンガは、おおざっぱだが2つの系統に分けられると思う。まずひとつは料理対決系。どっちが美味いものを作れるか勝負だっ!といった感じのマンガである。「ミスター味っ子」を始め、古くは「包丁人味平」、「鉄鍋のジャン」、「華麗なる食卓」、「焼きたてジャパン」、「喧嘩ラーメン」、最近だと「ヘルズキッチン」など。
わしはこの系統をスパロボにならって、「スーパー系」と呼んでいる。マジンガーZ、ゲッターロボ、グレンラガン。
だって・・・・・・話がムチャなのが多いんだもん。
審査員のリアクションが派手すぎたり(例・ミスター味っ子)、調理法がありえなかったり(洗濯機でラーメン茹でるマンガとかあった)。そのバカさには、どこかスーパーロボットものに通じるものを感じたので、スーパー系と呼んでいる。
そしてもうひとつの系統を、わしは、「リアル系」と呼んでいる。ガンダム、マクロス、コードギアス。
それは何かというと、ずばり料理とドラマ系である。この系統の代表作は、やはり「クッキングパパ」だ。荒岩一家とそれに関わる人々の物語と共に、そこに登場する料理のレシピを紹介する。この実用性はいまでもすごいと思う。スーパー系の「鉄鍋のジャン」とか、実用性なさすぎる。実際に現実でも作れる料理が登場するマンガという意味で、わしは「リアル系」と名付けた。最近だと、よしながふみ先生の「きのう何食べた?」もこれに属する。女性向けマンガの「澤飯家のごはんは息子の光が作っている」もおそらくリアル系。
「美味しんぼ」なんかは、スーパー系、リアル系、両方の要素を抱えているから、ややこしい。(海原雄山は、なんとなくスーパー系である。超能力でテレポートした話もあるし。でも料理はリアル)。「深夜食堂」は料理よりもドラマ寄りだから、ちょっと違うかな。
まあ、だいたいのグルメマンガがこの2つに分けられるわけだが、しかしどちらにも属さない少数派というものもたくさんある。そしてその中に、グルメマンガを語るうえでは避けては通れない名作がある。勘のいいひとなら、お分かりだろう。
そう、冒頭の久住昌之の原作、谷口ジロー作画の傑作。
「孤独のグルメ」である。
このマンガの画期的だったところは、スーパー系のような争いもなく、リアル系のようなドラマ、料理シーンもなく、ただ男が飯を食べている光景だけを描写したこと、食事とい行為自体にあるささやかなドラマをあざやかに切りとってみせたところにある。
大したストーリーなんてものは本当にない。サラリーマンの男が食事をし、あれこれ思う様子を淡々と描いているだけである。
これが、面白い。
谷口ジロー先生による、ていねいな食事の描写が、読者に共感と郷愁、そして食欲を抱かせる。「カツサンドって、なんていうか、男の子だよな」といったセリフを生み出す久住昌之先生の感性にも注目したい。
わしは、この系統を「自然主義」と呼んでいる。
このマンガは、対決やドラマといった物語で料理を飾らずに、料理を食べることそのものを描くことで、食事自体が、ひとつのドラマであることを見いだしている。よく考えたらそうなのだ。命をいただいているのだから。
これは、ありのままの日常をつづることで、そこから人生の真実を見いだす自然主義文学に通じるものがある(たぶん)。
しかし、この自然主義スタイルのグルメマンガは、少ない。久住昌之先生のような、食に対する鋭い感性を持った創作者がなかなか出てこないのだ(わしの勝手な偏見だが、マンガ家の食生活がズボラだからではないかとにらんでいる)。
その結果、グルメマンガはスーパー系とリアル系がはびこり、「孤独のグルメ」は真似できるもののいない孤高の名作として語り継がれることになる。
ところが21世紀に入り、このグルメマンガの可能性をまたさらに押し広げてみせたベテランマンガ家がいた。
土山しげる御大である。
どれだけのひとがついてこれてるか、わかんないけど、もう書きたいだけ書いちゃうもんね。
さて土山しげる御大である。
代表作は、「喧嘩ラーメン」「食キング」「借王」「極道ステーキ」「蛮王」「どぶ」などいろいろ、主に「漫画ゴラク」を中心に数々のオジサン向けのマンガを描いてきたベテランだ。
グルメマンガだと「喧嘩ラーメン」が圧倒的に傑作である。あれを読みながら、ラーメンを食べるのが、学生時代のわしの楽しみであった。全国のラーメン屋にぜひ常備していてもらいたい。いまでもコンビニ販売の廉価版コミックスで何度も復刻されている名作なのである。
さて、その土山しげる先生が、近年に革命的なグルメマンガを発表した。
漫画アクションにて連載されている、「極道めし」である。
舞台は刑務所。そこのある房の囚人達が、正月に出されるおせちの一品をかけて、誰が一番うまいものの話ができるか競うというストーリー。
ひとりひとりが、自分がいままで食べた中で、一番おいしかったもののエピソードを語り、その中でもっとも他の囚人達の共感を得た者が勝ちというルールである。
そのエピソードに出てくる食べものが、本当にうまそうでたまらない。豪華な料理はほとんど出てこない。
出張で1日何も食べてなかった営業マンが食べた立ち食いそば。子供の頃、運動会でおばあちゃんが作ってくれた巻き寿司。田舎の農家にふるまってもらった卵かけごはん。夜食のインスタントラーメン。
読者の郷愁と共感を呼び起こす食の描写は、「孤独のグルメ」に通じるものがあり、なおかつ対決ものとしての面白さ、そしてタイトル通り、ヤクザマンガとしての面白さも含んでいるのである。
過去に、ヤクザマンガもグルメマンガもこなしてきた、土山しげる先生の集大成のようなマンガなのだ。
すごいのである。新しいのである。無理やり系統分けするとしたら、もう、「ニュータイプ」と呼ぶしかない。
このままま、「ばくめし」や「喰いしん坊」、いま連載中の「邪道」の話もしたいところだが、話が終わらなくなるので、がまん。
「極道めし」は、グルメマンガの可能性を、グイグイと広げてみせた。
そして2011年。
土山しげる先生に続くがごとく、グルメマンガの新境地を切り開いた作品が、わしの目の前にあらわれたのである。 (現在は、「野武士のグルメ」「荒野のグルメ」といった作品を久住昌之先生と組んで描かれています。2011年に書いた文章なので、情報が古くてすみません。)
「めしばな刑事タチバナ」である。
(やっと紹介できる)
食べるのは好きだけど、面倒くさがりなので、あまり料理はしない。そんな一人暮らしの独身男性に激オススメしたいグルメマンガ。
それが、「めしばな刑事タチバナ」(徳間書店)である。
原作・坂戸佐兵衛、作画・旅井とり。誰だかさっぱりわからない。
そして掲載誌は、週刊アサヒ芸能である。
マンガ好きの意表をつくような方向から突然あらわれた、ダークホース的なコミックなのだ。
「このマンガがすごい!2012オトコ編第9位」の他にも、TVBrosの「ブロスコミックアワード2011グルメマンガ部門第1位」、週刊プレイボーイの「第1回週プレマンガデミー賞2011第1位」と、輝かしい受賞歴を手にしている。
あらすじは単純だ。
タイトル通り、タチバナという刑事が、同僚の警官とメシについてあれこれいろいろと話す。
それだけである。
しかしその話のこだわり、密度がすごい。
「孤独のグルメ」が主人公の食べ物の独想による、ソロ演奏だとしたら、この「めしばな刑事タチバナ」はバンド演奏だ。様々な人物が、様々な角度で主人公の刑事タチバナとメシについて熱く語る。
これが面白い。
読みながら、わしもマンガの中の会話に参加したくなってくる。
このマンガのすごいところは、モロに実名を出してきているところだ。
取り上げられるメシは、吉野家、松屋、すき家の牛丼。サッポロ一番のミソ、塩、しょうゆ。はなまるうどん。富士そば。ケンタッキーフライドチキン。ラーメン天下一品。山崎のランチパック。カップ焼きそばのペヤング、UFO、一平ちゃん夜店の焼きそば。缶詰めのホテイのやきとり、マルハのサバ味噌煮。ガリガリ君、ホームランバー、エッセルのスーパーカップ。餃子の王将。コンビニカレー。他にも身近な所で目に入る食べ物がいっぱい登場する。
わしのような一人暮らしの独身男性ならば、
「お世話になってます!」
と最敬礼したくなるような顔ぶればかりだ。
いわゆる外食&ジャンクフード讃歌。いままでにありそうで無かった、新しいグルメマンガである。ペヤング焼きそばの素晴らしさを説いたグルメマンガなんてものがいままでにあっただろうか?たぶん無いはずだ。体に悪いかどうかなんてことは、完全に無視し、だってうまいんだ文句あるか!とばかりに上記のメシの魅力、ウンチクを掘り下げてゆく。
また、このウンチクも凄い。
わしがウムムッ!とうならされたマンガ内のウンチクをひとつ紹介しよう。
主人公の刑事タチバナは、休暇を利用して香港へ旅行に行く。
そこのある食堂でエビワンタン麺を食べたとき、タチバナの体に衝撃が走る。
その料理に使われている麺が・・・・・・
日清の「出前一丁」だったのである。
有名なインスタントラーメンだ。「あらよっ!出前一丁!」というキャッチフレーズ。子どもがオカモチを持って走っているイラストのあれである。
違う食堂に入ると、今度は普通にラーメンがあったのだが、なんとメニューにはオプションとして、「出前一丁麺を使用する場合は3ホンコンドル(約30~40円)増」といった意味のことが書かれていたという。
あとでタチバナが調べた情報によると、香港ではもう四十年近くも、出前一丁がカリスマ的な人気らしい。香港のコンビニやスーパーの袋めんコーナーには、一面ぎっしり出前一丁。しかも、日本では見たことないような種類がいっぱいあるそうだ。
「XO醤海鮮麺」
「極辛猪骨湯麺」
「紅焼牛肉麺」
「マカロニ麺」など。
香港といえば、広東料理を中心に世界の味覚が混ざり合った美食の街である。そこの人達に、「出前一丁」はそれだけ支持されているのである。
中国四千年の歴史を背負ったちゃんとした麺があるというのに、香港の食堂では、わざわざ追加料金を払ってまで「出前一丁」を食べるひとがいるというのである。
凄いぜ日本のインスタントラーメン!という話である。
これを読んで、インスタントラーメンを愛するわしは、おおいに喜びに震えた。
このマンガは、「塩分高め」「栄養が偏る」「食べすぎるとお腹壊す」など、悪評によって虐げられることの多い外食&ジャンクフード達に優しい視線をそそいでくれている。
そう、例えるなら、どうしようもない不良生徒でもしっかりと向き合って、真剣に関わることでその生徒の隠れた魅力を見つけてあげようとする、金八先生のようなマンガなのだ。
イチ押しです。
ぜひ!