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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE 1『焔が結ぶ〝絆〟(ほのおがむすぶ〝シンパシー〟)』
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第7話 感情の正負

 夜も更けてきた頃、浅陽とミシェルは学院の地下にある【異能研】本部に呼び出された。会議室には彼女達だけでなく、浅陽の兄である誠夜、迅水めぐり、榊原梨遠、他には【異能研】に所属する数名の学院生が同席していた。


「こんな時間に皆さんをお呼びだてしたのは他でもありません」


 口上通りこの場の面々を呼び出した七波奏観が、会議室正面の司会者台の前に立った。


「昼間捕獲した黒い人形(ひとがた)、〝黒晶人形(モリオンゴーレム)〟について一部解析が終了したので急ぎお伝えするの為に集まっていただきました」


「相変わらず仕事が早いわね、カナ」


「そうね。【ヘブンズノーツ(うち)】に欲しいくらいだわ」


「ありがとうございます。では早速報告に入らせていただきます」


 奏観が司会者台の上のノートPCを操作すると各出席者の前に置かれたタブレット端末に映像が映し出された。そには実験器具のシャーレの上に置かれた黒い鉱石の画像と五段階評価の五角形レーダーチャートが表示された。


「結論から言いますと、あの〝黒晶人形(モリオンゴーレム)〟を構成するこの黒い鉱石は、念結晶、つまり【念結晶(クリスタル)】と同じ物であると判明しました」


「───ッ?!」


 会議室に衝撃が走った。


「グラフの方は上から時計回りに強度、硬度、密度、念晶密度、念晶波を表しています」


 そのグラフではただ一つの項目を除いてまったく同じ曲線を描いている。


「カナは始めっから【念結晶(クリスタル)】だと決めてかかってたわけ?」


「いいえ。確かにただの鉱物ではないとは思っていましたけど、ここまで合致するとは思いもしませんでした」


「それで一つだけ合致していない項目があるようだけど。しかも振れ幅がほぼ真逆」


 ミシェルが一ヶ所の違いを指摘した。


「はい。念晶波になりますけどこれは……」


「〝想い(・・)〟の違い、だな」


 答えを口にしたのは榊原梨遠だった。その彼女に全員の目が向いた。


「【念晶者(クリスタライズ)】の〝力〟の源は〝想いの力〟。その〝想い〟が清きモノ(・・・・)か、穢れたモノ(・・・・・)か。つまりは正か負かと言ったところか」


「さすがです先生。確かに私の〝眼〟にはそう見えました」


「穢れたモノ……。ってことはあれは欲望の塊なわけ?」


「おそらくは。それ以上はこれからの調査次第です。ですがあれが【念結晶(クリスタル)】である以上は、何者かの〝想い〟、いや〝欲望〟を発現、暴走させたモノだと思われます」


「ではミシェルさんの報告にあった【顕現者(マテリアライズ)】を狙うというのは、その【念晶者(クリスタライズ)】の意思が関わっている可能性があるということですね」


「そうなると思います」


 めぐりの質問に奏観はキッパリと答えた。


(くっ───)


 怒りが込み上げてきた浅陽は、血が滲むほど拳を握りしめた。


「血が出てるぞ、浅陽」


 指摘したのは彼女の兄・誠夜だった。


「あっ、と……」


 浅陽は慌てて血の滲んだ手を机の下に隠した。


「欲望を暴走させた何者が何故悠陽をとか、大方そんなことでも考えてたんだろ」


「……うん。兄貴にはお見通しなんだね」


「お前()の兄を何年やってると思ってんだ」


 浅陽には誠夜の声がホンの微かに震えているように聞こえた。


「兄貴……?」


「俺は守れなかった。盾にすらなってやれなかったんだ……」


 それは浅陽が初めて聞く、誠夜の後悔だった。


「……そっか。兄貴も辛かったんだね」


 浅陽はそれがなんだか嬉しくて涙を滲ませていた。


「お前には敵わない。誰よりも通じ合えてた双子だったんだしな」


「あたし達で仇を討とう」


「もちろんだ」


 涙を拭い去った浅陽に、誠夜は堂々と応えた。


「無論、それに関しては私も協力は惜しまん」


 榊原梨遠の言葉に参加者の面々が頷く。


「ワタシも、【ヘブンズノーツ】の意向は関係なく協力させてもらうわ」


「ミシェルもありがとう」


「その代わり、知り得た情報はこちらにも回して欲しいのだけど」


 〝黒晶人形(モリオンゴーレム)〟が彼女の獲物と言ったことを、浅陽は思い出した。


「あたしは構わないけど……」


 浅陽は梨遠を見た。


「構わん。【ヘブンズノーツ】から来ているとは言え、今は【異能研】の仲間だからな」


「ありがとう」




 周りの〝想い〟に、浅陽は胸の辺りが温かくなるのを感じた。


『〝時〟は近い、か。後は……』


「え……?」


 不意に聞こえた声に浅陽は周りを見回した。


「どうかしたのか?」


 誠夜が声を掛けた。


「……ううん。なんでもない」


 空耳だったのだろうと、浅陽はすぐのその事を忘れた。




つづく


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