第219話 時を超えた再会
「そういえば母さんさっきさ、占い師の観点から僕が別人に思えたって言ったよね」
「え? ええ。昨日までとはまるで別人のオーラを纏っているから」
「じゃあさ、たまに前世占いとかってあるでしょ? 母さんはそういうの分かるの?」
「なに、いきなり?」
「ただの興味だよ」
「ふ~ん」
星明は怪訝そうに慧太郎を見る。そして、
「そういえば、あんたをちゃんと視たことはなかったわね」
「そうなのですか?」
茉莉が口を挟む。
「この子が小さい頃一度視た事があるんですけど、霞がかかったようによく視ることが出来なかったんです」
「あなたの〝力〟をもってしてもですか?」
「はい。なのでそれ以降は視ることもなかったのです」
「なるほど」
「でも今なら視ることが出来るかもしれない。そんな予感がする」
「占い師の予感なんて、それはもう予感なんてレベルではないでしょうに」
その時ふと、三人は屋敷が俄にざわついているのを察した。
「急ごう」
慧太郎が駆け出すと、二人も後を追って走り出した。
やがて、迷いなく儀式の間へと辿り着くと、入り口の前に【異能研】の見張りの人間が集まって何かを警戒していた。
「何があったのです?」
茉莉が一歩前へ出て訊ねた。
「あ、茉莉様! それが……」
【異能研】代表が来たと知れ渡ると、そこに道が出来た。
そして扉の開いた入り口から中を覗いて、首を傾げた。
「何もありませんが?」
部屋の中には、そこに半ば軟禁されていた少女が座っている他、何も変わったところはなかった。
「いつの間にか少女が入れ替わっていて……」
見張りの一人がそう言ったのに、茉莉と慧太郎はああ、と妙に納得した。
「どういうことですか、茉莉様?」
その様子を見た星明が訊ねる。
「あれは……」
茉莉が説明しようとしたところ、慧太郎が儀式の間へと一歩踏み込んだ。
そして部屋の中央に正座する少女の前まで行くと立ち止まった。
「久しぶりだね、レイン」
すると、黒髪から金と銀が混ざったような色の髪へと変化していた少女は静かに瞼を開いた。
「レイン? あの子の名前は凛じゃ……」
部屋の入り口で立ち止まっていた星明が怪訝な顔をする。
「『レイン・アンネリーゼ・エーベルヴァイン』。八十年前、私達と共に敵と戦った流浪の魔術師です」
「それはまさか、かの家の地下で眠っていたというあの……?」
茉莉が頷く。
「そして慧太郎こそ、その家の正当後継者の魂を持って生まれた者」
星明は先刻の慧太郎の言葉を思いだした。
「まさか、うちの慧が……」
茉莉が見た目相応に微笑むと、
「私の大事な幼馴染みの帰還です」
そう言って、儀式の間へと足を踏み入れた。
「お久しぶりですね、叢丞殿。いえ、正しくは久しぶりとは言い難いですが」
「どういうこと?」
「それは彼女が、八十年の時を超えて現代にやってきたからよ」
慧太郎の隣で茉莉は立ち止まった。
「時を超えて?」
「文字通りの意味よ、叢くん。八澄邸の地下に封じられていた八十年前とは違って時間を飛び越えてきた。わかりやすく言うとタイムスリップかしら」
「と言ってもあの後すぐというわけではなく、少々の時間を要しました。それでもほんの数分ですが」
あっけらかんとレインは言った。
「タイムスリップって、レインが自分で使ったの?」
「何言ってるの? 貴方が使ったんじゃないの、叢くん」
「え? 僕が? そんな高等な術を?」
「ええ、そんな高等な術を」
レインが真面目な顔でオウム返しに言った。
「そっか。全部は思い出せてないんだっけ」
「そうだね。僕が覚えているのは、涼香と二度目のお別れをしたときまでだよ」
「私と颯季の話を聞いてしまったあの時ですか」
慧太郎は当時のことを思い浮かべる。
涼香が既に亡くなっていると分かった当時の感情が甦る。
しかし彼女も慧太郎同様に、木ノ花風花として生まれ変わっている。だからか、当時覚えた悲しみはいくらか和らいでいるように思えた。
「目を覚まし、八澄叢丞としての記憶を取り戻したから、凛を迎えに来たといったところでしょうか」
「そんなところ。奴らがいつ動き出すかわからないからね」
「そうですね。先日の強大な妖気も気になるところですが、今は目の前の案件に集中しましょう」
「あれは別件で対処中だけれど、再び現れたらまた暴走しかねないわね」
「その可能性はあります。新月でさえ抑えきれないほどでしたから」
そこでふと、慧太郎は思い出した。
「そう言えばお守り持ってなかったっけ? 昔僕があげたやつ」
「言ってたわね。以前凛ちゃんが暴走したときに役に立ったからあげたのよね、御神木のお守り」
「それが、どうやらなくしてしまったみたいで」
レインが申し訳なさそうにうなだれる。
「今年のはもう無いんだっけ?」
「最近ほとんど採れないのよ。お守りに出来たのも八年くらい前だし、皇室に献上したわ」
「そっか」
重い沈黙がおりる。
「まあ、仕方ないよ。なくしちゃったんじゃあね。何か他の方法を……」
と、そこで慧太郎のスマホが震えた。
相手は木ノ花風花となっている。
「なかなか学園に来ないから催促かな?」
「ふふっ、相変わらず愛されてるわね、〝兄様〟」
茉莉がからかう風に言い、慧太郎は電話に出た。
「もしもし、すず……」
「兄様大変です! 学園が……」
そこでプツッと通話が切れた。
「もしもし? 涼香? もしもし?」
「叢くん?」
表情が険しくなった慧太郎から、その雰囲気が二人に伝染する。
「学園で何かあったらしい。行ってみよう、二人とも」
「ええ」
「わかりました」
二人は頷くと、慧太郎に続いくように儀式の間から駆けだしていった。
つづく




