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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第217話 叢丞と茉莉

───一月十五日 金曜日───


早朝。


陽が昇る少し前に目を覚ました慧太郎は、凍えそうな程に空気の冷えた砂浜にいた。


「はぁッ、はぁッ……」


吐息はすぐに白くなり、かいている汗も湯気となって蒸発していく。


「やっぱり……、昔みたい……、には、いかないか……」


その手には木刀が握られている。


無論、【龍宮神社】の境内に鎮座する御神木の枝から作られた木刀である。

それを砂浜に突き刺し、息を整えている。


慧太郎はかつて八澄叢丞であった時のように、木刀で素振りを行なっていた。


「ふぅ〜……」


ドサッと砂浜に座り込みそのまま倒れ込んだ。冷たい空気に背中に感じる冷やされた砂地が火照った身体に気持ちいい。


「こうして見ると、ここは変わらないな」


砂浜から景色(うみ)を見ていると、八十年前に戻ったかのように錯覚する。


「……でもなんか違うな。空気……かな?」


八十年の間に高度成長期を経て、その際の代償として大気や海洋の汚染が一時期騒がれていた。


それらは未だに解決したわけではないので、厳密に言えば当時とは違うと言えるだろう。

もちろん彼が言っているのはそのことではない。


その時、海からの一際冷たい風が吹いた。


「さっ、さむっ!」


悪寒の一歩手前まで身体が一気に冷えた。


「はやく戻らないと風邪ひくな……」


立ち上がって足早に砂浜から離れる。


砂浜沿いの国道は早朝のためか車の通りが少ない。


慧太郎は左右を確認するとサッと道路を横断する。そして目の前の大きな鳥居を潜って【龍宮神社】の参道を進む。


参道を進むにつれて徐々に寒さが和らいでいく。


境内で火を焚いているわけではない。

大抵の住民が初詣を済ませているのか、閑散としていてむしろ寒いくらいだ。


それでも【龍宮神社】は冬はもちろん、夏も比較的快適に過ごせる。


その理由を、慧太郎は見上げた・・・・


相変わらず・・・・・大きいな」


境内に聳える巨木───御神木。

この巨木を中心として、寒さが和らいでいるのだ。


近づくとなおのこと大きく見える。

樹齢千年とも言われているその幹は、慧太郎が両手を広げても半分も抱えられないほど太い。

その幹にそっと手を触れる。


八澄叢丞としての記憶が無いうちは、この木の周りで遊んだり、登ろうとして怒られたりなどあったものの、特に気にも留めた事は無かった。


しかし今は、その手の触れているところから御神木の鼓動や息遣いが今にも伝わってきそうな不思議な感覚があった。


それに、とても懐かしく思えた。


「本当、不思議な縁だよな。こうしてまた・・・・・・御神木を見上・・・・・・げることが出・・・・・・来るなんて・・・・・


そこで突然、慧太郎は振り返った。


まつり姉さん・・・・・・と一緒にね・・・・・


「っ!?」


慧太郎の背後にこっそり近づいていた龍宮茉莉は飛び上がりそうなほどに驚いた。


相変わらず・・・・・イタズラ好きだね」


「い、いつから気づいてたの?」


「つい今しがただよ」


「今?」


「うん。御神木が教えてくれた」


慧太郎がそう言うと、茉莉は相好を崩した。


「それはそうとまつり姉さん、相変わらず朝早いね」


「神社は朝早いですから。そういう叢くんこそ、昔みたいに素振り?」


「そのつもりだったんだけど、身体がついていかなくて」


「そういえば何もやっていないものね、今は・・


「こんなことなら何かやっとけばよかったかな」


不意に茉莉がクスリと微笑(わら)った。


「まつり姉さん?」


「……本当に叢くんなのね」


そう嬉しそうにしみじみと言った。


「うん。正直、僕もびっくりしてるよ。まさか生まれ変わりなんてことが本当にあるなんて」


「ひょっとしたら、それも八澄の〝力〟なのかもしれないわね」


「輪廻を司るなんて神や仏じゃあるまいし、ヒトには過ぎた〝力〟だよ。まつり姉さんの不老不死と同じでね」


「咲夜ちゃんから聞いたの?」


「咲夜というか浅陽というか、まあそんなところかな。あの頃はそうじゃなかったよね?」


「そう、ね……」


彼女の歯切れの悪さが少し気になった。


「ひょっとして僕らが原因?」


「いいえ。叢くん達は・・・・・関係ないわ」


茉莉はキッパリと否定した。


「じゃあ原因は分かってるの?」


「分かってるわ。……でも今はまだ言えない」


その表情から何か決意のようなものを慧太郎は感じ取った。


「じゃあ、そのうちでいいから教えてくれると嬉しいな」


「叢くん……」


「何か問題があったら僕が、ううん、僕らがきっと助けるから」


「……ありがとう」


昔と同じ笑顔だけど、慧太郎には知り得ない数十年の時を経て彼女が自然と得た気品と、何とも言えない色香を感じて、頰が熱くなるのを感じた。


「叢くん……?」


「あ、いや、その……」


赤くなった頰を見られないように慧太郎は茉莉に背中を向けた。

だが、彼の状態を察してしまった茉莉の笑みはイタズラっぽいものへと変わる。


「どぉしたの、叢くん?」


「な、なんでもないよっ」


「ふぅ〜ん、そうなんだぁ♪」


八十年前と変わらない見目麗しい姿と、同じ年月を経て培われた魅力が合わさってとんでもない破壊力を誇っている。


ふと、もっと長く生きているのに色気のかけらもないのがいるのを思い出した。


「叢くん?」


黙りになった慧太郎を訝しむように慧太郎の顔を覗き込む。


「凛は大人しくしているの?」


「ええ。この前の晩に暴走したっていうのが嘘みたいにね」


「暴走、か……」


その原因となったのは凄まじい妖気だ。


浅陽の話では彼女が本来通っている久遠舘学院で何かしら起きたらしいのだが、彼女の向こうの仲間がどうにか退けたらしい。


「水薙家にいるのは知ってるのよね?」


「うん。儀式の間にいるって聞いた」


「今日叢くんを連れていこうと思っていたの。いつ奴が動き出すか分からないから、今後の方針を決めるためにも」


「奴って?」


「軍服を着た男よ。と言っても八十年前のことだけど」


「清九郎……じゃないんだよね?」


慧太郎そうすけの覚えている限り、見たことがある軍服の男というのは清九郎しかいない。


「彼の上官だった男らしいわ。でも戦後調べてみたけど帝國陸軍にそんな男は存在しなかった」


「存在しなかったって?」


「特殊能力部隊の隊長は谷曇清九郎になっていたわ」


身代わり(スケープゴート)……!」


「おそらくね」


「でもまつり姉さんは見たんだよね」


「ええ。まだ思い出せていないみたいだけど、叢くんも遭っているわ。当時軍服を着ていたから便宜上そう呼んでいるし、これまで目立った襲撃はないから現状は不透明なの」


「これまでって、八十年の間何も無かったの?」


「ええ。咲夜ちゃんにやられてよほどの深手を負ったみたい」


「ならそのまま生き絶えたかもしれないじゃない」


それに茉莉は首を横に振った。


「ねえ、叢くん。凛ちゃんが空から降ってきた時、貴方のお母さん───薄雲星明に何か言われなかった?」


「僕を破滅に導くかもしれないとか、世界を滅ぼすモノだとか言ってたかな。その時は理解出来なかったけど、今ならもちろんその意味は分かるよ」


凛、もといレイン・アンネリーゼ・エーベルヴァインなる魔術師はその身に神獣級の龍を封じている。


その封印(じじつ)だけでも信じ難い事だが、もし彼女の身に何か起きてその封印が解かれたら世界は滅びかねない。


「ええ。そして星明は八つの希望の光なるモノも予見していた」


「〝八澄の力〟のことだね。咲夜から聞いたよ」


「それと関連するという予見はもう一つ。訪れる〝災厄〟と〝日蝕〟」


「〝災厄〟は〝応龍〟のことだね。だけど……」


薄雲慧太郎が〝災厄〟で思い浮かべるのは、八十年前の災厄だろう。

だが、その頃生きていた八澄叢丞としての記憶にはそんな出来事は無い。


それは彼が命を落とした後の出来事だからだ。


「〝日蝕〟って? 太陽が欠けて見えるあの日蝕?」


それに頷くと茉莉は口を開く。


「私も昔何処かで日蝕に関する文献を読んだ気がするんだけど、忘れちゃった」


「どこかの神話か何か?」


「だと思うんだけどね」


と見た目相応にかわいらしく首を傾げる。


「それがさっきの軍服の男ってのに関係してると、まつり姉さんは思ってるわけだ」


「そうね。八十年前あのときも人間離れした術を操っていたから」


「具体的な根拠は?」


「女の勘よ」


とドヤ顔で言った。




つづく

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