第20話 焔の呼び声
「お……おぉぉ……」
『───ッ!!』
背筋を突き抜けるような只ならぬ気配を感じ取った黒仮面。急制動をかけて再び距離を取る。
次の瞬間、浅陽の身体が燃え上がった。
『ッ!?』
何を思ったのか、黒仮面は浅陽に手を伸ばそうとする。しかし、炎の中で起き上がる浅陽を見てその手を留めた。
「ぅ……ぉぉぉ……ぉぉぉおおおおおおおッ!!」
浅陽は雄叫びをあげながらゆっくりと立ち上がる。そして見えない枷を引きちぎるかのように両手を思い切り広げた。
弾け飛ぶ炎。直後、浅陽の〈巫羽織〉の裾が燃え上がった。否、〈巫羽織〉の裾が炎を生み出している。溢れ出る〝力〟がそのまま凄まじい炎となる。
その姿は翼を広げた不死鳥を思わせた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
再び雄叫びを挙げる浅陽。それと共に〈巫羽織〉の炎が更に勢いを増す。
『───ッ!?』
先程までと明らかに違う気配と、理性を失った瞳に、黒仮面の伸ばしかけた手が下がる。それからゆっくりと〈黒く燃える剣〉を両手で持って構えた。そこには何故か、先程までの殺意は無く、どこか悲壮感が漂う。そしてただ、紅蓮の少女をじっと見つめている。
「ああああああああああああああああああああああああッ!!!」
狂ったかのように雄叫びを挙げ続け〈焔結〉を振るう浅陽。
赤い斬撃が黒仮面を襲う。黒仮面はその悉くを捌き、ダメージを与えるには至らない。逸れた斬撃は周囲の建築物を破壊し、炎に包まれる。
『…………っ』
直後、〈巫羽織〉の炎がロケットエンジンのように後ろに噴射された。浅陽の身体が押し出され、黒仮面との間合いが一気に詰まり、刃が交わる。
『ッ!?』
さすがの黒仮面もそれには耐え切れず、吹き飛ばされた。
「おおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ───!!」
吹き飛んだ黒仮面目掛けて浅陽が〈焔結〉を振り上げると、その刀身からどデカイ炎の竜巻が迸る。
『───ッ!!?』
炎の竜巻は忽ちの内に黒仮面を巻き込み、空に吸い込まれるようにして、吸い込まれるようにして消えた。
「あれ……?」
炎の竜巻が空に消えたとほぼ同時に、不意に我に返る浅陽。その瞳には光が戻っている。
「あたし……なに、を…………?」
ズキンッと胸が痛む。
「───ッ」
〈巫羽織〉は光の粒子となって消えた。そして〝力〟を使い果たした浅陽はその場で倒れて気を失った。炎の竜巻が消えた夜空には赤い月はなく、淡く儚い輝きを放つ三日月が浮かんでいた。
降り注いだ氷の刃『大鷲の嘴』は、悉く〝黒晶人形〟を粉々に砕いていく。
それでもミシェルは、息一つ乱すことなく、汗一粒かくこともなく、無慈悲に氷の刃を創り出してはそれを〝黒晶人形〟目掛けて放った。
「他愛のない」
ミシェルは冷たく見下ろして言った。仇である〝黒晶人形〟に対する慈悲なんてモノは彼女の中には一欠片もない。
やがて、〝黒晶人形〟の数は目に見えて減っていった。
「打ち止めのようね」
最後の一体を氷の刃で容赦無く貫くとそう呟いた。
「さてと」
ミシェルは無人の廃墟となった街を見下ろしつつ独りごちた。
「早く合流して黒幕を吹き飛ばしたいところだけど、あの子は大丈夫かしら」
そう言って浅陽の呪力が感じ取れる方角を見た。するとその方角で、爆発のような轟音と共に、天を衝くような巨大な火柱が上がった。
「あれは…………」
そしてミシェルは意味深な笑みを浮かべた。
つづく




