表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集<そこから物語は生まれる>

初夢

作者: papiko

 俺は当時、十二歳で初夢は現実になると信じていた。


「おはよう、いい夢みれた?」

と母の笑顔に俺は泣き出した。

「おいおい、どうした?」

 父がでっかい手で俺の頭をなでながら、理由を聞いてくる。俺は言っていいのか、悪いのかわからなかったが、一人であの初夢を胸にしまっておくことはできなかった。泣きながら両親に話をすると、二人は深いため息をついて言った。

「大丈夫だ。初夢というのはな、その年に起きることのお知らせみたいなものだからな」

「そうそう、外れることもあるのよ。だから、そんなに泣かないで」

 ほんとう?と涙を拭きながら、母に聞くと大きくうなずいた。俺はほっとして、でも、どこかに不安は残った。


 その日、なぜか双子の姉たちが父に説教されていたが、あれは多分、俺の初夢に関係があったのだなと今更ながらに思う。それこそ、後の祭りだけど。


「白はこっちで決まりよね」

「お色直しはやっぱりワインレッドにしない?」

などと、楽しそうに姉たちはウエディングドレスを選んでいた。

「ねぇ、一応あんたの希望は?」

 一応かよ!っと突っ込む気力も、俺にはない。


(これって……いわゆるマリッジブルーってやつか?)


 俺はまな板の鯉のごとく、姉たちの好きにされていた。そして、俺の隣で二人の姉を見ながら苦笑している男が一人。

「何笑ってるんだよ」

「いや、いいお姉さんたちだなと思ってさ」

「……あれがいい人間にみえるってことは、お前も十分変態ってことだ」

「今更だろ?それともオレじゃ不満か?」

 男はやさしい笑みを浮かべる。俺をなだめるような、その微笑みに……俺はいつも白旗をあげる。


 二千三十年の春。戸籍上の同性婚が認められた。その翌年の一月一日に俺は結婚した。結婚式は人前婚で身内のみというシンプルなものだった。


(さすがに疲れたけど……)


 あいつと二人で結婚式の前に写真をとって、小さなフォトブックを作った。それをめくりながら、なんとなく口元が緩む。


(結果オーライってことにしとくか)


 そう思っていた俺に衝撃のはがきが届いたのは、新婚生活二日目の夕方だった。その葉書には、俺が真っ白なウエディングドレスをきて、黒いタキシードをきた男にお姫様抱っこされている写真と『結婚しました』の文字。

「お前か!!」

 俺は、はがきをテーブルにばんとたたきつける。男は小首をかしげて、はがきを見た。そして、そういうことかと納得する。

「お姉さんたちがな。一番お気に入りの写真はどれって聞いたから、これですよって言ったんだが」

「まさか、写真……」

「ああ、家に飾るから一枚ほしいって」

 俺はがっくりとうなだれた。男は俺を引き寄せて、抱きしめる。俺の頭をよしよしとなでながら、言った。

「これで悪い虫が近づかなくて助かる。お姉さんたちに感謝しないとな」

「するな!そんなもん」

 男はうれしそうに笑った。


 そう、俺が十二のときに見た初夢。真っ白なウエディングドレスを着て、男と誓いのキスをする夢だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ