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俺、(召喚する死霊が)最強の死霊術師です!  作者: ニャンコ太郎
~序章~ 俺、死霊術師になりました
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第七話 死霊術師の一日 下

最新話投稿に10日もかかるってどういう事なのよ!


それは私の執筆速度の遅さと想像力が無いからさ!


……自虐タイム終了、じぶんなりにちゃんとした文章で書こうとするとどうしても執筆速度が遅くなる……お許しください!



「こ、此処だ!此処ですぅ!」


「応、案内ありがとよ」


「[ガッ!]ぐえっ!?[ドサッ……]」


「暫くそこで眠ってろ……店主さん、済まないけどシュレッケンさん呼んできてくれ」


「は……はい、分かりました」


俺は拘束していたスケルトンに指示を出し、剣の柄で首筋を殴打され意識を失ったシュレッケンさんの手下を路地裏に放り込むと俺は店主さんに言伝を頼む。

そして急いで走っていくのを確認すると俺は目的地へと向き直る。


目の前にあるのは既に廃墟と化した屋敷が静かに佇んでいる、既に役目を為していない穴だらけの外壁から見える様子では静かな屋敷に雑草がまばらに生えている荒れた敷地……誰も居ないようにも感じる。

が、奴から聞き出した情報だと7~8人の仲間が居るらしいので油断は出来ない。


『……《死者蘇生》』


「お呼びでしょうか、我が主よ……」


呼び出したのは全身黒づくめの包帯でぐるぐる巻きになったミイラのようなスケルトン、彼等は暗殺者アサシンであり、ヤミカゲという名前らしい。

因みにこの包帯のように巻いている布は正確な姿を特定されないための特殊な魔法が付与されている貴重な一品だそうだ。

その為常に姿が黒い靄で若干ぼやけているように見え、布で全身が隠されているという事もあり見た目だけではスケルトンと断定する事は少し難しい。

出て来る時にまるで霧を纏うように出て来るので若干カッコいい……っと、これはあんまり関係無いか。


「あの屋敷の捜索を頼みたい、邪魔な奴は叩きのめしてもいいから気付かれないように頼む」


「御意に……」


そう言うとヤミカゲはまるで滑るように滑らかな動きで屋敷の中へと入っていくとあっという間に景色の中に溶け込むように消えてしまった。

これもまた彼の纏っている服の能力である……しかしこちらから隠れる所を最初から見ていたというのに俺の肘程にしか草が生えていない敷地で見失うとは恐れ入ったものだ。

……あんな能力を持った奴には間違っても狙われたくは無い、いや狙われる事なんてないだろうけどさ。


暫く後、同じく滑らかな動きでスゥッ……と俺の前に現れたヤミカゲは俺に傅き報告を始める。


「外を監視している者が主を不審に思っているようなので始末しておきました……中では確認できるだけで7人、音や声を探った所恐らく更に5~6名居るかと、どうやら同じ部屋に居るようです。屋根の一部に老朽化して出来たと思われる穴がありますので、そこから奇襲を掛ければ万事上手くいくでしょう」


「そうか……所で非戦闘員は見なかった?可愛い女の子らしいんだけど……」


「確認しておりませんが……軟禁されているので?」


「あ、そうだ説明するの忘れてた……そうなんだよ、この屋敷に女の子が捕まってるらしくてね、その子の救出なんだよ」


「成程……ならば猶更奇襲をかけての早期決着が宜しいですな、それで宜しいでしょうか?」


「応、頼んだ!」


俺がそう言うが否や再び敷地へと姿を消していくクロカゲ、あと数分もすれば正面の扉が開く事だろう……そう思いながら俺はゆっくりと彼の帰りを待つのだった。


※※※


「いやぁ流石ですよ旦那、まさかこんなに早く問題を解決してくれるとはいやはや恐れ入ります!」


「いやいや俺の仲間が強いだけですよ、感謝されるのは彼の方です」


シュレッケンさんが到着したのは全ての決着が付いた暫く後だった。

さっき気絶させた奴以外にこの中の誘拐犯とつるんでいた輩を捕えるのに時間を食ったらしい。

話を聞く限りだと店主が俺が誘拐犯のアジトに居るという報告をした途端に慌てて逃げ出したらしいとの事。

事がバレて焦る気持ちは分かるがあまりにも短慮すぎだろその部下共……

まあ関わっていたのは目先の利益ばかりを追求する馬鹿共ばかりだったという事らしいが。


闇市通りの衛兵達にまるで荷袋のように担がれて台車に放り込まれていくピクリとも動かない誘拐犯達、因みに全員死んでいる訳では無く、強力な睡眠薬を仕込んだ針を首元に打ち込まれて眠っているだけである。


出来るだけ人を殺さないでくれとの俺の願いを二つ返事で了承し、こうも鮮やかに実行してくれているヤミカゲさんの腕はまさに超一流と言うに相応しいな、仲間でよかった。


因みにこの中に捕まっていた人は店主さんの娘さんの他にも数人居た。

話を聞くにこの人達も先の海賊達の件と同じく様々な場所から誘拐されて来ていたらしい。

この人達はシュレッケンさんが一旦預かり身元確認の後、ギルドに捜索願いが出ていないかを確認して今後の事を決めるという事になった。

預かる理由については『横流しされた物品が彼等の持ち物である可能性が高く、身なりからして良家出の人間達に違いない、大方捜索願いが出されてるに違いないからこちらが預かっておけば礼金が山ほど貰えるだろうから』……との事。


……うん、だろうと思ったよ、シュレッケンさんが偽善なんてする筈無いからな。


「あぁ……俺も暴れたかったなぁ畜生、腕が訛っちまうぜ」


「そう言わないでくれよクーディ、今回は人質が居たんだからさ」


カタカタと退屈そうにそう言って腕をぶんぶん振り回すクーディ、もう死んでるし衰えるような筋肉も付いてないんだからそこは心配しなくていいと思うぞ、うん。

まあ此処での荒事の解決は基本こいつが突撃して殲滅するのが常であり、彼個人としてもそれを楽しみとしている節があるので今回の件が腑に落ちないのは分かるがそこは得意分野が違ったと諦めてもらうしかない。


「取られたらこの丸盾の裏に仕込まれてる投げナイフで賊の脳天に……」


「十中八九冥土に送る気だよねそれ!?殺しはダメって言ってるでしょうに!」


「かーっ!何度も言うが甘いですぜ旦那ぁ、戦いってのは命と命の奪い合い!どっちか死ぬまでやり合うのが漢ってもんです!」


強い口調でそう言ってビシッ!と俺を指差すクーディ、基本的に好戦的で敵対者は容赦なく命の奪い合い(既に彼の命は無いのだが)が基本の『こんにちは、死ね!』的な彼の考え方は俺の考えとは正反対の位置にある。

しかし端的な考えであるというのは彼自身理解しているようでこういった事を言いながらも誰も殺さずに戦ってくれている……まあ殆どが無力化を通り越してほぼ逝きかけの半殺し状態にはなるんだけどそこは最大限の譲歩といったところと思い、仕方が無い事と割り切っている。


「貴様が言っているのは漢というより獣のオスだろう馬鹿者、やはり見た目と同じく野蛮な考えで一杯か」


そしてそんな彼の意見に抑揚の無い声で反論したのは重装備のスケルトン、ファディである。

彼の性格は言ってみれば……従者の鏡ってのがしっくり来るかな?簡潔に自分の意見を述べる事もあるが基本的に命令には絶対服従、どのような場合であれ命令から外れた行動はしないと言う筋金入りだ。


「オスって酷ぇなオイ!?まあ野蛮ってのは認めるが……そ、それならお前だってハイハイ指示に従って犬みてぇじゃねぇかよ!]


「躾の行き届いた血統書付きの犬が路地裏を這い回る野良犬を見下して何が悪い[ドンッ!]」


「くっ……胸張って言うんじゃねぇよちくしょー!」


……しっかしこいつ等の会話とか聞いてるとホント死霊なのかと思う程生き生きしてんな。

まあ最低限の魔力で召喚したなら喋らないし命令しないと動かないからそれ(アンデット)らしいんだけど、一旦この状態で召喚すると何というか……愛着が湧いちゃうんだよね。


「旦那の死霊は賑やかでいいですねぇ、死んでるって気がしませんよ……これが報酬です」


「あはは……ありがとうございます」


「いやぁまさか私の部下が一枚噛んでいたとは思いませんでしたよ全く、まあ台車に乗っている彼等と共にじっくりと話を聞かせて貰う事にします……おい、行くぞ!」


報酬の入った小袋を俺に渡すと屋敷へと帰っていくシュレッケンさん一行。

恐らく聞く事聞いた後は道端のゴミの一つになるんだろうなぁ……と思いつつ俺は彼等の背を見送った。


「あ……あの、助けて頂いてありがとうございました」


「貴方が来なかったら私と娘が今頃どうなっていたか……本当に感謝してもしきれません、」


俺も貧困区を後にしようと思った所、店主さんとその娘さんに声を掛けられる。

娘さんは綺麗なブロンドの長髪に透き通るようなコバルトブルーの目、健康的で整った顔立ち、確かにシュレッケンさんの言う通りこの場所には似合わない程の美人だ。

そんな彼女が俺に頭を下げてお礼を言ってくれているという初めての光景に若干の毛恥かしさを感じてしまう。


「良ければ今からお父様の店で……」


「いやいやそんなお気遣い無く、俺は依頼された事をしたまでですので……それじゃあ私もこれで」


「あっ……い、何時でも私の店に寄って下さい!出来うる限りのおもてなしを致しますので!」


「本当にっ、本当にありがとうございました!」


慣れない雰囲気に耐えられなくなってしまった俺は彼等の話を遮ると逃げるようにその場を離れる。

感謝の言葉を背に受け、ああいう雰囲気は苦手だと心の中で呟きつつも満更でも無いな、とも思っている俺なのであった。


※※※


「はい、依頼成功って事を確認したよ、おつかれさん」


「ありがとうございますベルビーさん」


ギルドに戻ってカードを渡し、依頼完了の手続きを済ませる。

既に太陽は地平線に半分ほど隠れる頃になっており、酒場には一足早い酒盛りを始めている団体がちらほら見られる。

あちらさん方は複数の部隊で未開の地の捜査や賊の討伐、魔物の討伐等未知数の危険がある依頼を受けている奴ばかりだ、そりゃあ生きて帰れたらその事を喜びたくもなるってものだろう。

本来ならああいう奴等がハンターとしての本来の姿なんだろうが俺には真似する気は起きない。


「さあ今日はあたしの奢りだ!全員浴びる程飲みなぁ!」


「「「「ふぉぉぉぉぉぉ!ルピの姉御ゴチになりまぁぁぁぁっす!」」」」


……うん、特にその中心で酒樽の山の上で幹事をするという尤もらしい言い訳を付けて堂々と書類仕事をサボった我らがギルドマスター様のようには絶対になれないと思うしなりたくも無い。


「……[ピクピクッ]」


ああ、ベルビーさんがすっごいいい笑顔でその光景を見てる!握っている羽ペンがミシミシいってたり額に青筋が無ければ只の美人に見えるのにその出で立ちから発せられる威圧感が半端ない!怖いです!


「お、おおお落ち着いて下さいベルビーさん、血管が切れそうですよ!」


「大丈夫、ああいうのは良くあるからあれくらいじゃ何とも無いよ……あんたはああいう任務に行って帰って来ても絶対にあいつに幹事を任せるんじゃないよ?」


「分かってますし、そもそもやりませんよ」


まあ俺は富や名声じゃ無くその日の生活費を稼ぐ為に依頼をやっているってのと……殺し合いが嫌だってのが大きいかもしれないが。


「ふぅん……あの馬鹿ルピみたいにはなって欲しくないけどあんたは結構腕が立つんだし、そろそろ一歩、勇気を持って踏み出してあいつ等みたいに狩りの一つでもやったらどうだい?」


「いやいや俺はこのままでいいんですよ、このままで……」


まるで今の俺の心情を読み取ったかのようににやにやと意地悪い笑みを浮かべるベルビーさん。

流石は受付のプロと言うかなんというか……人の心を読むのが上手い人だ、

しかし勇気を出して……か、船の上でも考えた事だが殺めるって事はやはり相応の覚悟を持っていなくては駄目だ、それが俺の手では無く、死霊達を使って行わせた事だとしても。


その覚悟を俺はちゃんと持っているのか、殺すという事に自分が耐えられず感覚が麻痺してしまうのではないか……そんな恐怖が未だに俺の中で渦巻いているというのが事実だ。


「俺は今まで平和な世界で平和に暮らしてたんですよ?それが殺した殺されたの世界に足突っ込んで色々迷わないって方がおかしいじゃないですか」


「嫌々うそはいけないよ、あんたの目の前にはもう道があるんだ、勇気を出して一歩進めばいいのに自分が変わっちまう事を恐れて踏み出せないだけさね……それが嫌で色々理由を付けて自分が出来るだけ変わらない違う道が見つからないかと頑張ってるだけさ……それに意味が無いとは言わないよ、模索するってのは大切な事さ……でもね、生きてるって事は絶えず変わってくって事さ、良いようにも悪いようにも……ね、それに何時までも立ち止まっていたらいざ道が見つかって歩もうとしても足が弱ってその場から動けなくなっちまうよ」


「……」


本当にベルビーさんって人は凄い人だ、まるで……


「ババ臭い!それでも私と同年代かって聞きたくなってくるよ全くさ!要はうだうだせずにさっさと魔物の一匹でもぶち殺して来いって事でしょーに!」


「うわっ!酒臭っ!?」


「ちょっ、ルピ!あんたって奴は本当に……」


唐突に俺の後ろに現れたルピさんが凄まじいアルコール臭を漂わせながら現れる。

表皮が鱗なので見た目は変わっていないように見えるがこれは完璧に酔っている、間違いない。

突然の雰囲気ブレイカーの登場にベルビーさんも頭を抱えて『この馬鹿トカゲは全く……』とブツブツ呟いている。


「やっぱねぇ!コトブキに足りないのは度胸よ度胸!実力と精神が合ってないの、鼻垂れたガキンチョが竜を乗り回してんのと一緒!今のままだと危なっかしすぎんのよ!」


ルピさんはそんな彼女にお構いなく俺の方に向き直ると俺の片をがっしと掴んでジョッキ片手に語り始める。


「そういう子はね、[ゴクゴク]っぷは!なんかの調子で羽目外しちゃった時が一番怖いの!際限知らないからっ[ゴクゴク]……うえっぷ……コトブキ見てるとうちの姪っ子と重なって見えてしかた無いの![ゴクッ!]だから……あた……し…がきっ……ちりと…してっオエェェッ!![バタリ]…………」


「おぁぁぁぁぁっ!ルピさぁぁん!?」


「吐く程飲むなこのアホタレぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


……その後、グロッキー状態になったルピさんはギルドのウェイトレスさん達に担がれて奥の部屋へと運ばれていった。

酒盛りの場は一瞬騒然となったがただ単に酒の飲み過ぎで倒れたという事が知れると何事もなったように元の喧騒へと戻っていった。


……何か色々と台無しだよもう。


なんか今の一連の騒ぎでどっと疲れが出てきた俺は立ち去ろうとした時、ベルビーさんの『あたし達が言った事、良く考えておきな……あたし等はあんたの事考えて言ってるんだから』という言葉に『考えておきます』と返事をして俺はギルドを後にした。


※※※


「あ、お帰りなさいっす、夕飯は後ちょっとできるっすよ~」


「りょーかい、出来たら呼んでくれな」


「はいは~い」


[華やぐ若草亭]へと戻った俺は食堂から顔をだしたメリアルにそう伝えると自分の部屋へと戻る。

既に薄暗くなっている部屋に入ると杖を外して壁に立て掛け、装備をテーブルの上に置き椅子に腰かける。


「ギュミィ~!」


「おっ、ただいまチェーダ」


「ギュギュ~……」


ベットの隅から出てきてよじよじと俺の体を上ってくるチェーダ、そして俺の懐の中に入っていくと襟からひょこりと顔を出す。

俺はそんなチェーダの頭を軽く撫でてやると例の便利本を手に取って開く。

すると本のページが光りだしこの世界の文字と、俺の良く知っている日本語が写し出された。


「さてと、今日はどんな言葉が学べるのかなっと……」


これが俺の部屋に帰ってからの日課、この世界の文字の勉強だ。

この勉強を始める際に買って来たペンとインク瓶、羊皮紙を机の上に広げて夕日をバックに黙々と文字の勉強をしていく。

因みに勉強時間は日が沈むかメリアルに呼ばれるまで、一応ランプを借りれば日が沈んでからも勉強は出来るものの、油代がかかるので一度も借りてはいない。


いや借りれない程金が無いって訳じゃ無い、別にそんなガリガリと勉強しなければいけない程急ぐ事でも無い訳だからゆっくりと覚えていけばいいや的な考えというだけだ。


「はいはいコトブキさ~ん、そろそろ書き物終えて下りて来るっすよ~」


「りょ~か~い!」


そして辺りが薄暗くなってきた頃に下からメリアルの声が聞こえ、俺は本を閉じる。

しかし部屋に戻ってから書きものをしているなんて一言も言ってないのにああ言って来るって事は多分書いてる時の音が聞こえてるんだろうな。

安宿なので元がそんなに防音を意識していない造りになっている、と言っていたので足音で人を判別出来る彼女の聴力ならこの部屋で何をしているのかなんて丸分かりなんだろう。


プライバシーの侵害だ!と思いたい所ではあるがこの世界でそんな法律がある訳がなく、聞かれて恥ずかしいような生活なんぞ送っていない訳である俺からしたら大した問題じゃあ無い。


……まあ流石にトイレは宿の外で借りているけど。


※※※


「ごちそうさま~」


「お粗末様っす!」


食事を終える頃には既に外は暗く、食堂はランプの明りでほんのりと明るく照らされている。

夜になったとはいえ町の活気は衰えていない、この宿や他の店から洩れる光で煌煌と照らされた大通りには仕事終わりで家に帰る者、一晩の宿を求めて町に寄った冒険者達や行商人、そんな人々をターゲットにした宿の呼び込み等々……そんな外から聞こえて来る声は昼時と相も変わらず賑やかなものだ。


「もう夜かぁ……時が経つのは早いなぁ」


「コトブキさん、その言い方まるで爺さんみたいっす」


「そ、そんな事は無いだろ!?」


「というかコトブキさんが纏う空気っすかね……何か此処に居るのに此処に居ないと言うか……空虚って言うんですかね?還り所が無い彷徨う魂みたいな雰囲気っす」


「[ゾクッ!]……なんじゃそりゃ」


「あはは、実は私も何言ってるか良く分かんないっす、それじゃ食器お下げするっすね」


「おう」


“彷徨う魂”、そのフレーズを聞いた時に俺の頭の中にトラックに轢かれた時の一連の出来事がフラッシュバックし不気味な悪寒が俺の体を駆け巡る。

実は俺は今でもトラックに轢かれたあの時のままで、今見ているのは死に逝く間に見ている夢幻なんじゃないのか……

そんな筈は無い!と、その考えを頭から振り払うと俺は出来るだけ平静を装い呆れたような視線をメリアルに向ける。


メリアルはそんな俺を見て困ったように笑みを浮かべながら肩をすくめて見せると既に空になっている俺の皿を盆に載せるとスタスタと調理場の奥へと消えて行った。


「そうだ、そんな筈は無い……」


テーブルに1人残った俺は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、その現実から逃げるように自分の部屋へと帰ると布団を目深に被り眠りにつくのだった。


※※※


その夜、蝋燭一本の薄明りで照らし出された空間の中で外套で身を包んだ二つの人影がひそひそと話し合っていた。

蝋燭には数匹の羽虫が群がり、炎の周りを飛び回っている。


その様子をじっと見ていた片方の人影が口を開く。


「……贄の供給が遅れているようだがどうしたのだ?」


「それがどうやら陸路、海路両方に邪魔が入ったようで」


「ギルドに嗅ぎつけられたのか?」


「いえ、どうやらルヴィス・ハーバーに住み込んでいる死霊術師が独断で行った事のようです」


「ふぅむ、こちらの意図を知っていてやっているのかそれとも只の偶然か……どちらにせよ事が明るみに出るのは必至、そいつには礼をしてやらんとな」


「では刺客を放つので?」


「いや、例の実験体を使う、丁度成果を試したかった所であるしな……」


「分かりました、それでは早速」


「うむ、手筈は追って伝える」


片方の人影が軽く会釈をするとその場から立ち去った。

もう一つの人影はそれを見送ると蝋燭の火を消し、同じく闇の中へと姿を隠す。


その後、彼等の会談を唯一聞いていたであろう蝋燭に纏わり付いていた羽虫達も夜の闇へと消えて行った。

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