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俺、(召喚する死霊が)最強の死霊術師です!  作者: ニャンコ太郎
~序章~ 俺、死霊術師になりました
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第一話 死霊術師、異世界へと漕ぎ出す

「[ギィ……ギィ……]うぅっ……何処だ此処?」


木が軋むような音と水が何かにあたる音、そして揺れる地面……


気が付くと俺は数多の星々と満月が輝く夜空の下、海の上で小舟に揺られていた……って待て待て待て!一体なんだこの状況!?

何かとんでもない状況に陥っている可能性があると感じて俺の朦朧としていた意識が急速に覚醒していく。

……トラックに撥ねられて意識が遠のいた後、起きたら船の上ってどういう状況よこれ?全くもって事象の関連性が無いように感じるんだが……ここに至る過程に何が起きたし!


「どうなってやが……[ガバッ!]服が!」


そして自分の服を触ってみると質感に少し違和感が……良く見たら俺の服もローブみたいのに変わってるじゃねぇか!

俺は勢い良く仰向けに寝ていた体を起こす……って待て、俺は意識を失う前にトラックに撥ねられて間違い無く致命傷を負っていた筈じゃあ無かったか?何で普通に起きられるんだよ?

そう思い体の隅々まで触って確認してみるが別段痛みも無いし異常も見られない……一体どういう事なんだ?


考えられる可能性としてはトラックの運転手が気絶した俺を死んだと勘違いして証拠隠滅に服を着せ替えた後そこらのボートに乗せて海に流したとかか?

……いやいやそうだとしたら理解に苦しむ点が多すぎる、俺を治療する意味が分からない……ってか血だまりが出来るレベルの傷を跡形も無く治せる筈が無い。


「訳が分からねぇよ[コツン]……お?」


不意に手に何か棒のような物が触れる、取ってみるとそれは俺の身長くらいあるねじくれ曲がった取っ手に簡素な布が巻いてあるだけの真っ黒な長い杖だった、所謂スタッフというやつだろうか。

……黒かったから月明かりとはいえ見えていなかったらしい。

他に何かあるかもしれないと小船の上を見回してみると船の端に袋が置いてあった。

何が入っているのかと中を開けてみると小さな本が一冊、硬貨と思われる物が入ったチャリチャリと金属音がする小袋、それと干し肉、パン、果物、水が入っている皮袋が出てきた。

……いよいよもって訳が分からなくなってきたぞオイ、何で食糧なんかが積み込まれてるんだよ。


「ま、それはともかくこれには何が書いてあんだか……[ピカッ!]うおっ!?」


俺は本を手に取り表紙を開ける、すると白紙だったページが光り輝き日本語の文字が浮き上がってきた。

いきなりの事に少し驚いたが今の所情報ソースとなりそうな物は他に無いので文字を読んでみる。


「え~と何々?“貴方はとても幸運なお方です、今回本来ならば死ぬ所を異世界でもう一度生きるチャンスを与えました。今度は愚かな理由で死なないよう頑張って生きて下さい”……ってはい!?」


異世界?一体どういう事なんだオイ?

浮き上がった文字を読み終えるとそのページの光は消え、次のページから光が漏れだす、俺はそのまま半ば導かれるようにページをめくる、そうすると次のページも同じように文字が浮かび上がってきた。


「“まずこの世界は魔法が存在し、魔物が闊歩する世界という事をご理解下さい。貴方はその世界の住人となりこれから生きていく事になります、今現在の状況に頭が追いついていないお方に申しあげておきますとこれはれっきとした現実です、多少無理やりでも現実を受け止めて下さい、てか受け止めろ”」


現実を受け止めろって……こんな現実離れした状況でか?無理言うなよオイ、ってか命令形かよ。

まあ光って文字が浮き上がってくる本を読んでる時点でもう半ば受け入れちゃってる気がするけどな!


それに風や潮風、海の匂い……確かに現実っぽい、願わくばこいつがリアルな夢であるという事に賭けたいんだが。

試しに船の外の水を掬って口に含んだところ非常にしょっぱかった、昔親に連れて行ってもらった時飲んだ海の水の味そっくりだった……こりゃ間違いないか。


どう考えても本物な感覚に半ば諦めた願いを呟きつつ俺はそのまま俺は文字を読み続ける。


「“この本はこの世界での基礎的な情報が載っています、お望みの情報があれば本を開くとこのように表示されますがあくまでこの世界の一般人が知り得るものに限定されますのでご注意ください、てかこんな本を頼らず自分で調べろ、写し出すのが面倒くさい”」


この本何で一々最後にイラッとくるフレーズ入れるかな、てかこれ今サラッと存在価値否定しやがったぞオイ……まあつまりこの本はルールブックみたいなものと捉えていい訳か。

そう考えるとこれがゲームの世界みたいに思えて来るな、まあこんな何もかもリアルな感覚のゲームが出たとして楽しめるかは謎だが。

まあそんな事を考えていても仕方が無い、今はとにかくこの本を読んで情報を集める事が先決だ。


俺は再び光り出したページをめくって次に出てきた文章を読む。


「“それでは申し訳程度に貴方のこの世界での生い立ちをここで紹介しておきます、※貴方は辺境の地でさる美少女兼一流死霊術師の下で修行を積み、厳しい修行の後その死霊術師が持っていた力そのものであった杖を授かりました。そして死霊を操る力を得た貴方は自分の実力を試そうと未知なる世界に向けて船を漕ぎ出したのでありました※……中々でしょう?”……ハァ?」


……なぁにこの設定?ベッタベタっつうか何というか……出来そこないの中二病臭を感じるのは俺だけでは無い筈だ、てかこんなチンケな設定小学生レベルでも思いつけるだろ絶対!つか申し訳程度って酷いなおい!

何が『中々でしょう?』だよ!もうこういうパターンボロ雑巾よろしく使い古されてて今じゃ逆に珍しいわ、てかこんな生い立ちペラペラ人に喋れねぇよ恥ずかしい!

てか実力を試そうと未知なる世界に船を漕ぎ出したってバカか!もう一度言うぞ、バカか!

見たこの小舟に所羅針盤も地図も無いし十中八九遭難するだろ!何故誰も止めなかったし!

こいつボッチか?ボッチだったのか!?


……うん、それだったら若干新しい世界に漕ぎ出そうってのも分らなくも無いな、孤独って怖いもんね、うん。

そんな事思ったら急速にテンションが落ち着いて来たな……


まあ兎に角俺は死霊術師なのね?なんつーか服装と杖からして魔法使いみたいだな~とか思っちゃいたがまさか死霊術師だとは思わなかったよ。

あれか?俺は地獄から骸骨とかアンデットを呼び出せたりしちゃう訳か、それで戦ったりしちゃう訳ですか……どう考えてもゲームや本なんかでは悪側の職業です本当にありがとうございました畜生!

こんな職業で実力を試すって一体何をしようとしてたんだよこいつ……というか俺は?死体収集か?死体収集して死者の軍隊でも作ろうとかか考えてたんじゃあるまいな!?


……何でよりによって死霊術師なんだよ、剣士とか魔法使いでいいじゃん。


今までの事で溜りに溜まった感情を心の内で爆発させる、本当は叫ぼうとも思ったのだが満点の星空に船一艘、この空間じゃ何だか空しくなりそうなので止める事にした……まあ叫ばんでも十分空しい気分なんだが。

落ち着いた所で俺は後から続いて浮かび上がる文字を読んでいく。


「“さて、これから初歩的な死霊術を使っていきましょう、まずは|《死者蘇生》(リヴァイヴァル・デッド)、そして望むべき地への道しるべとなる|《亡者の道しるべ》(デット・サインポスト)を使ってみましょう。貴方の傍に置いてある杖、[ヴィヴェット・ソウルワンド]を握って唱えれば死霊術を使う事が出来ます、言っとくが大切な杖だから絶対無くすなよ?無くしたら百遍殺すぞ”……ヴィヴェットなんちゃらってこの黒い杖だよな?……《死者蘇生》[ゴウッ!]っうお!?」


半信半疑で杖を取り本に書いてあった通りに呪文を唱える、すると杖から黒い霧のような物が吹き出し視界を覆う。

それに驚くのも束の間、その霧からズズズッ……と這い出るかのようにぼろきれを纏った骸骨が現れた。


眼球があった所から不気味に光る青い目に若干気圧さている俺をギギギッ、という骨がきしむ音をたてながらマリオネットのように立ち尽くしジッと俺の事を見る骸骨、目があった空洞の部分が怪しく光って俺を見ているのが怖い。

え?これ……命令とかしちゃっても大丈夫なのか?


「え~と……俺の言葉分かります?」


「はい、ご主人様……」


うわ、普通に喋った、喋ったよ!

なんか洞窟の奥からしわがれたような声を出したような不気味な声であったがはっきりと日本語で喋ったぞこいつ!

とりあえず日本語は通じるようだ……という事はこの世界では日本語通じるのか?いやいやまだ断定するには早い、俺が召喚したから日本語に聞こえるのかもしれんしな。

とりあえずこの骸骨さんは置いておいて俺は次の作業に移る。


「……」


待て、今普通にさらっと流したけどさ、これって普通卒倒モノだよな……いかんもう俺毒されとるかもしんない。


「え、え~と、次は何をするんだったか……ああそうそう《亡者の道しるべ》!……何か起こったか?」


とりあえず杖を持って呪文を唱えてみる……が、特に何が起こると言う訳でも無く、俺は周囲をキョロキョロと見回す。


「ご主人様、前を……」


「ん?」


ギギギッ、と軋んだ音を出して骸骨が指差した先を見ると海上にぼやっと青白く人影が……って人だあれ!?

波の上で中世に出てくる下っ端水夫のような服を着て青白く光る虚ろな顔をしたやせぎすのおっさんが何処かを指差している……あれが道しるべって事か?しかし俺は何処に行こうとも決めていなかった筈なんだけどな。

そういうのを決定しなかった場合は適当に道が示されるのだろうか?


「とりあえず近づいてみるか……」


「それではわたくしが船を漕ぎましょう」


「うん、頼んだ……ってそのオール何処から出した?」


「普通に置いてありましたが?」


「そ、そうか……それじゃああいつの所まで頼む」


いつの間にかオールを持って船尾で待機していた骸骨さんの手際の良さに少し驚きながらもそう指示して海の上にぽつんとたたずむおっさんの幽霊の下へと向かう。


冷静に考えてみればこの小舟には帆が無いしオールとかで漕いできたのは当然か。

しかし骸骨が漕ぎ手の船とかこのまま冥府に行っちゃいそうな雰囲気だよな、船の先にぼやっと光るカンテラなんかが付いてたら更にそれっぽくなっていたに違いない。

……まさかあいつに付いて行ったら本当に地獄行きとかないよね?


そうこう考えている内に俺を乗せた船は青白いおっさんの下へとたどり着く、うん……やっぱりどことなく幸薄そうな顔だ。


「あの~」


[フッ]


「……あれ?」


そしてその男に話しかけようとすると男の姿はフッ、と消え、また離れた所に現れた、相変わらず果てしない海の一方向を指差している。


「何処に向かわせようとしてるんだか……まさか迷わせようとしてるんじゃないよな?」


「本来《亡者の道しるべ》を使いますと目的の場所を知っている亡者が選ばれ道先案内をしますが、ご主人様のように場所を指定しなければそこから一番近くで死んだ者の浮かばれない魂が導き手として選ばれます、そしてその亡者が浮かばれない原因の下まで案内するのです」


現状が分かっていない俺に対して骸骨さんが丁寧に説明をしてくれる。

そういう効果があったのか《亡者の道しるべ》……親切に説明してくれた骸骨さんに感謝だ。


「成程……じゃあ俺は今あのおっさんが浮かばれない原因の下に運ばれてるって訳だ……それって危なくないか?」


「場合によっては危ないかもしれません、しかしそれ相応の対価はあると思います」


「対価?」


「浮かばれない魂を救ってやる事でご主人様の死霊術師としての格を上げたり、場合によっては持ち物であったものをくれるやもしれません」


「つまりは魂の救済って事か?死霊術師のやる事じゃ無いと思うんだが……」


「何を言うのですかご主人様、死霊術師は言ってみれば魂のスペシャリスト、彷徨える魂を救い、悪霊を祓い、亡者を導き、時には従え自らの力とする……それが死霊術師ではございませんか!」


「は……はぁ」


……なんか骸骨さんに力説されてしまい若干唖然とする俺。

骸骨さんの言う通りだとすれば死霊術師ってエクソシストみたいな役割でこの世界じゃあんま悪い目で見られたりはしていなかったりするのだろうか?

まあそれを知るにはどうにかして人のいる陸地に行かなきゃな。


「所であのおっさんの目的地にはどれぐらいで着くんだろ?」


「そこまでは流石に私にも……申し訳ありませんご主人様」


「いや誤らなくていいって……俺は本読んでるから船は頼むわ」


「承知致しました」


おっさんの目的地まで時間がありそうなので俺は本を開いて再び読み始める。

流石に骸骨さんが居る所で声に出して読むのは恥ずかしいので黙読だ……ってか何で俺は今まで声出して読んでたんだよ。


“さて、これで一応の説明を終わりにいたします。恐らく最初の《死者蘇生》で出てきたのは非戦闘系のアンデットでしょう。しかしちゃんと戦闘系のアンデットも召喚できますのでご安心下さい、また新しい情報、スキル、死霊術を覚えられる際にはこの本がお知らせしますので肌身離さず持つ事をお勧めいたします、それでは楽しい異世界ライフを。 あの時助けていただいた美少女兼一流死霊術師、マルテリアス・フィアーナより愛を込めて”


「……成程、ここに送ったのはあの時のコスプレ少女か」


既に光が消えて月明かりで照らされたその一文……最後の人物の部分を指で叩きながら俺はその名前をしっかりと覚える。


……しかし美少女兼一流死霊術師ってすごい自信だなオイ、美少女の所は認めるが。

てかさっきの設定(笑)に書いてた師匠役ってこいつじゃね?思いっきり最後でネタバレしてるよねこの子?


って事はあの少女もこの世界に居るって考えていいのか?いやそれじゃあ俺の世界に居た原因がさっぱり理解できないな。

ともかく彼女が俺をこの世界に送り込んだのなら元の世界に帰れる方法も知っているのではないのだろうか?

俺を送り込んだのには何か理由があるのか?それともただの酔狂か……ふむ、目標が決まったな。


当面の目標はあの美少女がこの世界に居るかどうかを調べて、探す事だ。


俺は光を放ち終え、うんともすんとも反応しなくなった本を閉じてローブの何処かに仕舞える所は無いかと探した後に裾のポケットに放り込むと『もう読書は終わりなのですか?』と聞いてきた骸骨さんにそうだ、と答えると俺は船に寝転がる。


正直色んな事が突然起きて頭が疲れ切ってしまっていた俺はかなりの疲労感に襲われていたらしく、目を閉じるとあっという間に眠りの世界へと誘われていった。

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