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その6:タイフーンシェリー

夕方になると、お客さんだけでなく売り場に並んでいた商品もまばらになっていった。

 赤い日光がウォルガレンの滝にあたってキラキラと反射するのを、シェリーはボーっと

眺めていると、空き地を囲んでいる木々を木枯らしが揺らし、シェリーの顔をなぞって去っていった。

「さ〜て、そろそ〜ろ店じま〜いですかね〜」

 馬車の中からラッパを取り出すと、三度目の快音を響かせる。

『パラパラッパパッパッパッパ、パッパパパパパーパ』

 三度目のラッパは閉店の合図だ。

 シェリーは残った商品を幌馬車に積みなおし、空き地を元の状態へと戻していく。

 手馴れている作業なので、さほど時間はかからなかった。

 キレイに幌馬車の中の整理を済ますと、馬を軽くムチでたたく。

「で〜は、しゅっぱ〜つ!」

 幌馬車が空き地をゆっくりと後にし、来た時と同じマスカーレイドの検問へと向かった。

「ノルンさ〜ん、なにも〜問題起こし〜ませんでしたよ〜」

「ああ、帰るのか」

 ノルンは口をへの字に曲げており、来た時と同様にあまり歓迎されていないらしい。

「どう〜したんです〜? おなか〜でも、痛いですか〜?」

 シェリーの問いに答えず、めんどくさそうにあごひげを撫でる。

「あまり頻繁には来るなよ。こっちはこっちで大変なんだ」

「失礼です〜よ。ぼ〜くたち商人〜は自由に〜商売をし〜ていいはずです〜」

「来るなとは言ってない。ただシェリーの扱う商品は、あくの強いものが多すぎる」

「どうい〜う、意味ですか〜?」

「そのまんまの意味だ」

 シェリーは首をかしげてから、口をプクーッとふくらましていた。

「納得いか〜な〜いけど、まあ〜いい〜や」

 来た時と同じような言葉を残し、シェリーはマスカーレイドを後に消えていった。

「ふう、これから忙しくなるな……」

 ぼやくノルンの横へと、数人の自警団員が走ってくる。シェリーの監視を任命されたハ

リアーの部隊だった。

「団長! ただいま戻りました」

「ご苦労」

 互いに敬礼をかわすと、ハリアーが報告を始める。

「特に変わったようすはありませんでした。なにも問題らしい問題も起こってませんし被

害にあったという報告も聞いておりませんが……」

 口を濁しているハリアーの頭を、ポンと軽く叩く。

「シェリーのあだ名、知ってるか?」

「いえ……」

「タイフーンシェリーだ。すぐに電話が鳴り止まなくなるぞ」

「はっ?」

「他の部隊は全員ここに集まるように言ってくれ。ハリアーの部隊はここに残り、通行証確認と電話番だ。いいな?」

「はぁ……」

 わけもわからず事務所へと入り、ノルンの命令を他の部隊へと伝える。

 ため息混じりにイスへと座ると、事務所内に電話の音が鳴り響いた。

「はい、こちら自警団事務所」

「あ、あの! さっきシェリーの店で買ったコショウを料理で使ってたら、とつぜん料理

が爆発しちゃって! 家が火事なんです、助けてください!」

「りょ、了解しました! 住所とお名前をお願いします!」

 事務所に備え付けられた苦情や抗議をまとめる紙に、ザッと住所と名前だけ書くと、そ

の下に火事と殴り書きをする。

「団長! 大変です!」

 ハリアーが事務所の外に行くと、団長よりも先に第三部隊長がハリアーの手から紙をく

すねる。

「住宅街、シャルローネさんの家が火事だ。行くぞ!」

 第三部隊長が命令を下すと、部隊員は全員足早に去っていった。

 呆気にとられているハリアーの後ろでは、自警団事務所に備え付けられている三台の電

話機が、協力してトリオを奏でている。

「いったい、なんだってんだ!?」

 ぽつりとつぶやいた後のハリアーは、部下二人と電話機につきっきりになってしまった。

「取っ手が二つついたコップ買ったんですけど、一つすぐ取れちゃって……シェリーと連

絡取れませんかね?」

「シェリーから買った二股の――コップだと思うんですけど、子どもに使わせたらどっちが

どれだけ飲んだかケンカになっちゃって……」

 少しずつ苦情は、シェリーとはあまり関係のない愚痴へと変化していったが、それを無

碍にできないのも自警団のつらいところだ。

「タイフーン――来た時だけでなく、過ぎ去った後も復旧が大変ってことか……」

 二時間後、ようやくひと段落ついた電話機を前に、ハリアーは苦笑いを浮かべるしかな

かった。


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