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その5:マックスへのお礼

数分後、早くもシェリーは食事を終えていた。

「ごちそうさ〜までし〜た!」

 両手を合わせて軽くおじぎすると、裏からニオが姿をみせていた。

「おそまつさま! おいしかった?」

 ニオは段ボール箱一杯のニンジンを抱きかかえており、シェリーの傍らへとゆっくり下

ろす。

「もちろ〜んです。ここの〜料理〜を食べる〜と、マスカーレイドに〜来たって感じがし

ます〜」

「そこまで言ってもらえると嬉しいなぁ。腕によりをかけて作ったかいがあったわ」

 かすかに照れながらもニオは、自身ありげに何度もうなずいている。

「それじゃ〜、今回の〜代金は〜これ〜で〜」

 シェリーはふところから出したのは、小さな瓶だった。

 少し警戒をしながらも受け取ったニオは、ふたを開ける前に銘柄を確かめる。

「今回はどこの香水なの?」

「フェアリーの〜住む〜森にし〜か生息しな〜いと言われ〜ている、フェアリーテイルと

い〜う花の香水で〜す。今回は〜これで〜」

 渡された瓶のふたを開けると、甘いバニラの匂いとサクラの匂いが混じったような、か

いだことのない匂いだった。ただ、その匂いだけで店の中は、春独特の木漏れ日を独占し

たような暖かい雰囲気に包まれていく。

「いい香りだね。ありがとうシェリー。また次を楽しみにしてるからね!」

「こちら〜もで〜す、じゃあ〜また会う〜日まで〜」

 お互い小さくお辞儀をする。シェリーはニンジンの入った段ボールを抱え、オートエー

ガンを後にした。

「なんだか変わった匂いの香水だね。いい香りだけど」

 そばにいたシェラが声をかけると、ニオは気合を入れてVサインをした。

「うん、今回は当たりだった!」

「当たり?」

 わけがわからず首をかしげるシェリーに、ニオはクスクスと含み笑いをする。

「シェリーは毎回ここで食事をするたび、代金の換わりに珍しい香水を置いていくのよ」

「へえ。さすが行商人ね」

「ただ、珍しいのといい香りなのは別問題なのよ。珍しいだけで匂いは尋常じゃなかった

りもするわけ」

「それで当たりはずれがあるってわけか……」

 あごに手をやりつつ納得するシェラのそばで、ニオは何度もうなずく。

「以前、世界で一番臭いといわれてるレフラシアンっていう花の香水を持ってきたの。開

けた瞬間に鼻の奥を突き刺すような臭いがしてね。しかも店内にその臭いが染み込んじゃ

ったから、臭いが消えるまでの三日間、臨時休業にしたこともあったんだよ」

 苦笑するシェラに、臭いを思い出したのか首をブンブンと振るニオ。

「その時の香水まだ持ってるけど、シェラも嗅いでみる?」

「遠慮しとく……」

 ニオの勧めに即答すると、シェラは裏のキッチンへと逃げていった。

 

 元の空き地へと戻ると、マックスが店の中央で暇そうにしていた。回りのお客さんは先

ほどよりも減っているが、商品の数も減っているのでそれなりには売れているらしい。

「マック〜スさん、ご苦労〜さま〜」

「もう帰ってきたの? 一時間とか言ってたのに三十分もたってないぞ?」

「ニ〜オさんの厚意に〜より〜、短時間〜ですみ〜ました」

 マックスに深々と頭を下げてから、シェリーは段ボールの中のニンジンを幌馬車の馬に

やる。馬は喜んでニンジンをほおばっていった。

 軽く馬の鬣を撫でてから、シェリーは幌馬車の中から一つの陶器の壺を取り出していた。

 リンゴ大の大きさの白い陶器に、植物のつたのような模様が描かれている。

「お礼に〜この壺を……」

「くれるのか!?」

「いいえ〜、一回だ〜け使わ〜せてあげま〜す」

 壺の口を塞いでいた蓋をあけると、マックスの方へと向けた。

「この〜壷の中〜に自分の〜願いを言う〜と、一晩だけ〜ですが〜叶うんですよ〜」

「願いって、どんな願いでもいいの?」

「もち〜ろんです! さぁ、願い〜ごとを〜言ってくだ〜さい」

 壺を持ったままシェリーは、マックスを凝視していた。それでもマックスは首をかしげ

るばかりだ。

「なんだか、うさんくさいなぁ」

「そ〜んなこと、な〜いです! ぼ〜くも毎日、使って〜るんですか〜ら」

「シェリーも使ってる? ってことは、何回でも使えるんだ」

 マックスの問いに、シェリーはそっと微笑んでから頷いた。

「一度〜しか使え〜ないな〜ら、マック〜スさんに〜は使わせ〜ませ〜ん」

「そりゃ、そうかもしれないけど」

「さあ〜、はやく〜願いを〜」

 壺をマックスの前へと差し出す。マックスは一度咳払いをしてから、キョロキョロと辺

りを見回した。

「こ、ここで言うのか?」

「だいじょ〜ぶです〜。だれ〜も聞いてないし〜、壺に〜口をつけ〜て言えば〜周り〜に

は聞こえま〜せんから」

「じゃあせっかくだから、使わせてもらおうかな」

 シェリーから壺を受け取ったマックスは、口をつけてなにやらぼそぼそとつぶやく。

 すると白かったはずの壺の色が、ピンクがかった赤色へと変化していった。

「はい〜、ごくろう〜さま〜」

 マックスから壺を受け取ると、ふたを閉めて幌馬車の中へと戻した。

「それ〜じゃあ、今夜を〜楽しみ〜にしてて〜」

「今夜って、何時ぐらいになるんだ?」

「日が〜暮れてからで〜すかね〜」

 首をかしげながら、答えるシェリー。そこまで聞くとマックスは納得したのか、

「次に会うのを楽しみにしてるから、シェリーも商売頑張ってね」

 とだけ言って去っていった。

「は〜い、ありがと〜ござ〜いました」

 シェリーが手を振りながら見送ると、マックスは早くもめぼしい女性に声をかけていた。

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