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Purorōgu

初めまして、マルコス・サフィールです。

本日より、この物語の連載を開始いたします。

物語をじっくりと書き進めるため、当面は各章を「いくつかのパーツ」に分けて少しずつ投稿していく予定です。そして、一つの章がすべて完成した段階で、皆様が一気に読みやすいよう「一つのエピソード」として統合リライトいたします。

毎週日曜日の夜に更新していきますので、応援どうぞよろしくお願いいたします!

皇帝の執務室は、ずっしりとした重苦しい空気に満ちていた。


君主は机に両肘をつき、指を深く組み合わせて微動だにしない。その鋭い眼光は、ただ虚空の一点を見つめていた。


机の向こう側では、最高総理であるザラフェリアが、冷静な面持ちでその姿を観察している。


「陛下」


彼女の声が、室内の静寂を切り裂いた。


「近衛兵からの報告です。あの死が『不自然なもの』であったことは、もはや疑いようもありません」


皇帝の視線がザラフェリアへと動く。彼女は机の上を滑らせるようにして、いくつかの調書が収められた革のフォルダを差し出した。


「部屋の扉がこじ開けられた形跡はありません。それに、配置されていた護衛たちも、遺体と酷似した状態で発見されました」


ザラフェリアは言葉の重みを測るように、芝居がかった短い沈黙を挟んでから続けた。


「――全員、明白な死因のないまま息絶えていたのです」


皇帝はフォルダを開き、中身に目を通した。


写し出された写真のなかで、すでに死後硬直と変色が始まりかけた神官は、まるで深く眠っているかのようだった。しかし、その瞳が再び太陽の光を見ることは二度とない。


「窒息か? それとも毒か?」


画像から目を離さないまま、皇帝が低く問いかける。


「検死の結果、肺からも血液からも毒物は一切検出されませんでした」


ザラフェリアは淡々と応じた。


「外傷も、体内の損傷もありません。何らかの攻撃や負傷による死亡という線は、完全に除外されました」


「ならば病死か? あるいは……自ら命を絶ったと?」


「いいえ、我があるじよ。それもあり得ません」


「では、何だというのだ」


「そこが問題なのです。まるで……」


ザラフェリアは声を潜めた。


「まるで、前触れもなく魂だけを抜き取られたかのよう。ちまたの言葉を借りるなら、呪いか、あるいは神罰によって命を奪われたかのように」


君主は椅子から立ち上がり、思考を整理するために執務室の大きな窓へと歩み寄った。眼下には、広大な帝都の街並みが広がっている。


「ザラフェリア……お前は無神論者ではなかったか?」


皇帝は背を向けたまま、静かに尋ねた。


「なぜ今になって己の信念を疑うような口ぶりをする。神罰など存在しない。そこにあるのは、己の信仰の名の下に行動する『人間の意志』だけだ」







「私の無神論は変わっていません」


ザラフェリアは表情を変えずに応じた。


「信仰など、大衆を操るための道具に過ぎない。しかし、外の人間たちはそうは思いません。神殿の頂点に立つ最重要の神官が死んだとなれば、彼らにとっては深刻な『冒涜』となります」


最高総理は言葉を切り、次の言葉の重みを慎重に計った。


「我々にとっては、強力な盟友の失脚。これは明白な『宣戦布告』です、陛下……。彼によって何世紀にもわたり承認されてきた、帝国の法に対する挑戦に他なりません」


(彼女の言う通りだ)


皇帝は胸中で苦々しく思った。


(俺が焦燥を感じているのは、大衆の信仰のためではない。あの神官の死がもたらす『メッセージ』の重さゆえだ)


『ワリド・アラファフ』。それは最高位の神官に与えられる称号であり、法の創造、破棄、 tender そして操作のすべてを掌握する絶対的な権力者の名だった。まさに司法と立法的頂点。彼への襲撃は、単なる宗教的冒涜を超えた、帝国の法そのものを踏みにじろうとする直接的な試みであった。


「神殿の衛兵や検死官どもは、ただの病死だと信じ込んでいるようだが」


皇帝はついに振り返り、冷徹な口調で言った。


「この件の真相は二つに一つだ。神殿内部による裏切りか、あるいは彼を沈黙させるための外部による暗殺かだ」


「その通りです」


ザラフェリアは深く頷いた。


「だからこそ、神殿に探りを入れ、彼らの敵を監視せねばなりません。もっとも、神殿の内部に直接の敵がいたとは考えにくいでしょう。見るべきは、異なる宗派に属する対立勢力です。それに……今こそ我々の『特殊兵』を動かし、暗殺者が残したエネルギーの痕跡を追跡させるべきかと」


ザラフェリアの指摘は正鵠を射ていた。神殿は外部に対して一枚岩の強固な権力を装っていたが、その実態は内部で細かく断片化している。それぞれの宗派が聖典に対して全く異なる解釈を持っており、それは各派閥が帝国の法を独自の都合で理解し、適用しようとしていることを意味していた。


(『ワリド・アラファフ』の座は、あまりにも魅力的すぎる)


皇帝は脳内で散らばったパズルを組み立て、結論を下した。


(その称号を手にした者は、帝国全土に対して己の『正義』を強要できるのだ。邪魔者を排除するために死を仕組むというのは過激な手段だが、あの派閥どもなら確実にやってのけるはずだ)


「ザラフェリア、お前の成すべきことはこうだ」


皇帝は厳然と言い放った。


「神殿の第三、第五、第六宗派にあるお前の人脈を動かせ。奴らから引き出せる限りの情報を引き出し、可能であればすべての動きを監視させるのだ」


「承知いたしました。ですが、その情報を集める間、タレの管理を陛下にお願いしたく存じます」


最高総理は一歩前に進み、願い出た。


「彼は現在任務中であり、私が直属の監督官を務めております。私が動けなくなる以上、陛下が直接彼の監視にあたっていただきたいのです」


「奴は己の成すべきことを分かっている」


皇帝は突き放すように冷たく返した。


「俺がいちいち目を光らせる必要などない」


「理解しております。ですが、目を離せば危険な男であることもお忘れなきよう」


「奴は俺たちに忠誠を誓っている。我が身を滅ぼすような真似はすまい」


皇帝は拳を固く握りしめ、冷酷に言い放った。


「――もし裏切れば、この拳で直々に叩き潰すだけだ。もう下がれ。お前も俺し暇ではない。時間は黄金だ」


ザラフェリアは恭しく一礼し、部屋を退出していった。


静寂の戻った執務室で、皇帝は再び椅子へと腰を下ろした。目の前の混沌を掌握するための策を練り始める。


その脳裏に、あの夜――ワリド・アラファフの死を知らされた瞬間の光景が、鮮明に蘇りつつあった。



* * * * *



プロローグをお読みいただき、本当にありがとうございました!皇帝の前に突如として立ちはだかった、あまりにも巨大な難題。これから一体、この国はどうなっていくのでしょうか……?

本作の主人公オーロラが登場するまでは、もうほんの少しだけお待ちください。まずは皆様を、この帝国を揺るがす緊迫した状況へとお連れいたします。

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