全部、トモヤのために
※最終話です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この物語の結末になります。
「――トモヤ」
ドアを開けた瞬間。
そこに立っていたのは、ユウナだった。
「……ユウナ?」
息が止まる。
なんで。
どうして。
頭が追いつかない。
「どうしてって顔してるね」
くすっと笑う。
いつも通りの、あの笑い方。
「……だって」
言葉が、出ない。
そんな俺を見て、ユウナは少しだけ首をかしげた。
「トモヤがさ」
ゆっくりと、口を開く。
「……あの人のところに行ってほしいって、思ってたでしょ?」
「――っ」
心臓が、跳ねる。
「だから、行ってみたの」
さらっと言う。
まるで、大したことじゃないみたいに。
「トモヤのために」
――その言葉で。
全部、繋がった。
あの視線。
あの返事。
あのタイミング。
全部。
全部。
(……俺のため?)
「でもね」
ユウナが、少しだけ笑う。
「やっぱ無理だった」
「え……?」
「ぜーんぜん面白くないし」
肩をすくめる。
「なんか違うなーって思って」
くすくす笑う。
「最後なんてさ、ホテル連れてこうとしたから」
「思いっきり股間蹴って逃げてきた」
「えへへ」
――意味が分からない。
なのに。
なぜか。
胸の奥が、熱くなる。
「……ユウナ」
声が震える。
「ごめん」
自然と、言葉が出た。
「俺……バカだった」
全部。
間違えてた。
見てなかった。
気づかなかった。
一番大事なものを。
「……遅いよ」
ユウナが、ぽつりと呟く。
でも。
その声は、怒っていなかった。
「ほんと、遅い」
少しだけ、目を細める。
「でも」
一歩、近づいてくる。
「トモヤだし、いっか」
「……っ」
堪えきれなくなって。
トモヤは、ユウナを抱きしめた。
強く。
離さないように。
「ごめん……ユウナ……」
涙が、止まらない。
「もう間違えない」
「……うん」
ユウナは、そっとトモヤの背中に手を回した。
静かに。
包み込むように。
「だって」
耳元で、囁く。
「全部、トモヤのためにやったんだから」
――その言葉は。
どこか、少しだけ。
怖かった。
――――
数日後。
トモヤは、大学に戻っていた。
「トモヤ」
声をかけられて振り返る。
美咲だった。
変わらず、綺麗で。
少しだけ、遠い存在。
「……体調、大丈夫ですか?」
「はい。すみません、急に」
「いいえ」
小さく、微笑む。
「……もう大丈夫なんですね」
その言葉に、少しだけ詰まる。
でも。
「はい」
はっきりと、答えた。
美咲は、それを聞いて。
ほんの少しだけ。
寂しそうに笑った。
「そうですか」
それだけ言って、歩き出す。
引き止める理由は、もうない。
「……ありがとうございました」
小さく呟いた。
その背中に向かって。
届かなくてもいい言葉だった。
――――
帰り道。
ユウナが、隣を歩いている。
いつも通り。
少しだけ近い距離で。
「ねえトモヤ」
「ん?」
「もう、どっか行かないでね」
「……行かないよ」
即答だった。
ユウナが、満足そうに笑う。
その笑顔は。
やっぱり、どこか少しだけ――
普通じゃなかった。
でも。
それでもいいと、思えた。
「……トモヤ」
「ん?」
「好きだよ」
「……俺も」
夕焼けの中。
二人の影が、並んで伸びていく。
それが。
少しだけ、歪んで見えたのは――
きっと、気のせいだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
間違えた選択でも、
気づけたなら、取り戻せるものもあるのかもしれません。
少しでも何か感じていただけたなら嬉しいです




