高嶺の花に近づきたかっただけなのに、全部間違えた
※第1話です。
軽い気持ちで始めた選択が、
少しずつ違う方向へ進んでいく――
そんな物語です。
気楽に読んでいただけると嬉しいです。
トモヤは、いつも自分に巻きついて離れないユウナをどうにかしたかった。
そして――
大学の“高嶺の花”、美咲とお近づきになりたかった。
同じ講義にいても、同じ空気を吸っているだけで満足してしまうような距離。
笑っているところなんて、ほとんど見たことがない。
誰に対しても塩対応で、近づく男はみんな玉砕していく。
(でも……一回くらい、ちゃんと話してみたいよな)
そんなことを考えていた時だった。
チャンスは、転がっていた。
容姿抜群のユウナを、大学一のモテ男――中嶋 天が、いつも目で追っている。
(これ、いけるんじゃね?)
ユウナをソラに押し付けられれば――
俺は、自由になる。
そう思った瞬間だった。
「……トモヤ?」
名前を呼ばれて、はっとする。
目の前にユウナがいた。
そして――
じっと、俺を見ている。
「な、なんだよ」
「ううん、なんでもない」
そう言いながらも、視線は逸らさない。
やけに、まっすぐだ。
(……なんだよ、その目)
少しだけ、居心地が悪い。
けれど俺は気にせず、ソラがどれだけいい男かを語り始めた。
「背も高いしさ、モデルもやってるし、普通に当たりだろ」
「……そうなんだ」
「優しいし、女の子にも慣れてるし。ユウナには合うと思うけどな」
「……へぇ」
相槌は打つのに、目だけが笑っていない。
それでも、俺は続けた。
ユウナがソラと付き合えば、全部うまくいく。
俺は自由になって――
美咲に近づける。
完璧な作戦だ。
その間も、ユウナはずっと――
俺の目を見ていた。
何も言わずに。
ただ、じっと。
まるで、全部見透かしているみたいに。
(……気のせいか)
そう思って、目を逸らした。
――その日から、俺は“準備”を始めた。
ソラが近くにいるタイミングを狙い、ユウナをそこに誘導する。
会話のきっかけを作ってやる。
あとは、あいつに任せればいい。
簡単な話だ。
そう思っていた。
ある日。
講義の合間、トイレから出た瞬間だった。
足が、止まる。
(……来た)
少し先で、ソラがユウナに話しかけていた。
自然な流れだ。
あいつの方から行ったのか、それとも――
(どっちでもいい)
俺は壁際に身を寄せ、様子を伺う。
心臓が、やけにうるさい。
「少し話さない?」
ソラが、軽く笑う。
ユウナは、少しだけ俺の方を――
見た、気がした。
一瞬だけ。
(……いや、まさかな)
「うん、いいよ」
あっさりと、頷いた。
そのまま、二人は並んで歩き出す。
(よっしゃああああ!!)
心の中で叫ぶ。
(成功だ……!)
これで、俺は自由だ。
あの重たい視線からも、連絡の嵐からも、解放される。
(これでやっと――)
「ふふっ。何かいいことでもありましたか?」
「――え?」
振り返ると、そこには美咲がいた。
いつの間にか、すぐ後ろに立っている。
「あ、いや、その……別に何でもないでしゅ!?」
盛大に噛んだ。
(終わった……)
「ふふ。面白い方ですね」
くすっと笑う。
初めて見た、美咲の笑顔だった。
一瞬、見惚れる。
「み、美咲さん! お茶でもいかがですか!?」
ダメ元だった。
断られて当然。
そう思っていたのに――
「うーん……時間もありますし、いいですよ」
「え、マジで!?」
思わず声が裏返る。
(きた……!)
夢みたいな展開だ。
有頂天のまま、美咲の隣を歩き出す。
周りの視線が、痛いほど刺さる。
それすら気持ちいい。
(勝った……!)
そう思った、その時。
――胸の奥が、チクリと痛んだ。
(……なんだ、今の)
理由は、分からない。
ただ、ほんの少しだけ。
何かを、置いてきた気がした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
まだ始まったばかりですが、
この先、少しずつ違和感が形になっていきます。
よければ続きも読んでいただけると嬉しいです




