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目が覚めたら爆乳美少女だった件について~元サラリーマン、異世界でTS転生ライフ始めました~  作者: かげるい


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第24話「Sランクの壁」

 王都での初日の朝。


 エルヴィーラに案内された騎士団訓練場は、俺の想像を遥かに超えていた。


 広大な敷地に、屋外の演習場、屋内の魔法訓練室、体力強化用のトレーニング設備。さらには模擬戦闘用のアリーナまで備わっている。


「うちの街のギルド訓練場が物置に見えるわね」


「国の軍事予算の差だろうな」


「リーナさん、あそこに的があります! 練習用の! すっごいいっぱい!」


 フィーネが目をきらきらさせている。修行好きの血が騒いでいるらしい。


「二ヶ月間、自由にお使いください。騎士団の訓練教官も必要であれば手配します」


「ありがとうございます、エルヴィーラさん」


「あ、それと」


 エルヴィーラが思い出したように付け加えた。


「今日の午後、武闘会の参加者たちへの公式歓迎会が王城の大広間で開催されます。出席は任意ですが、他の参加者の顔を見ておくのも良いかと」


「歓迎会か。行こう」


「了解。……でもリーナちゃん、パーティードレスとか持ってないわよね」


「……そこは、あれだ。なんとかする」


「なんとかって何よ」



 ◇ ◇ ◇



 午前中は訓練に充てた。


 まず全員の現状確認。連携の精度チェックと、個々の弱点の洗い出し。


「セレナ、氷魔法の持続時間を延ばす訓練を重点的に。ジルヴァ戦では持続が足りなかった」


「了解。魔力の消費効率を改善しないとね」


「フィーネちゃんは、対大型の立ち回り。Sランクが相手なら、速度だけじゃなくて受け流しの技術がいる」


「はいっ! 師範の教えを思い出して鍛え直します!」


「カイルさんは……まあ、自分のやり方でやってくれ」


「言われなくてもそうするよ」


「俺は三属性複合魔法の精度向上と、新しい魔法の開発。闇属性への対抗手段も考えないと」


 各自が訓練メニューに取り組む。


 俺は訓練場の端で、魔法の実験をしていた。


 三属性複合魔法は二度使った。渓谷のゴーレム戦と、魔将戦。どちらも全魔力を注ぎ込む一撃必殺型だ。威力は申し分ないが、使用後に魔力がゼロになるのが致命的な弱点。


「一発で全魔力を使い切るんじゃなくて、威力を落とした複合魔法を連発できないか……」


 小規模な風火複合を試す。指先に光点を生成し、的に向かって放つ。


 的が粉砕された。威力は十分だが、消費魔力が大きい。三発が限界だ。


「属性の融合プロセスが重いんだな。二つ混ぜるだけで魔力効率が五倍に跳ね上がる。三つ混ぜたら十倍以上」


 もっと効率的な融合方法はないか。前世の化学の知識が頭をよぎった。


「触媒……。そうだ、属性同士を直接融合させるんじゃなくて、媒介になるものを挟めば効率が上がるかもしれない」


 風と火を直接混ぜるのではなく、まず風で圧縮した空気を生成し、そこに火を注入する。空気そのものが触媒になって、融合の効率が上がるのでは。


 試す。


 右手に風の圧縮球を作り、左手で火を注ぎ込む。


「…………お」


 感覚が全然違う。魔力の消費が明らかに少ない。それでいて、光点のエネルギー密度は従来と遜色ない。


「これなら七発はいける。三属性でも三、四発は……」


「見事ですね」


 背後から声がかかった。


 振り向くと、見知らぬ男が立っていた。


 長身。短い金髪に、氷のように青い瞳。年齢は二十代後半。全身から冷気が滲むような、圧倒的な存在感。腰には青白く輝く長剣を佩いている。


 鑑定。


 結果を見て、息が止まった。


 名前:アイゼン。種別:人間。ランク:S。戦闘スタイル:氷剣術。所属:ヴァルハイム王国。


 Sランク。


 目の前にいるのは、エルヴィーラが言っていた武闘会の参加者。北のヴァルハイム王国の氷剣士。


「リーナだな。銀嵐の魔法使い。噂は聞いている」


 アイゼンの声は低く落ち着いていた。敵意はないが、品定めするような視線がある。


「アイゼン……さん」


「さん付けは不要だ。対戦相手になるかもしれない間柄だ」


「じゃあ、アイゼン。あなたがSランクの氷剣士」


「ああ。今の複合魔法、面白い構築法だった。属性の直接融合ではなく、媒介を挟んで効率を上げている。独学か?」


「そう。さっき思いついたばかりだけど」


「さっき? 即興でそこまで最適化するのか。噂通りの才能だな」


 褒められているのか、試されているのかわからない。アイゼンの目は終始冷静で、感情の色が薄い。


「少し手合わせしないか」


「…………は?」


「武闘会の前に、実力を把握しておきたい。お互いにとって有益だろう」


 Sランクから手合わせの申し出。普通なら断る場面だ。格が違いすぎる。


 だが。


「……やる」


 断る理由がなかった。Sランクの壁を知りたいなら、ぶつかるしかない。


「リーナちゃん!?」


 セレナが駆け寄ってきた。カイルとフィーネも訓練を中断してこちらに来る。


「あの人、Sランクのアイゼンよ。正気?」


「正気だよ。一回、壁の高さを知っておきたい」


「でも……」


「模擬戦だ。殺し合いじゃない。大丈夫」


 セレナは不安そうだったが、俺の目を見て頷いた。


「……わかった。でも、危なくなったら即やめてよ」


「約束する」


 アリーナに移動した。模擬戦用の円形闘技場。直径三十メートル。


 片側に俺、反対側にアイゼン。


 訓練場にいた他の騎士たちが、何事かと集まってきた。Sランクの手合わせは、めったに見られるものではないらしい。


「ルールは?」


「降参か戦闘不能で終了。致命傷は避ける。それだけだ」


「了解」


 風精の耳飾りに魔力を通す。特注バストサポーターの風魔法も起動。万全の状態。


 アイゼンが長剣を抜いた。青白い刀身が冷気を纏い、アリーナの気温が目に見えて下がった。吐く息が白くなる。


「抜剣するだけで気温が下がるのか……」


「この剣は永久氷晶で鍛えた魔剣だ。抜くだけで周囲を凍土に変える」


 とんでもない武器だ。魔剣そのものがSランクの性能を持っている。


「では、始めよう」


 アイゼンが構えた。正眼。剣道で言うところの中段。隙がない。


 俺は両手に風魔法を展開。さっき開発した媒介融合型の複合魔法を構築準備。


「――参る」


 アイゼンが一歩踏み込んだ。


 その一歩で、世界が変わった。


 速い。速いなんてものじゃない。カイルの倍。ジルヴァの更に上。音が遅れて聞こえるほどの加速。


 しかも、踏み込んだ足元から氷が放射状に広がり、アリーナの地面が一瞬で凍りついた。足場が氷になった。


「っ!」


 滑る。反射的に風魔法で浮遊して氷の上から離脱。空中に逃げた。


「空に逃げるのは悪手だ」


 アイゼンの声が、真下から聞こえた。


 見下ろす。アイゼンが長剣を振り上げている。刀身から放たれた青白い斬撃波が、空中の俺に向かって飛んでくる。


 氷の斬撃が空を裂く。回避。だが斬撃波は一本ではなかった。二本目、三本目が追尾するように軌道を変えて迫ってくる。


「追尾する斬撃!?」


 風魔法の全力加速で回避。三本の氷の斬撃を辛うじて躱す。だが体勢が崩れた。


 着地。氷の地面に足を取られる。バランスを崩した瞬間、目の前にアイゼンがいた。


 いつ移動した。鑑定すら追いつかなかった。


 青白い刃が、喉元で止まっていた。


 冷気が首筋を撫でる。ほんの数ミリ先に、魔剣の切っ先。


「…………」


「ここまでだ」


 開始から、七秒。


 七秒で完封された。


「リーナちゃん!」


 セレナたちが駆け寄ってくる。


 アイゼンが剣を引いた。表情は変わらない。最初から最後まで、余裕だった。


「率直に言おう。今のお前では、俺には勝てない」


「……ですね」


「だが、才能はある。複合魔法の媒介融合、即興での対応力、風魔法による三次元機動。磨けば、Sランクに届く素材だ」


「……ありがとう。ございます」


「二ヶ月後を楽しみにしている」


 アイゼンが背を向けて歩き去った。


 俺はアリーナの氷の上に座り込んだまま、しばらく動けなかった。


 七秒。


 たった七秒で、何もできずに終わった。


 これがSランク。


 これが、頂点の景色。


「リーナちゃん、大丈夫……?」


 セレナが隣にしゃがんだ。心配そうな顔。


「大丈夫。怪我はない」


「そうじゃなくて……」


「……正直、へこんでる」


 素直に言った。


「七秒だよ。何もできなかった。風の刃もスカされて、空中で追い詰められて、着地した瞬間に詰んでた。全部、読まれてた」


「…………」


「Aランクとの差がここまでとは思わなかった。ジルヴァとは互角に戦えたのに、あの人には子供扱いだ」


 悔しい。前世では味わったことのない種類の悔しさだ。前世では戦う場すらなかった。負けることすらできなかった。


 でも今は、負けられる。負けて、悔しいと思える。それは、戦っている証だ。


「リーナさん」


 フィーネが前に立った。まっすぐな琥珀色の瞳が、俺を見下ろしている。


「負けたのは今日です。本番は二ヶ月後です」


「……うん」


「二ヶ月あれば、リーナさんは絶対に強くなれます。わたし、知ってます。リーナさんの成長速度は、誰よりも速いから」


「フィーネちゃん……」


「わたしも一緒に強くなります。だから、ここでへこんでる暇はないです!」


 フィーネが手を差し出した。


 その手を掴んで、立ち上がった。


「……そうだな。へこんでる暇はない」


「おう。それでこそリーナだ」


 カイルが親指を立てた。


「二ヶ月で仕上げるぞ。Sランクの壁、ぶち壊してやろうぜ」


「リーナちゃん」


 セレナが俺の手を握った。


「あなたなら、できるわ。私が保証する」


「根拠は?」


「勘」


「勘かよ」


「女の勘は当たるの。あなたも女なんだから、わかるでしょ」


「……わかんないけど、信じるよ」


 四人の顔を見回した。


 全員が笑っていた。


 負けた後なのに、誰も暗い顔をしていない。それが、テンペスタの強さだ。


「よし。午後の歓迎会に行く前に、もう少し訓練するぞ。さっきの媒介融合を完成させたい」


「はいっ!」


「了解」


「おう」


 アリーナの氷が溶けていく。その上に、新しい風が吹いた。


 七秒の壁。


 二ヶ月で、必ず超える。



 ◇ ◇ ◇



 午後。王城。


 歓迎会の会場は、想像を絶する豪華さだった。


 大理石の柱が並ぶ大広間。天井にはシャンデリアが輝き、壁には精緻なタペストリーが掛けられている。テーブルには色とりどりの料理が山のように盛られ、給仕たちが優雅に行き交っている。


 問題は、ドレスだった。


「リーナちゃん、似合ってるわよ」


「……本当に?」


 エルヴィーラの手配で用意されたのは、深い藍色のイブニングドレス。背中は適度に開いていて、胸元はやや控えめだが、それでもGカップの存在感は隠しきれない。銀髪をハーフアップにまとめ、蒼い石のネックレスがデコルテを飾っている。


「控えめに言って、この会場で一番綺麗よ」


「お世辞はいい」


「お世辞じゃないわ。事実よ」


 セレナは深紅のドレス。金髪をアップにまとめて、首筋のラインが際立っている。こっちも息をのむほど綺麗だ。


「セレナも、すごく綺麗だ」


「ありがとう。……ね、腕組んでいい?」


「歓迎会で?」


「パートナーとして、自然でしょ」


 セレナが俺の腕に自分の腕を絡めた。藍と深紅のドレスが並ぶと、それだけで絵になる。


「リーナさん、セレナさん、すっごく綺麗です!」


 フィーネは白いワンピース。普段の活発な印象とは違う、清楚な装いが新鮮だ。


「フィーネちゃんも可愛いよ」


「えへへ」


 カイルは黒のフォーマル。意外と似合う。


「お前ら、パーティーの華だな。俺は引き立て役か」


「カイルさんもかっこいいですよ」


「フィーネちゃんに言われると素直に嬉しいな」


 ルナは宿舎で留守番だ。騎士団の護衛がついているので安全面は問題ない。「おねえちゃんたちのドレス姿、見たかったです」と残念そうだった。


 大広間に入ると、すでに大勢の参加者が集まっていた。


 冒険者、騎士、魔法使い。各国の精鋭たちが華やかな装いで談笑している。


 その中で、ひときわ異彩を放つ人物がいた。


 大広間の奥、窓際に一人で立っている女性。


 漆黒のドレスに、腰まで届く深い紫の髪。切れ長の紅い瞳が、冷ややかに会場を見渡している。年齢は二十代前半に見えるが、纏っている魔力の質が常人と桁違いだ。


 鑑定。


 名前:ゼノヴィア。種別:人間。ランク:S。戦闘スタイル:全属性魔導術。所属:シルヴァナ帝国。


 二人目のSランク。


 東のシルヴァナ帝国の魔導師。全属性魔導術の使い手。


「あの人が、もう一人のSランク……」


「ゼノヴィア。帝国最強の魔導師と呼ばれている人ね」


 目が合った。


 紅い瞳が、俺を捉えた。


 ゼノヴィアが、ゆっくりとこちらに歩いてきた。漆黒のドレスが波のように揺れる。近づくにつれて、膨大な魔力の圧が肌に伝わってくる。


「あなたが、リーナ?」


 低く艶のある声。


「はい。テンペスタのリーナです」


「……ふうん」


 ゼノヴィアの紅い瞳が、俺の全身を舐めるように見た。頭の先からつま先まで。途中、胸のあたりで一瞬止まったが、すぐに視線が上がった。


「全属性魔法適性。三属性複合魔法の使い手。魔力総量は……私より少ないが、密度は悪くない」


「見ただけでそこまでわかるんですか」


「魔導師なら当然のことよ。……そう、あなたが魔将を倒した銀嵐の魔法使い」


 ゼノヴィアの唇が、薄く弧を描いた。笑ったのだろう。だが、そこに温度はなかった。


「期待外れね」


「…………」


「今のあなたでは、私の相手にはならない。武闘会で当たっても、退屈な試合になるわ」


 挑発だ。だが、嘘ではないだろう。午前中にアイゼンに七秒で完封された身としては、反論のしようがない。


「二ヶ月後には、退屈させないようにしますよ」


「そう。楽しみにしてるわ」


 ゼノヴィアが踵を返した。去り際に、一言。


「あなたの魔力の奥に、面白いものが見えた。二重の魂。古い力の残滓。……あなた、ただの冒険者ではないわね」


 背筋が粟立った。


 ジルヴァに続いて、ゼノヴィアにも見抜かれた。転生者の魂の二重構造。


「……Sランクの目は誤魔化せないか」


「何か言った?」


「独り言。気にしないで」


 セレナに腕を引かれて、会場の反対側に移動した。


「あの女、感じ悪いわね」


「Sランクには変わった人が多いのかもしれないな」


「アイゼンは寡黙だけど礼儀正しかったわよ。あの人は単に性格が悪いだけよ」


 セレナが頬を膨らませている。恋人を馬鹿にされて怒っているらしい。可愛い。


「でも、あの人の言う通りだよ。今の俺じゃ、Sランクには届かない」


「だから二ヶ月で届かせるんでしょ。あなたならできるわ」


「さっきも同じこと言ったね」


「何度でも言うわ。あなたならできる」


 セレナの碧い瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。


 そこには、一片の疑いもなかった。


「……ありがとう。セレナ」


「どういたしまして。……あ、ケーキ美味しそう。取ってくるわね」


「切り替え早いな」


「甘いものは別腹よ」


 歓迎会は夜まで続いた。


 他の参加チームとも軽く挨拶を交わした。友好的なチームもあれば、敵意を隠さないチームもある。二十四組の中には、俺たちと同年代の若いチームから、百戦錬磨の老練なチームまで、多種多様だった。


 共通しているのは、全員が強いということ。


 この中で勝ち上がるのは、並大抵のことではない。


 宿舎に戻って、ベッドに横になった。


 隣のベッドではルナがすでに寝ている。


 天井を見つめて、今日一日を振り返った。


 アイゼンに七秒で負けた。ゼノヴィアに期待外れと言われた。


 悔しい。


 でも、不思議と諦める気持ちにはならない。


 前世なら、ここで折れていただろう。「自分には無理だ」と諦めて、挑戦すること自体をやめていただろう。


 でもリーナは違う。テンペスタは違う。


「……二ヶ月で、Sランクを超える」


 小さく呟いて、目を閉じた。


 明日から、地獄の特訓が始まる。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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