表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目が覚めたら爆乳美少女だった件について~元サラリーマン、異世界でTS転生ライフ始めました~  作者: かげるい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/25

第22話「大森林の試練」

 大森林に入って、すぐに空気が変わった。


 鬱蒼とした木々が頭上を覆い、陽光が木漏れ日となって地面にまだら模様を描く。街道は一応整備されているが、荷馬車がすれ違える程度の幅しかなく、両側から枝や蔓がはみ出している。


「視界が悪いわね。十メートル先が見えない」


「鑑定で索敵するから、俺を中心に固まって動こう。フィーネちゃんは前方五十メートルまでの偵察を頼む」


「了解です!」


 フィーネが音もなく前方に消えていく。森の中での身のこなしは、四人の中で彼女が圧倒的に一番だ。


 陣形はフィーネが先行偵察、カイルが右前方、俺が中央、セレナが左後方。ルナは俺の真後ろにぴったりとくっついて歩く。


「リーナおねえちゃん、この森、なんか変な感じがします」


「変な感じ?」


「うまく言えないんですけど……空気が、ぴりぴりするっていうか」


 ルナの古代魔法の感覚が、何かを察知しているのかもしれない。


「鑑定」


 広域スキャンをかける。半径五百メートル以内の反応を調べた。


「……魔獣の反応が多い。普通の森よりかなり密度が高いな。ゴブリンの小集団がいくつか、ウルフ系が群れで二つ、あとは単体の中型魔獣がちらほら」


「避けて通れそう?」


「密度が高い場所を避けながらルートを選べば、戦闘は最小限にできるはずだ」


 鑑定スキルをナビゲーション代わりに、最適ルートを探りながら進む。前世のカーナビみたいなものだ。ただしこちらは命がかかっている。


 一時間ほど順調に進んだ頃、フィーネが戻ってきた。


「リーナさん、前方に問題があります」


「何があった?」


「街道が崩落してます。斜面の土砂が道を塞いでて、馬車は完全にアウト。徒歩でも、乗り越えるのに相当苦労しそうです」


「昨日の雨のせいかもしれないわね。大森林は地盤が緩いから」


「迂回路は?」


「街道の北側に獣道がありました。そこを通れば崩落の先に出られそうですけど……獣道の先に、大きな魔力反応があります」


「大きい? どのくらい?」


「わたしにはわかりませんけど、リーナさんなら鑑定できるかと」


 フィーネの案内で崩落現場まで移動し、北側の獣道の方角に鑑定をかけた。


「…………ああ、これは」


「何?」


「グリフォン。一体。Bランク上位」


 全員の顔が引き締まった。


「グリフォンって、鷲の頭に獅子の体の?」


「そう。空を飛び、鉤爪と嘴で攻撃する。Bランク上位だけど、森の中なら空中機動が制限されるから、やり合える相手だ」


「迂回の迂回は?」


「南側は谷で行き止まり。北の獣道しかルートがない。グリフォンを避けるか、倒すかの二択だ」


「避けられる?」


「獣道がグリフォンの縄張りのど真ん中を通ってる。気づかれずに通過するのは難しい」


「じゃあ、倒すしかないわね」


 セレナが杖を構え直した。


「テンペスタの実力なら、Bランクのグリフォンくらい……って言いたいところだけど、ルナちゃんがいるのが難しいわね。戦闘中の安全確保を考えないと」


「わたし、隠れてます。邪魔しません」


 ルナが健気に言った。


「隠れてるだけじゃ不安だ。……カイルさん、ルナの護衛をお願いできる?」


「え、俺が子守?」


「護衛だ。グリフォンの注意が逸れた時にルナが襲われないように。もし他の魔獣が来ても対処できる人じゃないと」


「……まあ、Aランクに子守を頼むあたり、贅沢な話だな」


「頼む」


「しょうがねえ。ルナ、俺の後ろにいろ」


「はい、カイルおにいちゃん」


 カイルの強面がわずかに緩んだ。おにいちゃん呼びが効いたらしい。


「じゃあ、三人でグリフォンを倒す。フィーネちゃんが地上で引きつけ、セレナが翼を凍らせて飛行を封じ、俺が風魔法でトドメ。いつものパターンだ」


「了解です!」


「了解」


「行こう」



 ◇ ◇ ◇



 獣道を進むこと十五分。


 開けた場所に出た。大きな木が一本倒れて空間ができており、その上にグリフォンが陣取っていた。


 でかい。


 体長三メートル超。鷲の頭部は白い羽毛に覆われ、鋭い嘴が金色に光っている。獅子の体は筋肉質で、前脚の鉤爪は人間の頭ほどの大きさがある。背中の翼を折り畳んで、倒木の上で獲物を食っている最中だった。


「食事中か。奇襲のチャンスだな」


「フィーネちゃん、回り込んで」


「はい」


 フィーネが音を殺して木々の間を移動する。グリフォンの背後に回り込む。


 セレナが杖を構えた。詠唱を小声で始める。


 俺は風魔法を両手に集中させ、鑑定でグリフォンの弱点を割り出した。鷲頭の後頭部と、翼の付け根。ここを潰せば戦闘力を大幅に削げる。


「今!」


 合図と同時に、三方向から攻撃を仕掛けた。


 フィーネが背後から飛び出し、グリフォンの後ろ足を二刀で斬りつけた。


「ギャアアアア!」


 グリフォンが絶叫して振り返る。その瞬間、セレナの氷魔法が翼に直撃。右翼が根元から凍りついた。


「片翼封じた!」


「風刃・連撃!」


 俺の風の刃が左翼の付け根に殺到する。羽毛が散り、肉が裂ける。グリフォンの翼が両方とも機能を失った。


 飛べなくなったグリフォンは、地上戦を強いられる。森の中で飛べない鷲獅子は、脅威度が格段に下がる。


「ギャアアア!」


 だが、追い詰められた獣は凶暴化する。グリフォンが鉤爪を振り上げてフィーネに襲いかかった。


「フィーネちゃん!」


「大丈夫です!」


 フィーネが横に跳んで回避。鉤爪が地面を抉り、土と石が飛び散った。一撃の威力は凄まじいが、動きは読みやすい。


「セレナ、足!」


「氷結!」


 前脚が凍った。グリフォンの動きが止まる。


「トドメ!」


 風魔法を圧縮して、グリフォンの後頭部に叩き込んだ。鈍い衝撃音。鷲の頭が揺れ、金色の目から光が消えた。


 グリフォンの巨体が、どさりと倒れた。


 開始から四十秒。


「……あっさりいったな」


「Aランクパーティーの奇襲なんだもの。Bランクの魔獣なら、こんなものよ」


「でも油断しちゃダメですよね。次はもっと強いのが来るかもしれないですし」


 フィーネが短剣の血を拭きながら言った。この子は本当に成長した。初日の天真爛漫な少女から、一人前の戦士になりつつある。


「カイルさん、ルナちゃん、大丈夫?」


「問題ない。こっちにはゴブリンが二匹来たが、片手で処理した」


「カイルおにいちゃん、すっごく強かったです」


「だろ? リーナもこれくらい頼ってくれよ」


「十分頼ってるよ」


 グリフォンの素材を回収し、獣道を先に進む。崩落の向こう側に出ると、再び街道に合流できた。


「よし。第一の難所は突破だ」



 ◇ ◇ ◇



 大森林二日目。


 この日は魔獣との遭遇が多かった。ウルフの群れ、大型のトレント、毒蛇の巣。鑑定スキルで事前に察知して迂回を繰り返したが、それでも三度の戦闘が発生した。


 ルナは文句ひとつ言わずについてきた。体力の限界が近いのは見ていてわかったが、「大丈夫です」と笑って歩き続けた。


 フィーネが何度もルナの手を引いてやっていた。二人の間に、姉妹のような絆が育っている。


 夜の野営。焚き火を囲んで、俺はルナに聞いた。


「ルナ。古代魔法のことで、聞きたいことがあるんだけど」


「はい。わたしに答えられることなら」


「おじいちゃんに教わった魔法は、治癒と浄化だけ?」


「えっと……あと、少しだけ結界を張れます。おじいちゃんが『身を守るための最低限』って教えてくれた範囲です」


「結界」


「小さいのしかできないけど……やってみますか?」


 ルナが両手を合わせ、目を閉じた。


 金色の光が手のひらから広がり、ルナを中心に半径二メートルほどの薄い光の膜が形成された。


「鑑定……」


 光の膜を分析する。


「これは……すごいな。魔力を通さない障壁だ。闇属性も含めて、あらゆる魔法攻撃を遮断する」


「でも、物理攻撃は防げないんです。石を投げたら普通に通っちゃいます」


「物理は通す代わりに、魔法は完全遮断。……使いようによっては、ジルヴァの闇域展開を無効化できるかもしれない」


 全員の目が光った。


「それ、すごいんじゃない?」


「ジルヴァの闇は魔法属性だ。ルナの結界がそれを遮断できるなら、俺の属性魔法が通る空間を確保できる。闇の中でも戦える」


「でも、ルナちゃんを戦場に連れ出すのは……」


「直接戦わせるわけじゃない。後方で結界を維持してもらうだけだ。でも、本人が嫌なら強制はしない」


 ルナを見た。十三歳の少女が、真剣な目でこちらを見つめ返してきた。


「わたし、やります」


「無理はしなくていいよ」


「無理じゃないです。リーナおねえちゃんたちは、わたしを守ってくれました。今度は、わたしがおねえちゃんたちの役に立ちたいです」


「ルナ……」


「おじいちゃんが言ってました。『力は、守るために使え』って。わたしの力で、おねえちゃんたちを守れるなら。使いたいです」


 その目に、嘘はなかった。一週間前に村を失い、一人で逃げ続けた少女が、もう前を向いている。


「……わかった。ありがとう、ルナ。その気持ちは、すごく嬉しい」


「はいっ」


 ルナが笑った。焚き火の光に照らされた笑顔は、金色の古代魔法みたいに温かかった。


「じゃあ、ルナちゃんも含めて作戦を組み直しましょう」


「ルナちゃんの結界の範囲と持続時間を把握して、最適な配置を考えないとな」


「わたし、頑張って練習します!」


「練習は明日からね。今日はもう寝なさい」


「はーい……」


 ルナが素直にテントに入っていった。


 焚き火の前に残った四人が、顔を見合わせた。


「いい子だな」


「ええ。強い子よ」


「ルナちゃん、わたしの妹弟子みたいで嬉しいです」


「弟子じゃなくて妹分だろ」


「似たようなものです!」


 フィーネとカイルがテントに引き上げた後、俺とセレナが焚き火の番をした。


「ねえ、リーナちゃん」


「ん」


「どんどん家族が増えていくわね」


「家族?」


「テンペスタは、もう家族みたいなものよ。フィーネちゃんが妹で、ルナちゃんが末っ子で、カイルが……何だろう。面倒なお兄ちゃん?」


「面倒な叔父さんくらいじゃない?」


「あはは。本人に聞かせたら怒るわよ」


「で、セレナは?」


「わたし? わたしは……」


 セレナが焚き火を見つめながら、ふわりと微笑んだ。


「あなたのパートナー。恋人で、相棒で、一番近くにいる人」


「……いい位置だな」


「でしょ。最高のポジションよ」


 焚き火がぱちぱちと爆ぜる。


 森の夜は深い。でも、火があって、仲間がいれば、暗闘は怖くない。


「明日で大森林を抜けられる。そうしたら関所の町アルテナまで一日、そこから王都まで二日だ」


「もうすぐね」


「うん。もうすぐだ」


 王都で何が待っているのか。武闘会。黒蛇の結社。大陸の脅威。そして、転生者の魂の秘密。


 不安がないと言えば嘘になる。


 でも。


 右手にセレナの手。背後のテントに仲間たち。


 この手を離さなければ、俺はどこまでも行ける。



 ◇ ◇ ◇



 大森林三日目。


 最終日は、意外なほど穏やかだった。


 魔獣の遭遇は二回だけで、いずれも鑑定で事前に察知して迂回できた。ルナの体力も回復してきて、自分の足でしっかり歩けるようになっていた。


 午後になって、森が薄くなり始めた。木々の間隔が広がり、陽光の量が増えていく。


「あ! 出口が見えます!」


 先行していたフィーネの声が飛んできた。


 駆け足で追いつくと、森の切れ目の向こうに広い平原が広がっていた。


 そしてその先に。


「あれが……関所の町アルテナ?」


「違うわ。もっと先よ。あれは――」


 セレナが息を呑んだ。


 平原の遥か向こう、地平線の手前に、巨大な城壁が見えた。白い石造りの城壁が、山脈を背にしてそびえ立っている。城壁の内側には、尖塔がいくつも天を突いて、陽光を受けて輝いていた。


「王都……」


 予想より遥かに大きかった。俺たちの街の十倍はあるだろう。城壁だけで高さ三十メートルはある。その内側に、無数の建物と塔が密集している。


「すごい……」


 ルナが呆然と呟いた。


「あれが、この国の首都。王都アスガルド」


 カイルが腕を組んで、感慨深そうに言った。


「俺も来るのは三年ぶりだ。相変わらずでかいな」


「あそこで、武闘会が開かれるのね」


「あそこに、黒蛇の結社の手がかりがあるかもしれない」


「あそこに、わたしを守ってくれる人たちがいるかもしれない」


 五人が、それぞれの思いを胸に、王都を見つめていた。


「……行こう」


 俺は一歩を踏み出した。


「テンペスタ、王都に乗り込むぞ」


「はいっ!」


「了解」


「おう」


「はい、おねえちゃん!」


 五つの影が、王都に向かって歩き出した。


 大森林を抜けた風が、銀色の髪を揺らした。


 新しい舞台が、もうすぐそこに待っている。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

もし、この物語を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ