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目が覚めたら爆乳美少女だった件について~元サラリーマン、異世界でTS転生ライフ始めました~  作者: かげるい


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第14話「魔獣の大群、迫る」

 デートの翌日。


 いつものようにギルドに顔を出すと、異様な空気が漂っていた。


 冒険者たちがざわついている。カウンターの前に人だかりができていて、マリナさんが慌ただしく書類を捌いている。


「何かあったの?」


 近くにいたDランクの冒険者に聞くと、顔を青くしてこう答えた。


「北の斥候が戻ってきたんだ。魔獣の大群が、こっちに向かってるって」


 血の気が引いた。


「大群って、どのくらいの規模?」


「わかんねえ。でも、斥候(せっこう)が『地平線が黒く見えた』って言ってた」


 地平線が黒く見える規模。それは――数百体では済まない。


「リーナちゃん」


 セレナが駆け寄ってきた。顔が強張っている。


「聞いた?」


「聞いた。詳しい情報は?」


「マリナさんがまとめてるみたい。ギルドマスターが緊急会議を招集してる」


「リーナさん!」


 フィーネも息を切らして駆け込んできた。


「街の北門が封鎖されてます! 衛兵が総動員で城壁に配置されて……」


 只事ではない。


 ギルドマスター・ヴォルフの言葉が蘇る。


 ――近いうちにこの街に試練が訪れるかもしれん。


 これか。これが試練か。


「行くよ。ギルドマスターの会議に参加する」


「私たち、Bランクだけど会議に出られるの?」


「出られなくても出る。この街を守るって、俺は言ったんだ」



 ◇ ◇ ◇



 ギルドの大会議室。


 長いテーブルを囲んで、Aランク以上の冒険者数名と、ギルドの幹部、街の衛兵隊長が集まっていた。上座にはヴォルフが腕を組んで座っている。


 俺たちが入ると、何人かが怪訝な顔をした。


「Bランクがなぜここに」


「俺が呼んだ」


 ヴォルフが短く言った。それだけで、誰も異論を唱えなかった。さすがの威厳だ。


「座れ、テンペスタ」


 末席に三人で腰を下ろす。


 ヴォルフがテーブルの上に大きな地図を広げた。


「状況を説明する。今朝未明、北方斥候隊から緊急報告があった。北の大森林から大規模な魔獣の群れがこの街に向かって南下中。規模は推定千体以上」


 会議室がざわめいた。


「千体……!?」


「正気かよ。この街の冒険者全員合わせても百人もいねえぞ」


「加えて、衛兵が二百名。合わせて約三百。戦力差は三倍以上だ」


 ヴォルフが冷静に続ける。


「魔獣の種類は、ゴブリン、オーク、ロックリザード、ウルフ系の魔獣が混在している。統率されたように一団となって移動しており、通常の魔獣の行動パターンとは明らかに異なる」


「統率されてる? つまり、指揮する存在がいるってことですか」


 俺が聞くと、ヴォルフが頷いた。


「斥候の報告によれば、群れの中心に一体だけ異質な魔獣がいる。全身が黒い鎧のような外殻に覆われた、人型の魔獣。推定ランクはA、もしくはそれ以上」


「人型の……」


「魔将と呼ばれる存在だ。魔獣の群れを統率し、知性を持って軍勢を指揮する上位魔獣。十年に一度現れるか現れないかの、災害級の脅威だ」


 会議室が静まり返った。


 千体以上の魔獣と、それを率いるAランク以上の魔将。


 これは戦闘ではない。戦争だ。


「到達予測時刻は」


「明日の夕方。約三十時間後だ」


 三十時間。準備の時間としては、あまりにも短い。


「ギルドマスター、援軍の要請は?」


 Aランクの冒険者――銀色の鎧を纏った壮年の男が聞いた。この街唯一のAランク、騎士剣士のガルドという人物らしい。


「王都に早馬を出した。だが、援軍が到着するまで最短で三日。間に合わん」


「つまり、この街の戦力だけで凌ぐしかない」


「そうだ」


 重い沈黙が落ちた。


 誰もが、この戦いの厳しさを理解していた。数の差は絶望的で、魔将という切り札まで相手にはある。


「……ひとつ、提案があります」


 俺は手を挙げた。


 全員の視線が集中する。Bランクの若い――見た目は十六歳の少女に、ベテランたちの目が向けられる。


「テンペスタのリーナだ。発言を許す」


 ヴォルフが促した。


「千体の魔獣と正面からぶつかれば、勝ち目は薄い。でも、全部を倒す必要はない。魔獣の群れを統率しているのが魔将なら、魔将を倒せば群れは統率を失って瓦解する」


「それはそうだが、魔将はAランク以上だ。群れの中心にいる以上、そこに辿り着くだけでも――」


「辿り着きます。俺が」


 会議室がざわめいた。


「Bランクの小娘が何を……」


「聞いてくれ。作戦はこうだ」


 俺はテーブルの地図に指を置いた。


「街の北の平原に、魔獣の群れを迎え撃つ。城壁の上から弓と魔法で遠距離攻撃、城門前に前衛の冒険者と衛兵が防衛線を敷く。ここまでは正面からの防衛戦だ」


「それだけでは持たんぞ」


「持たせるんです。全軍に求めるのは、魔将を倒すまでの時間稼ぎ。その間に、俺たちテンペスタが少数精鋭で戦場を迂回し、側面から群れに突入して魔将に直接アタックをかける」


「三人で千体の群れを突破するだと?」


「突破じゃない。すり抜ける。俺の風魔法と鑑定スキルがあれば、群れの密度が薄い場所を見つけて最短ルートで魔将に到達できる」


 地図の上に、迂回ルートを指で描く。


「北平原の東側は小さな丘陵地帯になっている。群れが平原に展開すれば、東端は密度が下がるはず。そこから侵入して、丘陵の死角を使いながら群れの中心まで突き進む」


「到達できたとして、魔将をお前たちだけで倒せるのか」


 ガルドが鋭い目で問うてきた。Aランクの威圧感がある。


「倒します。嵐の渓谷でAランク相当のストーンゴーレムを討伐したのと同じ方法で。フィーネが前衛で引きつけ、セレナが足止めし、俺が三属性複合魔法で核を貫く」


「渓谷のゴーレムは一体だった。魔将の護衛がいたらどうする」


「護衛は……鑑定で数と配置を把握してから、臨機応変に対処します。最悪、護衛は無視して魔将だけに全力を叩き込む」


「無茶だな」


「無茶じゃなきゃ、この状況は打開できない」


 ガルドと視線がぶつかる。数秒の沈黙。


「……威勢はいい。だが、実力が伴っていなければ犬死にだぞ」


「犬死にはしません。仲間がいるから」


 隣でセレナとフィーネが頷いた。


「ギルドマスター。どう思われます」


 ガルドがヴォルフに振った。


 ヴォルフは腕を組んだまま、しばらく俺を見つめていた。


「リーナ。お前に聞く。失敗した場合、街はどうなる」


「防衛線が崩壊する前に魔将を倒す。失敗は想定しない」


「失敗を想定しないのは愚者のやることだ」


「……では、失敗した場合に備えて、城壁内への撤退準備も並行して進めてください。市民の避難経路の確保と、南門からの脱出ルートの設定も」


「それでいい。最悪を想定した上で、最善を目指す。それが指揮官の考え方だ」


 ヴォルフが立ち上がった。


「作戦の骨子はリーナの案を採用する。正面の防衛指揮はガルド。遊撃・魔将討伐はテンペスタ。衛兵隊は城壁防衛に専念。各員、持ち場につけ」


「了解」


 会議室が一気に動き出した。冒険者たちが立ち上がり、それぞれの準備に取りかかる。


「リーナ」


 ヴォルフが呼び止めた。


「街を守ると言ったな」


「はい」


「その言葉、忘れるなよ」


「忘れません」


 ヴォルフが、初めて見せる穏やかな目で、俺を見た。


「……頼んだぞ」


 その一言が、どんな称号よりも重く感じた。



 ◇ ◇ ◇



 会議室を出ると、カイルが壁にもたれて待っていた。


「聞いてたぞ。千体の魔獣に突っ込むんだって?」


「盗み聞き?」


「聞こえたんだよ。お前の声、よく通るから」


 カイルが壁から背を離し、真剣な目で俺を見た。


「リーナ。俺も行く」


「え?」


「三人で群れを突っ切るのは厳しすぎる。四人なら生存率が上がる。前衛が俺とフィーネの二枚なら、お前とセレナを魔将のところまで送り届けられる」


「カイルさん……」


「借りを返させてくれ。昇格試験の時、お前の実力を見くびった。あの時から、ずっと一緒に戦いたいと思ってた」


 カイルの目には、いつもの軽さがない。剣士としての覚悟が宿っている。


「……ありがとう。頼んだ」


「おう。任せろ」


 カイルが拳を突き出した。俺も拳を合わせる。


「あ、でもカイルさん。戦闘中に胸は見ないでくださいね」


「……善処する」


「善処じゃなくて約束して」


「わかったよ。約束する。……戦闘中は、な」


「戦闘中『は』って何」


 セレナが横から冷たい目を向けた。カイルが目を逸らした。


「とにかく四人パーティーだ。テンペスタ+カイルで、魔将討伐班。作戦を詰めるぞ」


 ギルドの一角で、四人で地図を囲んだ。


「フィーネちゃん」


「はいっ」


「明日は今までで一番危険な戦いになる。怖い?」


「怖いです」


 フィーネは正直に答えた。


「でも、リーナさんとセレナさんとカイルさんが一緒なら、怖くても戦えます。私はそのために修行してきたんですから」


「……頼もしいよ」


「セレナ」


「なに?」


「魔力の温存が鍵になる。群れの突破時は最小限の魔法で切り抜けて、魔将戦に全力を残してほしい」


「了解。任せて。……リーナちゃん」


「ん?」


「絶対、生きて帰ろうね」


「当然だ。まだセレナに返事もしてないんだから」


 セレナが目を見開いて、それから、ふわりと笑った。


「ずるい。それ言われたら、絶対死ねないじゃない」


「そういう作戦だよ」


「……最高の作戦ね」


 夜が更けていく。


 明日の夕方には、この街が戦場になる。


 準備できる時間は、あと二十四時間。


 その中で、やれることを全てやる。


 街の人々を守る。仲間を守る。そして、生きて帰る。


 セレナへの返事を伝えるために。



 ◇ ◇ ◇



 深夜。


 準備を終えて宿に帰り、自室のベッドに腰かけた。


 窓の外には、静かな夜空が広がっている。星が、いつもより多く見えた。


 ドアがノックされた。


「リーナちゃん、起きてる?」


 セレナの声。


「起きてる。入って」


 セレナが部屋に入ってきた。寝間着姿。金髪が下ろされていて、昼間のデートの時とはまた違う、無防備な美しさがあった。


「眠れなくて」


「俺もだ」


 セレナがベッドの横に座った。肩が触れ合う距離。


「怖い?」


「……少しだけ」


「リーナちゃんでも怖いんだ」


「そりゃあ怖いよ。千体の魔獣だ。前世で経験したどんなデスマーチより怖い」


「デスマーチって、前世の過酷な仕事のことよね。この世界でのデスマーチは文字通りになりそうね」


「笑えないよ」


「ごめん」


 二人で、窓の外の星を見つめた。


「ねえ、リーナちゃん」


「ん」


「明日が終わったら、もう一回デートしたい」


「……するよ。絶対に」


「約束ね」


「約束だ」


 セレナの頭が、俺の肩にもたれかかった。


 金髪がさらりと腕にかかる。シャンプーの匂いがした。


「このまま、少しだけこうしてていい?」


「……いいよ」


 二人で寄り添って、星を見た。


 明日、嵐が来る。


 でも今は、この静けさの中で。


 隣にいる人の温もりだけを感じていたかった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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