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目が覚めたら爆乳美少女だった件について~元サラリーマン、異世界でTS転生ライフ始めました~  作者: かげるい


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第10話:帰還、そして告白

 嵐の渓谷から帰還した翌日。


 ギルドに依頼達成の報告をすると、大騒ぎになった。


「Cランクパーティーが、Aランク相当の守護獣を討伐……!?」


 マリナさんの眼鏡がずり落ちた。今日だけで三回目だ。


「しかも魔瘴核の破壊まで。これは……ギルドマスターに報告しなければ」


 報酬の金貨六枚に加えて、守護獣討伐の特別報奨金として金貨十枚が追加された。さらに魔瘴核の破壊による地域安全貢献で金貨五枚。合計金貨二十一枚。


「にじゅういちまい……」


 フィーネが目を回していた。彼女の故郷では、金貨一枚あれば一ヶ月暮らせるらしい。


「そして、この実績を踏まえまして」


 マリナさんが姿勢を正した。


「パーティー・テンペスタのリーダー、リーナさんのBランク昇格を推薦いたします。セレナさんも同様にBランクへ。フィーネさんはDランクへの飛び級昇格となります」


「Bランク!?」


「正式な試験は省略できませんが、今回の実績であれば、書類審査のみで通るかと」


 Bランク。この世界の冒険者の上位層だ。一ヶ月半前にEランクで登録した俺が、もうBランクになる。


「リーナちゃん、すごいわ。史上最速のBランクじゃない?」


「三人で取った成果だよ。俺一人じゃ無理だった」


「また俺って言ってる」


「方言です」


 もはやお約束と化したやり取りだ。


 ギルドを出ると、街のあちこちで声をかけられた。渓谷の魔獣問題は近隣の村にまで被害が及んでいたらしく、テンペスタの名前は一夜にして街中に広まっていた。


「テンペスタのリーナさんですよね!? うちの村を救ってくれてありがとうございます!」


「銀髪の美少女冒険者って噂の! サインください!」


「お嬢さん、うちの息子の嫁に来てくれんかね」


 最後のは断った。


「人気者ね、リーナちゃん」


「こういうのは苦手だよ……」


 前世では注目されることなど一度もなかった。群衆の中に埋もれて、誰にも気づかれず、そのまま消えていくような人生だった。


 それが今は、道を歩くだけで人が振り返る。容姿のせいもあるだろうが、冒険者としての実績が加わって、もう街の有名人だ。


「リーナさん、ちょっと疲れてません?」


 フィーネが心配そうに覗き込んできた。


「ん。大丈夫。昨日の魔力切れの後遺症がちょっと残ってるだけ」


「今日はゆっくり休みましょうよ。クエストはお休みにして」


「そうね。たまにはオフの日も必要よ」


 セレナの提案で、今日は完全オフにすることになった。



 ◇ ◇ ◇



 フィーネは武器の手入れをすると言って宿に戻り、俺とセレナは二人で街をぶらつくことにした。


「たまにはウィンドウショッピングでもしましょ」


「ウィンドウショッピングって概念、この世界にもあるんだ」


「女の子の楽しみは、どの世界でも一緒よ」


 大通りの商店街を歩く。服屋、装飾品屋、食料品店、魔道具屋。活気のある通りで、人の流れが絶えない。


「あ、リーナちゃん。あの店見て」


 セレナが指差したのは、小さなアクセサリー店だった。ショーウィンドウに色とりどりのネックレスやブレスレットが並んでいる。


「可愛い……」


 思わず呟いた。自分の口から出た言葉に、少し驚く。前世なら、アクセサリー屋を見て「可愛い」なんて絶対に言わなかった。


「入ってみましょうよ」


 店内に入ると、繊細な装飾品がずらりと並んでいた。銀のチェーンに色石のペンダント、花をモチーフにしたイヤリング、細い指輪。


「リーナちゃん、これどう?」


 セレナが手に取ったのは、銀のチェーンに蒼い雫型の石がついたネックレスだった。


「きれいだね」


「つけてみなさいよ」


 セレナが俺の首にネックレスをかけてくれた。鎖骨の上に蒼い石が落ち着く。店の鏡で確認すると、銀髪と碧い瞳に蒼い石がよく映えていた。


「似合う。すっごく似合うわ」


「……そうかな」


「そうよ。買っちゃいなさいよ」


「でも……」


「渓谷の報酬で金貨二十一枚入ったでしょ。これくらいの贅沢、いいじゃない」


 銀貨三枚。確かに、今の懐具合なら大した出費ではない。


「……じゃあ、買おうかな」


「よしよし。女の子は自分を飾ることを覚えなさい」


 女の子扱いされることに、もう抵抗がほとんどない自分に気づいた。


 一ヶ月半前は、「俺は男だ」と必死に自分に言い聞かせていたのに。


 店を出て、ネックレスをつけたまま歩く。鎖骨の上の石が、歩くたびに小さく揺れる。


「ねえ、リーナちゃん」


「ん?」


「今日、二人きりで話したいことがあったの」


 セレナの声のトーンが、少し変わった。いつもの軽やかさの奥に、真剣さが滲んでいる。


「場所を変えましょ。あそこがいいわ」


 セレナに連れられたのは、街の外れにある小高い丘だった。街を一望できる場所で、眼下には赤い屋根の街並みと、遠くに青い山脈が見える。


 丘の上のベンチに並んで座る。午後の風が心地よい。


「いい場所だね。知らなかった」


「私のお気に入りなの。前のパーティーが解散した時、ここで一人で泣いたわ」


「セレナ……」


「あの時は、もう誰も信じられないって思ってた。パーティーなんて二度と組まない。一人で生きていくって」


 セレナが遠くの山脈を見つめながら、静かに続けた。


「でも、リーナちゃんが来た。温泉で背中を流し合って、遺跡で一緒に冒険して、嵐の夜に同じ寝袋で眠って。あっという間に、私の世界が変わった」


「……大げさだよ」


「大げさじゃない。リーナちゃんは、私がもう一度人を信じるきっかけをくれた人よ」


 セレナが俺の方を向いた。


 金色の髪が風になびく。碧い瞳がまっすぐ俺を捉えている。午後の陽光が彼女の輪郭を輝かせていて、息をのむほど綺麗だった。


「リーナちゃん。私ね、あなたのことが好き」


 心臓が、止まった。


 比喩ではなく、一瞬本当に止まったかと思った。


「セレナ……」


「仲間として、パートナーとして。それだけじゃなくて」


 セレナの頬が、わずかに赤く染まった。いつも堂々としている彼女が、こんなに緊張した顔をしているのを初めて見た。


「……女の子が女の子に言うのは変かもしれないけど。私はあなたに、特別な気持ちを持ってる。嵐の夜、隣で眠った時に確信した。この人のそばにいたいって」


「…………」


 言葉が出なかった。


 頭の中が真っ白になっている。


 セレナに好意を持たれている。いや、好意どころじゃない。告白されている。


 女として。


 元男の俺に。


「返事は、今じゃなくていいの」


 セレナが慌てて付け加えた。


「困らせたくて言ったんじゃないの。ただ、隠したまま一緒にいるのが苦しくなっちゃって。……リーナちゃんの秘密を待つって言ったでしょ? だから私も、自分の気持ちを隠さないでいようって思ったの」


「セレナ……」


「嫌だったら、忘れてくれてもいいわ。パーティーの関係は変わらない。あなたの隣で戦えるなら、私はそれだけで――」


「嫌じゃない」


 自分の口から出た言葉に、自分で驚いた。


「嫌じゃ、ない。セレナの気持ちは嬉しい。すごく嬉しい」


 セレナの目が揺れた。


「でも、俺には……まだ話せていない秘密がある。それを聞いたら、セレナの気持ちは変わるかもしれない」


「変わらないわ」


「聞いてもいないのに、なんでそう言えるの」


「だって、秘密がどうであれ、あなたはあなたでしょ。私が好きになったのは、リーナという人間よ。過去がどうとか、出自がどうとか、そんなことで変わる気持ちじゃない」


 胸が痛い。


 嬉しくて、苦しくて、どうしようもなく温かい。


「……今すぐには、答えられない」


「うん」


「でも、近いうちに全部話す。俺の秘密。全部。それを聞いた上で、もう一度聞かせてほしい。同じ気持ちかどうか」


「……いじわるね。もう答えは決まってるのに」


 セレナが、泣きそうに笑った。


「待ってる。いつまでも」


 風が吹いた。二人の髪が混ざり合うように揺れる。銀と金。


 俺はまだ、自分の気持ちに名前をつけられない。


 セレナのことが大切だ。隣にいると安心する。笑顔を見ると嬉しくなる。嵐の夜、彼女の温もりに包まれた時、ずっとこうしていたいと思った。


 これは友情なのか。それとも。


 元男としての自分が、抵抗する。男が男に恋をするのとは違う。今の俺は女だ。体も、ステータスも、戸籍も。それでも、「元男」という意識が足を引っ張る。


 でも。


 ――好きになった相手が、たまたま女だった。それだけのことじゃないのか。


 元の性別がどうとか、今の体がどうとか、そんなことは。


 もしかしたら、どうでもいいことなのかもしれない。


「……帰ろっか」


「うん」


 ベンチから立ち上がる。夕日が街を琥珀色に染め始めていた。


「手、繋いでいい?」


 セレナが、おずおずと聞いてきた。


 いつもの余裕はどこへやら、まるで初恋の少女のような顔をしている。


「……いいよ」


 セレナの手を握った。細くて、温かくて、少しだけ震えていた。


 二人で手を繋いで、丘を下りていく。


 夕焼けの中、二つの影が寄り添うように伸びていた。


 握った手の温もりが、やけに鮮明だった。



 ◇ ◇ ◇



 その夜。


 宿屋の部屋で、天井を見つめていた。


 セレナの言葉が、何度もリフレインする。


 ――あなたのことが好き。


 その言葉を聞いた時の、胸の奥の震え。


 あれは確かに、ただの友情ではなかった。


「…………」


 右手を伸ばして、鎖骨の上のネックレスに触れる。蒼い石が、ランプの光を吸い込んでぼんやりと光っていた。


 セレナと一緒に選んだネックレス。


 この一ヶ月半で、たくさんのものを手に入れた。仲間、居場所、強さ、自分自身への肯定。


 そしてもしかしたら――恋。


「……まいったな」


 前世で三十二年間縁のなかったものが、異世界に来て、体が変わって、ようやく巡ってきた。


 しかも相手は女性だ。


 人生何が起こるかわからない。文字通り。


 枕を抱えて、横向きになる。


 明日、セレナとフィーネに、全部話そう。


 高橋健太のこと。三十二歳の男だったこと。過労で死んだこと。この体に転生したこと。


 怖い。


 拒絶されるかもしれない。気持ち悪いと思われるかもしれない。


 でも、もう隠し続けることはできない。


 セレナが勇気を出して気持ちを打ち明けてくれたのだから。


 俺も、勇気を出す番だ。


「……よし」


 小さく、拳を握った。


 明日は、きっと。


 この異世界生活で一番長い一日になる。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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