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07-でっち上げ?

 おいぃー! 何やってんだ! 言うつもりか!? それなら、昨日は何のためだったの!?


 そんな俺の思いが、彼女への視線だけで伝わったはず。しかし、冬花とうかはそれを無視するかのように、のんびりとお茶を飲んでいた。


「それ! どういうこと!? 春凪はるな、冬花くんの家にいたの!? 世話になったっていったい!?」

「ふふっ、落ち着いてはるか。あと、声が大きいよ」

「あ……ごめんなさい」


 清水が立ち上がって声を上げた後、周囲は確かにこちらを見ていた。彼女は謝罪の言葉を呟くと、再び席に着いた。


「ほんとう……一体何があったの、春凪、冬花くん?」

「えっと……」

「安心して遙、ちゃんと説明するから。これは先週末のことなんだけど――」


(え? 先週末?)


 そして、冬花は事の顛末をはなし(つくりあげ)し始めた。


 冬花は料理用の食材を買い終えて家に帰る途中だった。すると、曲がり角から来た子供がぶつかってきて、帽子が落ちてしまった。 その子供は、マスクをつけていたにもかかわらず、冬花だと認識できた。その後、他の人たちも彼女の周りに集まってきて、大騒ぎになった


「さすが春凪。マスクだけじゃ、正体は隠せないね」

「あはは……まあ、幸いすぐにその場から出られたけど......」

「あ、まさか……また尾行されたんでしょ!」

「……ええ」

「春凪、大丈夫だった?」

「ええ、心配しないで遙。知っての通り、尾行されるのは別に初めてじゃない。いつものように対処したから」


 冬花は、彼女が同じ質問をするのは初めてではないように答えた。


「そう……それならよかった」それを聞いて、清水はゆっくりと安心した笑みを浮かべた。

「……いや、よくないだろうそれ。人が慣れるべきことじゃない。特に女子高生が」

「……そうね……私も冬花くんと同じ気持ちだよ。でも……」

「冬花くん、仕事柄で、これはどうしようもないことなの……でも、安心して。こういうことが起こるのが分かっているからこそ、どう対象するか、どうやって自分を身を守るかを学んできたから」

「……そう」


 そんな不愉快な経験を体験している人に安心させられるのは複雑な気分だった。


「それに……」

「ん? それに?」

「今回……冬花くんが助けてくれたから」上目遣いで彼女はそう言った。

「おっ!?」

「……」


 かわいい。うん、本当にかわいいかった。

 しかし……俺はそんな彼女の表情に不安しか感じなかった。


「なになに? 冬花くん何をしたの!」

「冬花くん……私を彼の家に引きずり込んだの……強引に」

「あ……」

「ええっ!」清水が再び声を上げ始めた。


 そして、彼女は、冬花の言葉を確かめるように俺のほうを見た。

 俺は思わず、彼女の視線を避けるように顔を向けた。

 

 だって、冬花は作り話をしようとしているが、その部分だけは事実だから仕方がなかった。彼女がこの話をどこに持っていこうとしているのか、俺にはさっぱりわからないから、黙っているしかない。


「まさか……本当にやったの冬花くん? 女の子を家に引きずり込むなんて……!」

「待って、それにはちゃんと理由が――」

「つまり、やったってことよね!?」

「く! だから――」

「ふふっ。遙、まずは最後まで聞いて」


 動揺している清水や俺とは違い、冬花はただ冷静に話を続けた。


 その場から逃げたとき、何人かが彼女の後を追おうとしているのに彼女は気づいた。あのまままっすぐ家に帰るのは嫌だった。


「尾行された場合、急いで家に帰るのは絶対に論外よ。 そんなことをすれば、それ以降もついてこられるようにしたと同じだから。とはいえ、あてもなくぶらぶらするのもNG。どこかに誘導されるだけかもしれないし、最悪、道に迷って彼らに追い詰められる可能性もある」


 経験者らしく、冬花がミニ講義を始めた。


 彼女が勧めてくれたのは、まず自分の現状と居場所を誰かに知らせること。そうしているうちに、人通りの多いところに行くこと。交番に行くという選択肢もありと。


「このような状況で重要なのは、知り合いがいて、その人と一緒にいることだよ。尾行者のほとんどは、周りに人がいないか、それかバレていない限り、そうそう近づいてこないから。だから慌てず、すぐに助けを求めて」

「おお……勉強になるな」

「うん。そうね」

「ふふっ、二人ともよく聞いて偉い」


 まあ、こんな知識は必要ないだろうけど……

 俺がそんな状況に陥ることはあり得ないから。


「それじゃ、春凪はそれに従って、冬花くんに助けを求めたってこと?」

「ええ」

「でも、どうやって? さっき連絡先聞いたばかりでしょ?」

「誰かに連絡しようとしたら、曲がり角で冬花くんに遭遇したの」


 冬花は、それがきっかけで俺のアパートに行くことになったと話を続けた。あまり何も話していないのに、あの時、なぜか俺は彼女の苦境に気づくことができたと。だから、近いからということで、すぐに俺のアパートを提案した。


「待って待って! 春凪! まさか、あの場であっさりOKしちゃったじゃないでしょうね!? 危ないよそれ!」

「そうだ清水さん! もっと言ってやれ!」

「誘ったのは冬花とうかくんだけど!?」

「いや、だって……あの状況なら誰でもそうするだろう? 自己紹介をしてからまだ日が浅いとはいえ、あの時の彼女の状況に無関心でいられるほど、彼女は全くの他人ではなかったから……」


「うーん……まあ、そうかもしれないけど……」

「それにあの後、俺の提案がどんだけとんでもないことか気づいたんだ! けど、それを平気で受け入れる彼女のほうが、よっぽどとんでもないだろう!?」

「それもそうね!」

「だろう!?」


「春凪、もっと気をつけないとだめだよ! 自分がアイドルとして周りからどう見られてるかわかってるでしょう? 悪い考えを持って近づいてくる人もいるから。だから尾行されてたんでしょ」  

「そうだそうだ! 反省しないとだめだ!」

「仲いいね二人とも」


 俺と清水は、彼女の決断が危険だったということを、普通そうするように念を押しているだけ。何がきっかけで俺を信じるようになったのかはわからないけど、冬花は自覚があるし、危機管理もきちんとしているから、俺たちはそんなに心配はしていない。


「あ、でも待って。冬花くんが強引に家に引きずり込まれたところは?」

「チッ……うまくやり過ごしたと思ったのに」と俺は小さく呟いた。

「ふふふっ」


 おそらく、彼女は俺の話を聞いていたのだろう……だから彼女は――


「それはね遙……冬花くん……私に選択の余地を残してくれなかったの……あの時、私を一人にしたくないという揺るぎない決意と……私を……一人の女の子として扱う男前な態度で……」

「うおぉぉ~」

「邪な気持ちなど微塵も感じさせず、真摯な声で【このまま一人にしておけない】とストレートに言ってくれたの……あの時の冬花くんは、本当に頼もしく感じたよ」

「うわわわ~!」

「………………」


 誰だよそれ!? 捏造するにもほどがあるだろう! 何その乙女チックすぎる想像!? ブレーキをかけろブレーキ!

 あのときの俺は間違いなくおせっかいで無駄にしつこい印象しか持たれていなかったはずだ! 警察官に交番に連行されそうになるくらい怪しまれたんだぞ!?


 なるべくなんの反応を見せないようにしながら、顔を向けると冬花と目が合った。その瞬間、彼女は遊び心のある笑顔を見せた。


(くそっ。かわいい……)


 文句を言いたくても、彼女のかわいさがそれを許さなかった。

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