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05-没頭していた

 その後、彼女の家に向かった。どうやら近くにあるので、タクシーを手配する必要はないみたい。 


 念のため、彼女には暖かくなるように、そして他の人に気づかれにくいように、着心地のいいパーカーを着てもらい、スカーフも巻いてもらった。


 彼女を途中までしか見送ると申し出たが、それを拒否した


「もうこんな遅い時間なのに、病気の女の子をちゃんと家まで送るつもりはないの?」

「常識的な対応をしているのに、なんで俺がここで悪者になっているの……」

「ふふっ。大丈夫大丈夫。問題ないから」


「いや、だから……午後では、俺が冬花とうかさんの家のことを知るのはまずいことだと、同意したですよね? だから俺の家で休んだわけ。またも不用心になっているから」

「うん、でももう大丈夫だから」

「前と何が違った……」

「今なら、冬花くんをここまで信じてもいいから」

「……そう」


 こいつには本当に勝てないな……


 道中、あまり会話はなかった。彼女は何か考え事をしていたみたい。

 幸い、気まずい雰囲気になることもなく、彼女の家に着いた。


 のどかな地域にある、よく見かける二階建ての家だった。 表門の奥には小さな庭があり、そこには丁寧に育てられたと思われる花でいっぱいの花壇が見える。


 別れを告げ、俺はその日が終わったことに安堵しながら家に帰った。


 翌日、俺はいつものように教室に行った。いつものように、スマホで時間をつぶすはずだったが……しかし――――


冬花とうかくん、おはよう」

「えぇー」


 座る前に、冬花春凪(はるな)が話しかけた。想像される話の進め方に、俺は挨拶の代わりに小さな泣き言を漏らした。


「昨日は本当にありがとう。冬花くんのおかげで問題にならないですむよ」

「あ、うん……大したことじゃないので……じゃあ――」

「冬花くんにちゃんとお礼をしたいから――」

「いや、本当大したことじゃないから。まじで……あ―あぁ、ごめん。俺、自販機で飲み物を――」

「だから、連絡先教えて」


 その一言で、クラス中の視線が集まった。みんな驚いた表情をしている……俺も含めて。


 昨日のことで、また何か騒ぎが起きるだろうと思っていたから、覚悟はしていたが……でも、これは予想外だった。


「…………え?」

「お礼として、時間が空いたら……冬花くんをご馳走する」


「「「「ええー!!!?」」」」


 誰もが声を上げずにはいられなかった。なにせ、彼女が言っていることはようするに……


「「「それってデート!!?」」」

「「「なんだってぇぇ!?」」」


 女子と男子、それぞれの思いは完全に一致していた。


 そう、感謝としてごちそうするというのは、ごく普通のことなのだが……若者の思考では、それはデートとイコールなのだ。


 しかし、冬花春凪が言うんだから、ただ俺として食事をごちそうにするだけだ。特別なことでも、深い意味があるわけでもない。普通に考えれば、誰もがそこにたどり着くはずだ。


 しかしまた、あの冬花春凪のことだから……青春たっぷりの頭を持つ彼らが、それをありのままを解釈するわけがない。俺だって例外ではない。


 そして、もちろん……彼女がそれを気づいていないわけがない。


 皆の反応とは裏腹に、彼女はまったく動じていない。一方、俺は彼女の行動に呆然と立ち尽くしていた。


「とういうわけで、連絡先を交換しようか」

「あっ…………はい......」


 そうしないように頑張りたいところだが、もうどうしようもない。これは、確実に断れないことを考慮したのだ。


 皆の視線の中、連絡先とアインのアカウントを交換した。確認するため、彼女は最初のメッセージを送ってきた。


『ごめんね、冬花くん。こうでもしないと、連絡先を教えてくれないと思ったから』


 メッセージを読んで彼女を見ると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


『また冬花くんに迷惑がかかると思うけど、そのことも考えてたっぷりご馳走するから』

『できれば、面倒くさくない形でのお礼がよかった……』

『水一本でももらった方が嬉しかった……』


『ふふふ、そういって』

『私がご馳走した暁には』

『きっとそれ以上よりも幸せになるよ』


『それよりも、今はただ幸せでいたかった……』

『この後どうしろうっていうんだよ……』

『ふふっ、手伝おうか?』

『やめて』

『これ以上何もしないでくれ』

『たのむ』


『ちょっと傷つくな……』

『冬花くんのひどい』

『それはこっちのセリフだ!』


「ふふふっ」


 メッセージのやりとりをするうちに、少しイライラしてきた。一方、彼女はさっきよりさらに嬉しそうだ。


『ちなみに、冬花くん』

『……なんだよ?』

『みんな、まだ見てるよ』


「あ」


 携帯と彼女から目を離して、ようやく自分たちの状況に気づく。


(これ……どう見ても、自分たちの世界に没頭していたように見えるよなぁ!!)

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