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04-関係ない(ある)

「えー、こほん……えっと、時間をあまり取りたくないので手短に話します。最初に言っておきます、俺は何も変なことはしていないし、看病以上のこともしていません。やるべきことをやって、冬花とうかさんが休んでいる間見ていたただけで……あっ、見ていたとは言ったけれど、ずっと見つめていたわけじゃないから」


 俺はまず、彼女の世話をしたことから話を始めた。誤解がないようにと、変な雰囲気にならずに話せるため。

 それに、彼女が俺を信頼しているかどうかは別として、早めにこの話をしておけば、彼女も安心するだろうから。


「……うん、わかった。冬花とうかくんが言った通り、私のことを看病してくれたと……ふふっ、まさかあの時、冬花くんがお節介になり……そして、あんな真剣な態度まで取るとは思わなかったよ。あ、もちろんいい意味でね」

「まあ、お節介だったのはわかっていたんですけど……病気のときに一人でいるのは辛いから……他の人に隠すつもりだったし。一人にしておけるわけがないよ」

「ふふっ、冬花くんは思いやりのある人なんだね」


 無邪気な笑顔を向けられ、俺は思わず振り向いた。


「……ほら、見ろ。まだ俺に対して意見を持ち始めたばかりなのに、すでに俺の前では不用心すぎる。ダメだろうそれ。まだほとんど面識もないのに……ましてや男の家に泊まるなんて、愚行としか言いようがないよ」

「うーん、でも誘ったのは冬花くんだったよね。ここを私に選んでほしかったから、もう一つの選択肢は私の家で面倒を見ることにしたんでしょう? 私がそれを選ばないことをわかったうえで」


「……そこまで知っていたのに、進んで男の家……しかも、まだそれほど親しくもない人の家に行くの?」

「ここ、冬花くんの家だけど?」

「……」


 なぜそれを指摘し続けるかな……


「んっ……俺を軽く信用しすぎですよ。もし俺が冬花さんに何かしようと思っていたら、どうするんですか? 何かあってから後悔しても遅いですよ」

「じゃあ、何かあったの?」


 彼女は笑顔でそう尋ねながら俺の目をまっすぐに見つめた。俺が嘘をついているのか、何かを隠しているのか、そういうことを探ろうとしているのだろう。だから、今俺が変な行動をとったらまずい。


 でも……うん。やっぱり、何も感じずに彼女の方へを見つめることはできないから、目をそらした。


 女の子の視線は本当に強い。


「それは……ないけど……いや、それでも――」

「なら、大丈夫だね。こうして真摯にお説教をいただいていることを考えれば、冬花くんの言葉や人柄を疑う必要はない。それに、私、人を見る目はあるほうだと思うから」

「んん……」

「それに……ふふ、忘れたの? そんなことしないって言ったのは冬花くんでしょ…………ね、チキンさん?」

「ぐっ! 心が痛い……」

「ふふふっ」


 俺が正しはずなのに……なんか説得力負けている……


「でも確かに、冬花くんの言っていることはすべて正しいし、私もそう思う。冬花くん、そこまで心配してくれてありがとう。肝に銘じておくよ」

「まあ……わかってくれるなら……こほん。えー、それで? 病気のことをだれかに知られたくないという気持ちは理解できたが……それでも、自分の状態が悪いことを知っていたはず。なぜ最初に休もうとしなかった?」

「あぁ、それは……実は、最初はまだこんなに体調が悪かったわけじゃないの。確かに体調が悪いのは分かっていたけど、単なる頭痛と体のだるさだっただけ。仕事をしていると、時々そういうことを感じるから、ただの疲労だと思っていたんだ」


 彼女にとっては何ら問題ないことのように話す。


「そう……」

冬花とうかくんに言われた通り、油断していたよう」

「蓄積か」

「うん、そうだと思う。太陽の下を歩いていたとき、少しずつ体が重くなって、視界がぼやけていくのを感じた。日差しが強くなったのではなく、体の調子がおかしいのだと気づいたとき……気がつくと、足が揺れていてゆっくりと地面に倒れていたの」


 太陽の暑さが彼女の体調を崩す引き金となり、徐々に脱水症状を起こしたのだろう。


「そうしたら……」

「うん?」

「倒れる前に、冬花くんが現れて助けてくれたね。えへへっ」


 彼女は少し顔を赤らめながら、太陽のように明るく微笑んだ。


「いや、大した事じゃないから…………ん? あぁ、なるほど。だからあのとき……」

「言っておくけど、暑さで判断力が鈍ったわけじゃないからね? 自慢するようなことじゃないけれど、慣れているから体調が悪くても一日をやり過ごすことができるから。まあ……倒れそうになったから、説得力はないけど」

「……何も言ってないけど」

「言わなくても、考えていることはわかるから」


(じゃあ、どうして――)


 言おうと思ったことを声に出さなかった。


 心当たりはあったが、それだけではないような気がした。しかし、このことに関して彼女から答えをもらえるとは思えないと感じた。


(……まあ、どうでもいいか。おせっかいぶりはここまで)


「え、えぇ……じゃあ、もうたっぷり話したし.……こんな時間だから、きちんと休めるように冬花さんはもう帰った方がいい。ちゃんと家まで送ります」

「あぁ……うん、そうね」

「あ、お家はここから遠い? その状態で外を長く歩かない方がいいので、タクシーを用意します」


 会話を終え、彼女を家まで送る準備を始めた。必要なことはすべて話したし、彼女も少し休むことができた。もうこれ以上彼女がここにいても意味がない。


 ちゃんと歩けるようになったし、表面上は元気そうに見える。今の状態を「仕事で多少疲れている」とごまかせば、家族が面倒を見てくれるだろう。このまま油断することはないだろうし。


 後片付けをし、彼女の帰る手伝う準備をしている間、彼女は動かず何かを考えているようだった。


「……ねえ、冬花くん」


 タクシーを手配しようとしたとき、彼女はそっと俺の名前を呼び、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見た。


「はい?」

「聞かないの? どうしてこのことを隠したかったと」

「……んん、いぃや。知る必要はないですから。それにまずは休んだ方がいい。 長い話は必要ないので」


 そう答えながらもう一度彼女に振り返ると、彼女はもっと知りたそうな顔をしていた。大したことではないから、ただ答えた。


「関係ないので」

「……関係ない?」

「俺と冬花さんは、あれこれに口を挟むほど親しい関係じゃないので。仮にそうだとしても、どうするかはもう決めていますよね? ならもどうでもいいことです」

「そう……」


 俺が思ったことをズバッと言うと、彼女は読めない表情をした。しかし――――


「でも……」

「ん?」

「自分の体調を顧みず、それを目の当たりにした以上……俺には冬花さんに口を挟む権利があります」

「……」

「また体調管理に失敗したら、責任は冬花さんだけでなく、俺にもある。だって、冬花さんを信頼し、支えたのは俺だから。このことを忘れないでもらいたい」

「……ふっ」


 そう答え終わると、彼女の表情は一変して……喜びに満ちたものに変わった。


「ん?」

「んん……なんでもない。大丈夫だよ冬花くん。覚えているから」

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