03-目と精神に毒
それからの数時間、俺は彼女が起きてから何をすべきかの準備を少しずつしてきた。もちろん、その間も彼女を見守り、チェックすることは怠らなかった。それが終わると、俺はまた部屋の隅でお行儀よくしていた。
すると……
「冬花くん……? そんなところで、何してるの?」
「え?」
いつの間にか彼女は目を覚ましていた。俺は彼女を見ないようにしながら見守るので精一杯だったから、話しかけるまで気がつかなかった。
「あ、まぁ……こほん。冬花さん、気分はどうですか? あ」
「……さっきよりはだいぶんましよ。冬花くん、ありがとう……面倒見てくれて」
「いや、その……どういたしまして……」
「ん? 冬花くん? なぜ目をそらしているの?」
「えっと、その……今直視するのはまずいと思うので……」
「え? まずいって……!」
今の彼女の姿は目に毒だ……
目をそらす前に彼女を見たのはほんの一瞬だったにもかかわらず、その姿が目に焼きついた。
シャツはシワシワだが、問題はそれではない。彼女の汗でシャツが濡れて、ところどころ透けている。
だらしなく見えるが、持ち前のかわいらしさとか弱さが相まって、いつもよりかわいく見えた。
(俺……思ったより変態かもしれない)
「ごめんなさい……」
「うーん、大丈夫……冬花くんは悪くないなから」
「っ……」
気まずい!
(なぜ謝っているのか理解できるから、余計に気まずい!)
居心地の悪い沈黙が訪れる。
(あ、そうだ! それで以降)
彼女には今の現状について考える時間が必要なはず!
「冬花さん」
「あ、うん。なに?」
俺は顔を背けたまま、彼女に話しかけた。
「引き出しの上、ベッドのすぐ横……着替えの制服があるので……もしサイズが合わなかったら、代わりに体育着をもらうから言って……あ、近くに体温計もありますから、それで体温を測って。その間にお粥を温めておくので――」
ゆっくりと状況を話し合いたいが、彼女の回復が第一。悪化したり、良くならなかったりしては元も子もない。
そう、これは逃げるための言い訳ではない。
決して逃げているわけでわない。うん。
「では、俺は失礼して……げっ!」
「冬花くん!?」
自分の部屋だから、目を閉じたままドアに向かって歩くことができた。でも、目をつぶっていたせいで、ドアに近づいたかどうかがわからず、ぶつかってしまった。
「うぅ……だ、大丈夫です……それじゃあ」
部屋のドアを閉め、キッチンでさっき作ったお粥を温めた。具はスクランブルエッグと鶏肉を入れたが、全体的にはシンプルなものだった。それでもより経験がないため、作るのに1時間以上かかってしまった。
(うう……一瞬見ただけで、あの光景を完全に脳裏に焼き付けてしまった自分が憎い……)
それから、彼女の食事と薬を手に、俺は部屋のドアの前に立った。自分の部屋のドアを初めてノックするのは新鮮だ。
「と、冬花さん? 入ってもいいですか?」
「どうぞ、入って……って、変な感じ……ふふっ。冬花くんの部屋なのに」
自分の部屋のドアが開くと……出迎えてくれたのは、かわいい声でちょっと笑う、天使のような微笑みを浮かべた美しい少女だった。
その時、俺はまだ正気でいられる自分を誇らしく思った。
部屋を出てから数分しか経っていないが、身なりを整えただけで先ほどの病弱な姿は一見消えたように感じた。
でも、彼女の状態をチェックしていたから、まだ見た目よりはそれほど良くなっていないことは知っている。
再び毛布をかけ、ベッドに座ったままおかゆを食べさせた。彼女は最初、テーブルで座って食べられるほど良くなったと言い張ったが、なんとか説得できた。
彼女の熱は37.6度まで下がった。こんなに早く良くなるんだから、やはり過労が原因だったんだろう。
「冬花くん、ありがとう。こんなに私のこと気遣って……おかゆ、おいしいよ」
「よかった……1時間かけて作った甲斐があった」
「え? 1時間?」
「まあ、簡単な料理なのは分かっているんですけど……不味かったり、気持ち悪かったりして、食べた時に体調が悪くなるのだけは避けたかったので。あはは……外で買うこともできたかもしれないけど、病人を置いておくわけにはいかないから……ましてや、ここ、冬花さんにとって他人の家ですから。その……」
「ふふふ、さすがにそうはならないよ。本当にありがとう、そこまで気を遣ってもらって」
「病人はそんなことを気にする必要はないです。治ってくれればそれで十分ですから」
「……うん、わかった。あ、でも一ついい?」
「んん?」
「『他人の家』じゃなくて、冬花くんの家だよ」
彼女は自然と笑顔でその言葉を口にした。彼女の口調には深い意味も嘘もない。でも、シンプルでストレートな言葉だからこそ、俺はつい動揺してしまった。
(本当……このままじゃ……これが全部、彼女の宗教に入るための策略か何かだとしたら断れないぞ……)




