17-ご馳走のお礼(3)
上映が始まる直前まで一緒に聴いていた。映画が始まるとありがたいことに、周囲から聞こえる音は一切なかった。
冬花が言った通り、本当に恋愛ものだった。
物語の主な葛藤は、主人公が以前の恋人、元カノを忘れ、新たな人生の愛へと進むことにある。
二人に特別な問題はなかったが、彼女の選択により別れることになった。その理由は彼女が末期疾患を患っていたためだった。死を迎えるまで関係を続けるよりも、彼を手放すことを選んだのだ。
当然ながら主人公は彼女の選択に同意できず、引き留めようとした。しかし彼女の決意には敵わなかった。彼女は自ら海外の病院に移り、わずかながら寿命を延ばし、残りの時間を家族と過ごすことにした。
また家族には、彼との一切の繋がりを断ち切りたいと明確に伝えた。家族は当初躊躇したが、最終的に彼女の選択を尊重することを決めた。
自らの決断と願いを彼に告げた後、彼女と家族は主人公に別れを告げた。
主人公もまた、彼女の生への願いを尊重せざるを得ず、彼女なしの新たな人生を始めようとする。彼は周囲に彼女の痕跡が一切ない新しい環境へ移った。
そこで彼は一人の少女と出会う。非常に印象的な形で知り合い、徐々に友人として親しくなっていく。
「ふむ……なるほど。この映画が人気なのも納得だ。観ていて楽しい」
「でしょ? 冬花くんもきっと気に入ると思ってた」
「ストーリー自体は目新しいものじゃないけど、元カノの覚悟がすごくしっかりしてたところが新鮮だった。新しい女の子も見てて面白いし。展開は予想通りだけど、まさに観たい形で物語が進むのが気持ちいいな」
「うんうん。こういうの、たまに見ると楽しいよね」
映画を見ながら、俺たちはささやき声で話した。
「それにしても、なんかペースが遅くないか? 開始から1時間以上経ったのに、今やっと序盤が終わりそうな感じだが……これ、エンディングは大丈夫か?」
「ネタバレになるけど、いい?」
「うーん……おう、言って。この時点で問題ないから」
「エンディングでは、新しい彼女が元カノと主人公の過去の関係を知ることになる。それで新しい彼女は元カノと話す決心をして、そこで知るの……」
「? 何を?」
「元カノがまだ何年も生きられるってことよ」
「ほお……」
特に驚くような展開や大どんでん返しではないけど、それでも興味を引くよな。
「ん? マテ……それで終わり? それって……」
「未完成じゃない? うん、その通り。この映画自体、続編を想定して企画されていたものから」
「おお……面白いなそれ。大胆だ」
続編を意図して映画を計画するのは大胆な試みだ。元々シリーズ物か有名作品の映画化でない限り、ヒットか失敗か予測が難しいため、映画は単独作品として制作されるのが通例だ。
映画業界に詳しくないが、大半の作品がそのような考えで作られているとは思えない。
何しろ、それは次回作の制作資金を確保できるほどの十分な興行収入を見込んでいることを意味し、少なくとも予算を回収することはおろか、それを上回る収益を期待しているということだ。
「んん? でもそれってつまり……お前、メインキャストじゃないって言ったよな? 元カノは完全にメインキャストの一人だろ、この詐欺師。自分がどれだけすごいのか見せびらかすために俺をここに連れてきたんだな。このずる賢い、器用な野郎め」
「褒めてるのか褒めてないのか、どっち? ふっふっ」
冬花は映画で元カノ役を演じていた。彼女の言う通り映画が終わるなら、元カノは完全にキーキャラクターの一人。
「本当、嘘ついてないよ。今のところ、映画は終盤に差し掛かってるのに元カノはほとんど出てきてないでしょう? 最後には登場するけど、ほんの少しだけ。だから元カノ自身が物語のキーキャラクターでも、この映画では脇役扱いなの」
「はあ……正論だな。でも結局、彼女は物語のメインの一人だろ?」
「んん、さあ? どうかな」
「んっ?」
そんな含みのある口調で言うから、俺は彼女の方を向いた。
「彼女がメインだと思うか?」
「まあ……そうだろう? この時点で結構明白じゃないか」
「確かに。でも、もしそうじゃなかったら?」
「え?」
「言ったでしょう、私はメインキャストにははいてない。元カノは公式に映画のサブキャラとして扱われてる。元カノが映画の主役になるなんて話はない。少なくとも、続編の話を持ちかけられた時、私には何も聞いてない。もちろん、他のキャストも同様だよ」
そっか。なるほど。これがおそらく人気の理由の一つだろう。
続編で元カノというキャラクターがどう描かれるかによって、物語が皆の予想とは異なる展開になるかもしれないというニュアンス。確かに続編が楽しみになる要素だ。
「ふー……本当に興味深いな」
「ふふふ、でしょう」
おそらく話に集中しすぎていたせいか、全く気づいていなかった。
再び彼女に注意を向けた時、ようやく気づいたのだ――
俺たちが互いに寄り添いすぎていて、俺が彼女の方を向いた瞬間、二人の距離はキスする寸前まで縮まっていたことに。
「……」
「……」
彼女も同じことに気づいたのか、俺たち二人は無言でじっと見つめ合った。唇が触れるかもしれないという馬鹿げた恐怖から、驚いて口を開きそうになるのを必死にこらえた。
いつの間にマスクを外していたんだ! それになんで!?
「したい?」
「!?」
俺と違って、冬花は全く動じておらず、こんな状況でも相変わらず俺をからかおうとするほど落ち着いていた。
しかし……今のこの状況なら、俺だって彼女をからかえる。
そうたとえば……ここで引かなくてもいいだろ?
本人も自ら進んでそうしているように見えているしい。
だから俺は彼女に向かって手を伸ばした――
そして彼女のマスクを引き上げて顔を覆った。
「チャンスあるたび、一々からかうな! ちゃんと顔隠してろ。後でトラブルがないよに!」
「ふっふっふっふっ、はいぃ〜。チキンさん」
「この野郎……ったく、ここまでやるなんて……次やったら本当に襲うぞ」
「ふふふ、大丈夫。冬花くんがチキンだからやらないって分かってるからこそ、こんなことできるの。見えないかもしれないけど、ちゃんと考えてるんだから」
「……ああ、そうですか」
彼女がそこまで俺を信用してるのか、それとも単にからかってるだけなのかは分からないが……一つ分かるのは、俺は完全に彼女の掌中にあるな。




