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16-ご馳走のお礼(2)

アパートの駐車場に着くと、冬花が車まで案内してくれた。近づいた途端、車から誰かが降りてきた。


「蓮那さん、今日は本当にありがとう」

「いいのよ、春凪。こちらとしても、送った方が気が楽になるから。それで……彼があの人?」

「うん。冬花くん、紹介するね。私のマネージャー、平野蓮那さん。でこっちは」

「はじめまして、冬花宏輝です。冬花には……お世話になって……おります。本日はありがとうございます」


「なぜ途中で躊躇いがあるかなぁ」冬花は笑いながら言った。

「あははっ」俺は笑いながら顔を背けた。

「ふっ。いえ。こちらこそお礼を言うべきだよ」

「え? それはどういう……」

「とにかくまず、ここで立ち話より、車中で話を続けようか」


 三人は車に乗り込み、平野さんが運転を始めた。


 向かう場所は、車が必要なほど遠くはない。しかし、冬花のためにも、できる限り二人きりで外で見られるのは避けたい。そこで、彼女のマネージャーが送迎を申し出てくれたのだ。


 普通なら、平野さんにとって確実に面倒なことだから、この提案に誰もが遠慮するところだろう。だが、自ら申し出てくれたし、理にかなっているから、その申し出を受けた。


 特に、以前冬花がストーカーの話をしていたのを聞いてからにはな。


 冬花にそんなことが起きたら気が気じゃない。今や彼女と知り合いになった身としては。


 それに、彼女のマネージャーも俺と話したかったようだし。


「冬花くん……て言うのはちょっと変な感じだな。宏輝くんって呼んでもいい?」

「はい。どうぞお気になさらず」

「ありがとう。じゃあ、改めて……宏輝くん、本当にありがとう。春凪の面倒を見てくれて」

「ああ……知っているんですね」他の人には隠したいって言ってたから、冬花の方を向いた。

「蓮那さんが後で誰かから聞かれるより、直接私が伝えた方がいいから。それに、冬花くんとの約束を守るためにスケジュールを調整しなきゃいけないから」


 ふむ、ちゃんと休めるように自ら打ち明けたのか。まあ、それはそれでいいか。少なくとも、そういうことなら二度と起こるないだろう。


「もちろん仕事も大事だけど、当然私の優先順位は春凪だ。休む必要があるなら、必ず休めるようにするから。そもそも春凪をちゃんと面倒見られなかったのは私の責任だから……だから宏輝くんが面倒を見てくれて本当に助かったよ」

「いえ、気にしないでください。冬花が約束を守ってくれるならそれでいいんです」

「はいぃ。ちゃんと休みますぅ」


 途中、冬花の近況の仕事について話した。冬花が俺のことを何を話したかは知らないが、平野さんは終始俺に話しかけてきた。確かに冬花の友人として扱われているのは確かだが、それだけではない気がする。


 目的地に近づくと、車は近くの駐車場に停まり、俺たちは降りた。


「後で二人を迎えに来るから」

「お手数をおかけして申し訳ありません、平野さん」

「問題ないといったでしょう。こちらは感謝すべき立場だもの。それじゃあ」


 平野さんが車で去ると、冬花と俺は目的地である映画館へ向かって歩いた。冬花の提案で、彼女の出演する映画を観に来たのだ。


「で、お前が出てるこの映画ってどんなジャンルだ?」

「恋愛ものよ」

「じゃあ、お前がイケメンとイチャイチャする話? それとも、イケメンたちが君にアプローチする話? それとも、ただのドラマ?」

「恋愛ものってジャンルをひどく言い当ててるね……これから観るからネタバレはしない。それに、私はメインキャストじゃないし」

「おっ? 主役じゃないの? 意外だな」

「ふむ……意外か」


 彼女がそう言い放つ横顔をちらりと見た。その口調に、どうしても気になってしまう何かがあった。追及すべきか少し迷ったが、やめておくことにした。


「ごめん冬花くん、一人で買わせちゃって」

「いい。最後まで慎重にやった方が、ちょっとしたミスで全部台無しにするよりマシだろ?」

「ふむ……これ、私がお礼のためのはずなのに」

「代わりに全部おごってくれるんだから、一々気にするな。これくらい問題ないから」

「ふふ、そう? じゃあ、お言葉に甘えておく」


 そう、こういう風に外にいる間は気を付けなきゃいけないとか、そういうことは全然構わない。それよりも……


「それより、冬花さん……」

「ん? なにかね、冬花さん?」

「映画が始まるまで、イヤホンで音楽を聴いてもいいですか?」

「え……そんなに私と話したくないの……冬花くん?」

「……これに乗ったら、イヤホン使ってもいい?」

「ふふふふ、ダメ~」


 こうして、冬花は容赦なく俺の願いを無視した。そしてその笑い声の直後……


「――楽しみだなあ、映画」

「――映画館って、すごく暗いねぇ」

「――なんだか、どきどきする」

「――ねえ……手……つなぐ?」

「――もう……」


「ううっ……」


 周囲から聞こえてくる、ささやき声じゃないささやき声たちが、一気に俺の耳に押し寄せる。


「くっ……一体なんなんだこの映画……なんで……なんで周りのほとんどがカップルなんだ……!?」耳を押さえながら身悶える。

「ふふふふ。仕方ないよ。日曜日だからね。それに、この映画はカップルに人気なんだから」

「なるほど……こうやって俺を苦しめるために連れてきたか……」

「ふふふっ、どうしてそうなるの。 作品そのものに直接関わった者として保証する、冬花くんは楽しめるはずだよ。そうでなければ、冬花くんの好みを把握せずに何かを見せるために連れてきたりしない。だって、これはお礼のためだから」

「……そうか?」

「まあ、今の冬花くんの反応を楽しんでいるのは否定しないけど」

「この野郎」

「フフフッ」


 なぜか分からないけど、カップルに囲まれて甘い言葉を聞かされると、何となく居心地が悪くて気まずくなるんだ。別に嫉妬してるわけじゃないんだけど……


「冬花くん」

「ん?」


 人間がカップルに感じる先天的なイライラについて考え込んでいると、冬花がイヤホンを差し出した。


「上映開始まであと10分あるから、冬花くんの希望通り少なくとも2曲は聴けるよ。これならいいよ」

「……ありがとう」

「何を聴きたい?」

「ん、おすすめはある?」

「あ、じゃあ私の曲を聴く?」

「それ以外なら」

「あっ、私と一緒にいるのに他の人を選ぶの? この浮気もの!」

「なんでそうなるんだ!」

「うふふ」

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