14-楽しもの
『ふふ、そうなんだ。そんなことが昨日の授業後にあったのね』
翌日、最初の授業時間中、俺と冬花はAINでメッセージのやり取りをしていた。
昨日はそんなことがあったから、俺は仕方なく以前の手段に戻ることにした……それは、チャイムが鳴ると同時に教室に行くこと。
これは、授業初日の出来事の後、俺がやるしかなかった手段だった。これによって、余計なお節介を防ぐことができ、その日の授業が始まる前から疲れさせないことができた。
だからだろう、直接挨拶ができない冬花は、メッセージで挨拶をしてくれたのだ。
最初は返事をするのをためらったが、どうせただの挨拶だからな。それに、失礼なことはしたくなかった。
でも、その小さな挨拶がきっかけで、いつの間にか会話が弾み、今に至る。
(どうして彼女へのメッセージにいちいち返信するようになったんだ……気をつけていたはずなんだが……)
これがリア充の力なのか……? それとも彼女が冬花春凪 だからか?
いずれにせよ、なんという会話スキルだ。あきれを通り越して、ただただ羨ましい。
もし俺が同じスキルを持っていたら、俺が望んだ以上に他人との会話を終わらせることができるだろう。
しかし、これは現実だ。俺がどんな会話でも終わらせようとすれば、軽率か無礼、あるいはその両方と思われるだけだ。
会話が苦手な人たちに少しでもみんなが配慮できればいいのに……
『ふふふ、冬花くん。また嫌そうな顔してるよ』
『そんなに私と話すのが嫌なの?』
『ちょっと傷つくな』
そう言って彼女は泣いている女の子の絵文字を送った。
いや、泣きたいのは俺だ。
『昨日、冬花くんが私と気軽に話しかけてくれたから、仲良くなれたと思ったのに』
『……もう必要ないと思ったからやめたの』
『おっ? それは、私たちが親しくなったことを認めてくれたってこと? ふふふ』
いや、どうせお前を相手するくらいなら、堅苦しいこととかで疲れたくないってことだよ。分かっているくせに適当なことを言うな!
『風紀委員会への参加を拒否したとき、君がそんな顔をしていないわよね』
そう、昨日はどうにか風紀委員に入るをなんとか回避することができた。
しかし、人と上手に相手をするのが苦手なせいで、完全に逃げることはできなかった……
『今日の放課後、風紀委員に顔を出しに行く?』
『しない』
『必要な時だけ協力するだけだからな』
『自己紹介をする必要はない』
『ふふふ、初めてできた友達を大事にしているんだね』
『……どういう意味だよそれ』
『ん? 高校での初めてできた友達でしょ?』
『え、まさか……』
『初めての友達なの!?』
『違う! 友達はいる!』
『その誤解はやめろ! 俺はボッチじゃない!』
そう、俺はボッチじゃない。以前は友達もいたし、もちろん今も友達はいる。
まあ……ここにいるわけじゃないが……でも、友達であることに変わりはない!
カウントされるはずだ!
そうだ。友達がいるからには、俺はボッチじゃない。
人数なんて関係ない。数人だろうが、2人だろうが……1人だろうが…………
な!?
それに、渡邊を入れたらプラス1だ!
セーフだ!
『そうかな……』
『ちょっと心配になってきた』
『オイ』
『何を考えているのか知らないが、やめろ』
『別に手伝ってほしいわけでもなんでもないんだから』
『ふふふ、そうー?』
『そうだ!』
『ふふふ、そうー?』
『じゃあ、そういうことのしておく。ふふっ』
彼女の方を振り向くと、悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。
俺は自分を落ち着かせるために、反対方向を向いて外を見上げる。
ほんとう……どうして俺は彼女の方を振り向くんだ……
見るたびに微笑むのはやめろよ……
その後、俺は授業を聞き続ける。
昼休みになると、冬花がまた誘ってきた。
昼休みを彼女と一人で過ごすのは気が引けたが、またしても断りきれなかった。
あなた強引すぎませんかねぇ? 毎回そうなのか?
昨日と同じ場所に行き、パスタを注文した。
「……今日は一人なのか?」
「ん? あぁ、うん。みんなお昼に用事があるから」
「清水さんも?」
「ふふふ、そうよ。だから今日は私たち2人だけだよ」
言うな。それは無視しようとしてるんだから。
別に彼女と一緒に食事をすることに特に緊張はしていない。
でも、俺にとっては、こうして彼女と二人きりになるのは危険なんだ。
疲れるし、精神的にきつい。
他の人たちの視線やちょっかいに相手をするだけでなく、彼女自体を相手するのが……つらい。
二人でランチを食べながら、彼女が撮影している映画の話をする。
世界的に人気のある架空の小説が原作の歴史映画らしい。バトルもののドラマだ。ストーリー自体もいいのだが、戦闘シーンがこの作品のハイライトらしい。
もちろん、前近代的な時代なんだから、銃などの近代的な武器は登場しない。戦闘シーンは弓と剣で行われ、人々は甲冑などを身に着けている。海外でも人気が出た理由がよくわかる典型的な設定だ。
ちなみに、冬花が演じているのはもちろんメインヒロイン。彼女が演じているのは、ある王国の第二王女。第二王女でありながら、天真爛漫でありながら真面目な性格で、作品の主人公の一人である。
あの年代は血と陰謀が飛び交っているから、彼女の存在は全体の設定にそぐわない。しかし、その性格ゆえに、あらゆることに首を突っ込み、向き合い、関わるすべての人たちに波乱と変化をもたらす。
「……なんというか、これ以上ないくらい、お前にぴったりのキャラクターだな」
「ん? 本当にそう思う? ふふふ、面白いなぁ。マネージャーも冬花くんとまったく同じこと言ってたよ」
なるほど、さすがマネージャー。彼女のことをよく知っているな。
「バトルシーンはみんなが楽しみにしているところだから、その分、みんな力が入っているんだ。 さすがに疲れたよ」
「ん? どういうこと?」
「私が演じているキャラクターにもバトルシーンがあるの。もちろん、他の役と比べれば戦闘シーンは少ないけど、それでも剣の扱い方を勉強しなきゃいけなかったの」
「ほうー?」
どうやら、原作者の要望もあって、戦闘シーンにはこだわりがあったみたい。より没入感を高めるために、刀の扱いに詳しい人を雇い、役者に指導させたそうだ。フィクションでありながら、可能な限りリアリティを追求したと。
「すごいなそれ……じゃあ、役者全員が刀の扱い方を学ばなければならなかったのか?」
「うん。まあ、でもそれほど深く並んでないよ。でも、そうね……刀の正しい握り方とか、鞘からの刀の抜き方とか、素振りの仕方とか、細かいことだったけど、一から学ぶのは本当に疲れる」
「それは……お疲れ様」
「ふふ、まあ……本業以外のことをやるときの楽しみのひとつでもあるから。新しいことをやれることができる。それに、その価値はあったと思う。戦闘シーンがよりエキサイティングになったのは確かだから」
「まあ、そうだろうな。そういう小さな細かいことが見応えもあるからな」
いつの間にか、俺たちの会話は俺が彼女にいろいろ尋ねることで進んでいた。もちろん、好奇心旺盛な部分もある。
そののこりは……思った以上に楽しかったから。




