第9章:アンデッド
「だ、誰——」
「しーっ。」
アリスは唇に指を当ててそっと言った。
「今は《隠蔽》の最中です。騒ぎすぎると、術が解けてしまいます。」
子どもたちは寄り添い、震えながらも必死に静かにしていた。
外では、ダイアアニマルたちが開けた場所を暴れ回り、唸り声を上げ、荷馬車を粉砕し、動くものを片っ端から引き裂いていた。大地がその狂乱に合わせて震える。
間一髪のところで、私たちは間に合ったのだ。
スタンピードの気配を感じたとき、放置すればもっと悪化するのは目に見えていた。
マナの乱れを追った先で、私たちが見つけたのは——壊れ果てた荷馬車、死んだ山賊たち、そして怯え切ったエルフの子どもたちだった。
あまりに痛ましい光景だった。
しかし、アリスの《隠蔽》はしっかりと子どもたちを包み込んでいた。
あの群れと正面衝突すれば、確実に死んでいた。
やがて獣たちは散り、舞い上がる土埃と砕けた木材、そして不気味な静寂だけが残った。
ようやく私たちは動くことを許された。
子どもたちの拘束を外すと、手首と足首には深々と赤い跡が残っていた。何日も縛られていた証だ。顔色は悪く、髪は乱れ、服は汚れて破れている。
疲れ切っていた。
飢えていた。
それでも、泣くまいと必死に堪えていた。
「よければ、私たちのキャンプで休んで食事をしませんか?」
私はなるべく優しい声で尋ねた。
子どもたちは互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。声を出す余力も残っていない。
食料はすでに心許なかったが、私はアリスに言った。
「今出せる最高の食事を準備してくれ。」
アリスはすぐに動いた。
手持ちの材料すべてに味付けをし、
熱いスープ、
焼いた肉、
小さな野菜の煮込みを作ってくれた。
種類こそ少ないが、量だけは子どもたち全員に行き渡るようにした。
それでも子どもたちは、目を大きく開いて料理を見つめていた。
「さあ、遠慮なく食べてください。」
一瞬だけためらいがあった。
そのあと、子どもたちは深く頭を下げた。
「いただきます。」
すぐに、静まり返っていた空間が、アリスがよそっても追いつかないほどの食事の音で満たされた。
子どもたちが落ち着いて食べ始めた頃、私はようやく事情を尋ねた。
彼らは北の森近くの小さなエルフの村の出身だった。
山賊が村を襲い——大人たちは皆殺され、生き残った子どもたちは売り払うために連れ去られたのだという。
「……君たちは、帰りたい場所があるかい?」
私は慎重に尋ねた。
一人の少年がスプーンを震わせながら呟いた。
「帰る場所なんて……もうありません。
父さんも、母さんも……みんな……」
声が震え、ついに涙があふれ出した。
アリスはすぐに少年を抱き寄せ、優しい声で慰め続けた。
少年の顔は涙と恥ずかしさで真っ赤だったが、それでも彼女の腕にしがみつき、嗚咽を漏らした。
落ち着いた頃、私は最も重要な質問をした。
「これから、どうしたい?」
子どもたちは不安げに互いを見つめ、ひそひそと意見を交わした。
復讐を望む子。
安全を求める子。
何も考えられないほど疲れ切った子。
それぞれが違う思いを抱えていた。
だが、結論が出る前に——
アリスが急に固まった。
瞳が鋭く細められ、
一瞬、マナが周囲に走った。
そして、低く緊迫した声で告げた。
「旦那様……異常発生です。」
彼女の指先は、杖を強く握りしめていた。
「アンデッドの気配を感じます。」
第9章 終




