第8章:誘拐
寒い。
疲れた。
お腹がすいた。
怖い。
どうしてこんなことになったの?
つい二日前まで、私は友だちと村で楽しく遊んでいた。
大人たちは夕食の準備をしていて、森の風は松と花の香りがして……全部が安全に思えた。
そこへ、山賊が襲ってきた。
何の前触れもなく押し寄せ、抵抗した人たちを皆殺しにした。
お父さんも……お母さんも……親戚も……全部いなくなった。
子どもたちは全員、私も含めて捕まって、縛られて、この荷馬車に家畜みたいに放り込まれた。
今ではぎゅうぎゅうに押し込まれて、足の感覚もなくなっている。
まともな食事をしていないまま、もう二日がたった。
小さい子たちの中にはずっと泣き続けている子もいたけど、その声でさえ疲れ果ててほとんど聞こえなくなってきた。
私だって今にも泣きそう。
荷馬車が激しく揺れて、外から怒鳴り声が聞こえる。
「クソッ!囲まれた!イカれた魔獣どもが四方から来やがる!」
「なんでこんな道を選んだんだよ!」
山賊の一人が悲鳴を上げる。
別の男が怒鳴り返す。
「黙って荷馬車を押さえてろ!こっちの方が儲かるんだよ!
騎士の連中に荷物を見つかったら牢屋行きだろうが!」
「でも馬がもう限界だ!魔獣がすぐそこまで迫ってる!」
彼らの必死の口論が木板を震わせる。
そして——
重く、威圧する声が響く。
「もういい!任務に集中しろ!」
リーダーだ。冷たくて、怒っていて、残酷な声。
でも、森はそんなことを気にしない。
バキッ——!
大きな破裂音が木々に反響した。
荷馬車が大きく傾く。
馬の悲鳴が続いた。
車輪の一本が折れたのだ。
数時間の無理な走行で、ついに車軸が限界を迎えた。
山賊たちは罵声を上げながら後ずさりし、迫り来る群れを前に怯える。
彼らはエルフ領からエルフの子どもを密輸し、デモンフォレストを抜けて南部の市場へ向かおうとしていた。
その方が早いと思ったのだ。
だが、途中で ダイアビースト の少数に見つかった。
少数は群れになり、群れは集団になり、集団は——スタンピードへと変わった。
地面が震える。
木々が揺れる。
私たちは逃げられない。
山賊の一人が最初に折れた。
「もう無理だ!俺は逃げる!」
男が走り去る。
他の者たちも続いた。
誰一人、遠くへ行けなかった。
彼らの悲鳴は短く、
ダイアビーストの咆哮と噛み砕く音に飲み込まれた。
荷馬車の周りは静まり返る。
残るのは遠くの唸り声と、大地の震動だけ。
私は膝を抱え込む。
ここで……終わりなの……?
「わ、私たち……ここで死んじゃうの……?」
小さなエルフの子が震えながら呟く。
誰も答えられなかった。
魔獣たちが近づいてくる。
地面を引っかく爪の音が聞こえる。
息づかいが聞こえる——獲物が逃げられないと知っている捕食者特有の、あの呼吸。
希望なんて、もうどこにもない。
その時——
混乱の中を切り裂くように、柔らかく、しかしはっきりとした声が届いた。
落ち着いていて、強くて、澄んでいる。
「コンシール」
第8章終わり




