表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/25

第23章:接触条件


誰も動かなかった。

エルフは着地した場所にそのまま立ち、両手を見える位置に保っている。

姿勢は力が抜けているが、油断はない。

無害を装うでもなく、敵意を誇示するでもない。

――それが、何よりも神経に障った。

「用件を言え」

俺はようやく口を開いた。

「ゆっくりだ」

アリスは俺の隣に留まり、ワンドを下げつつも構えている。

子どもたちはすでに内側の境界の向こうへ退き、視線をそのエルフに釘付けにしていた。

エルフは、わずかに頭を下げた。

「ヴェルリンと名乗る」

彼は言った。

「エルフ王廷より、村の破壊について調査を依頼されている」

声は落ち着いていて、事務的だ。

「依頼、ということは……」

アリスが確認する。

「王廷の直接命令ではないのですね」

「その通りだ」

ヴェルリンは答えた。

「私は王廷に拘束されていない」

その言葉に、俺は一瞬だけ彼を見る。

「なら、なぜここにいる?」

俺は問う。

「村も、痕跡も見つけた。普通なら、そこで終わりだ」

ヴェルリンの視線が移動する。

俺たちではない――子どもたちの方へ。

「痕跡は、ここで終わっていなかった」

彼は言った。

「ここまで続いていた」

空気が、重くなる。

「……子どもたちは?」

アリスが慎重に尋ねた。

「生きている」

ヴェルリンは答えた。

「それだけで、報告は複雑になる」

アリスの身体が、わずかに強張るのが分かった。

「説明して」

ヴェルリンは、ほんの一瞬だけ言葉を選んだ。

用意された答えではないことが、はっきり分かる間だった。

「私が今すぐ戻れば」

彼は言う。

「王廷は子どもたちの引き渡しを求めるだろう。

質問が飛び、判断は――この森から遠い場所で下される」

「戻らなければ?」

俺は重ねて問う。

「その場合、私は留まる」

ヴェルリンは簡潔に言った。

「この場所が脅威なのか……それとも、避難所なのかを見極めるまで」

沈黙が落ちた。

俺は彼を注意深く観察する。

嘘はついていないようだ。

だが、必要以上のことも語っていない。

「俺たちを監視していたな」

俺は言った。

「そうだ」

「どれくらいだ?」

「君たちが山賊ではないと分かる程度には」

ヴェルリンは答えた。

「そして、無謀でもないと分かる程度には」

「答えになってない」

ヴェルリンは、まっすぐ俺を見る。

「君たちを殺すのは、間違いだと分かる程度には、だ」

アリスが、息を吸い込む音がした。

俺は杖を握る手に力を込める。

「考えたんだな」

俺は低く言った。

「考えた」

ヴェルリンは即答した。

「一瞬だが」

その正直さは、評価できない。

「人を殺す話を、注釈みたいに口にするな」

俺は冷たく言った。

「同意する」

ヴェルリンは静かに返す。

「だから、実行しなかった」

アリスが、半歩前に出た。

「調査中だと言いましたね」

彼女は言う。

「なら、あなたが何を見ていると思っているのか、説明してください」

ヴェルリンは、初めて彼女を正面から見た。

「存在するはずのない集落だ」

彼は言った。

「攻撃的ではなく、制御された魔法。

人間とエルフの子どもたちが共に暮らしている。

ミアズマは浄化されていない――抵抗されている」

彼の目が細くなる。

「そして……説明のつかない変数が一つある」

俺には、何のことか分かっていた。

「ポータルだ」

俺は言う。

ヴェルリンの視線が、そちらへ向く。

「そうだ」

その一言には、重みがあった。

俺は、ゆっくりと息を吐く。

「……で、次はどうする?」

「選択肢を検討している」

ヴェルリンは答えた。

「だが、判断するまでの間――ここに留まることが許されるなら」

「いいだろう」

俺は言った。

「今のところはな」

アリスが驚いたようにこちらを見る。

「ただし」

俺は続けた。

「そのポータルには、近づくな」

ヴェルリンは条件を考え、

やがて頷いた。

「受け入れよう」

俺は警戒を解かない。

彼も同じだ。

だが――

彼が現れてから初めて、俺たちの間の沈黙は意図的なものになった。

敵対ではない。

ただ、慎重なだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ