第22章:選択
――ヴェルリン視点――
ヴェルリンは、その場に留まり続けた。
数時間が過ぎ、やがて一日、さらにもう一日が経った。
同じ日課が、ほとんど退屈と言えるほどの規則性で繰り返される。
夜明けと共に動き出し、仕事は言い争うことなく分担される。
食事は質素だが十分。
巡回は一定の間隔で行われ、重複はなく、死角もない。
人数の少なさを考えれば、異様なほど効率的だった。
――効率が良すぎる。
ヴェルリンは、そのリズムを記憶に刻み込んだ。
シェルター同士の距離。
巡回交代の時間。
子どもたちが常に把握され、見失われることがないこと。
動きに無駄がない。
混乱が存在しない。
それが、彼を不安にさせた。
どうして子どもたちは、ほとんど知らない人間たちを信頼できるのか。
自分たちの家族は、人間によって殺されたというのに。
その疑問は、重く、答えの出ないまま胸に残った。
どうすべきか判断できず、ヴェルリンは選択肢を慎重に天秤にかける。
最初の選択肢は、あまりにも明確だった。
――人間を殺し、子どもたちを奪い、アエルシリオンへ連れ帰る。
だが、その考えはすぐに退けられた。
護衛の魔導士たちは熟練している。
圧倒的ではないが、規律があり――何より、互いを信頼している。
連携に綻びがない。
一人なら、倒せる。
だが、二人は無理だ。
仮に成功したとしても、彼自身が重傷を負うだろう。
その状態で、デモンフォレストの脅威から子どもたちを守ることはできない。
次の選択肢は、より安全だ。
撤退し、エルフ王廷へ戻る。
調査結果を報告し、評議会の判断に委ねる。
だが――
彼が離れている間に何かが起きたら。
魔物が現れたら。
子どもたちが失われたら。
ヴェルリンは、ゆっくりと息を吐いた。
その罪悪感を、彼は一生背負うことになるだろう。
残る選択肢は、一つ。
――接触する。
最も危険な選択だ。
一歩踏み出した瞬間、観察は終わる。
彼の存在そのものが、かろうじて保たれている均衡を乱す。
恐怖ではない。
不確かさが、彼をためらわせていた。
その時、空き地での動きが目に入った。
子どもたちが、再び集まっている。
人間の女性が、その中心に立っていた。
杖を手にしているが、命令している様子はない。
マナを無理に形作らせてもいない。
――感じさせているのだ。
ヴェルリンの身体が強張る。
それは、エルフが魔法を教える方法ではない。
マナは、甘やかすものではない。
形作り、抑え込み、規律を与えるものだ。
それが教義であり、法だった。
だが――
子どもたちは応えていた。
ゆっくりと。
慎重に。
負担もなく、反動もなく。
ヴェルリンの理解に、静かな亀裂が走る。
もし、この方法が機能するのなら――
自分たちの教えは、完全ではなかったということになる。
その事実は、彼が思っていた以上に重く胸に響いた。
――アラリック視点――
気配を感じた。
マナではない。
ミアズマでもない。
――存在感だ。
俺は振り返り、静かに声をかけた。
「アリス。見られている」
彼女は即座に反応する。
「マナ・ヴェール」
空気が揺らいだ。
一瞬、何も起きない。
だが次の瞬間、頭上の影が不自然に歪んだ。
枝の間から、一つの影が音もなく地面へと降り立つ。
褐色の肌。
銀の瞳。
――エルフだ。
武器を抜く様子はない。
逃げる気配もない。
……
敵意は感じられない。
だが――
こんな辺境に、なぜエルフが?
第22章 終




