第21章:エルフの斥候
報告は、エルフの王廷に届けられた。
外縁の森林路に沿って、ひとつの村の残骸が発見されたという。
焼け落ちた家屋、砕かれた結界、倒れたままの遺体。
生存者は――現地では確認されなかった。
「山賊か?」
ざわめきが広間を巡る。
だが、詳細が読み上げられるにつれ、声は次第に消えていった。
「国境での小競り合いではない」
やがて、評議員の一人が口を開く。
「これは……襲撃だ」
エルフ王は、何も言わずに報告を聞いていた。
玉座の肘掛けに指を軽く置いたまま、最後まで。
読み終えられると、王はゆっくりと息を吐いた。
「軍を動かすのは過剰だ」
王は言った。
「そして、目立ちすぎる」
宰相が一礼する。
「では、静かに進めましょう」
「真実を探れ」
王は命じた。
「御意」
宰相はそう答えた。
命は、迅速に下へと流れる。
エルフ王廷は、自国の斥候を招集しなかった。
代わりに宰相が求めたのは、単独行動に慣れた者。
誓約にも、地位にも、期待にも縛られない存在。
――フリーランサーだ。
ヴェルリンは、淡々と依頼を受けた。
条件は単純。
襲撃の調査。
加害者の追跡。
そして、この事件がアエルシリオンにとって、より大きな脅威となり得るかの判断。
旗も、権限もない。
必要なのは――答えだけ。
村は、十分に語っていた。
ヴェルリンは静かに廃墟を巡り、痕跡を確認し、倒れた者の傍に膝をつく。
遺体はすべて、丁寧に埋葬した。
可能な限り名を記し、手向けを行う。
契約には含まれていない。
だが、そうすべきだと感じた。
痕跡を追うのは容易だった。
靴跡。
荷車の轍。
下草を引きずった血の跡。
山賊にしては、散らばりがない。
動きに目的があった。
南――
デモンフォレストの方角だ。
ヴェルリンは、森の縁で足を止め、暗い樹冠を見上げた。
ここからでも、ミアズマが感覚に触れてくる。
呼吸を整え、魔力を引き出す。
影が歪み、存在感が薄れる。
彼は森へ踏み入った。
奥へ進むほど、痕跡は奇妙さを増していく。
大規模な魔法行使の痕――
地形が抉られた跡。
焼け焦げた痕は、荒々しさではなく、制御を感じさせた。
山賊だけの仕事ではない。
破壊された防具の破片が点々と落ちている。
大半は革製――完全に潰されていた。
……蹂躙されたのだ。
ヴェルリンは眉をひそめる。
戦闘の痕跡は至る所にある。
だが、肝心の遺体がない。
どこへ消えた?
近くで、主道から分かれる小さな足跡を見つける。
――子どもだ。
エルフの子ども。
生きている。
その事実が、彼の歩みを遅らせた。
慎重に追跡する。
感覚を最大限に広げる。
この辺りのミアズマは奇妙だった。
薄い場所と、濃い場所がある。
偶然ではない。
――誘導されている。
そして、彼はそれを見た。
集落。
粗末だが、意図的に作られている。
丁寧に配置された結界。
ミアズマを消すのではなく、押し返す境界。
耕作の痕跡。
秩序――意識して維持されている。
人影がある。
人間。
エルフ。
子どもたち。
ヴェルリンは、近づかなかった。
代わりに、観察する。
影の中から、生活の流れを。
巡回の様子を。
魔法の使い方――そして、使われない場面を。
ここは、山賊の巣ではない。
要塞でもない。
ヴェルリンは古木の幹に背を預け、静かに待つ。
「……もう少し、様子を見る必要があるな」
真実というものは、
時間を与えられて初めて姿を現すこともある。
第21章




