第20章:小さな前進
エルフたちの生活リズムに、わずかな変化が生まれた。
彼らは自分たちの意思をはっきり示した。
そして俺も、もう見て見ぬふりはできなかった。
「起きろ」
仮設の小屋の外から声をかけると、
中から一斉にうめき声が返ってくる。
子どもたちは眠たそうに起き上がり、半分寝ぼけたまま寝具を整え始めた。
動きは鈍く、不器用だ。
こんな早朝に規律ある行動を求められる生活には、まだ慣れていない。
全員が庭に集まったところで、簡単な体操を始めさせる。
きつすぎない。
無理もさせない。
武器の前に。
魔法の前に。
何より先に――体力が必要だった。
基礎的な動きだけで息を切らす姿を見て、胸の奥が少し締め付けられる。
どれほど覚悟を決めていようと、どれほど真剣な目をしていようと、
彼らはまだ子どもだ。
こんな現実を押し付けるのは、間違っている気がした。
だが――
現実は、許可を求めてはくれない。
訓練の途中、アリスが杖を手に境界を巡回していた。
歩きながら記録を取り、周囲の様子を確認している。
調査はまだ続いているようだ。
俺たちの邪魔をすることなく、そのまま朝食の準備へ向かっていった。
およそ一時間後、俺は手を上げた。
「ここまでだ。各自、身の回りを整えろ。境界の外に出る時は注意しろ」
子どもたちは頷き、素早く散っていく。
そこから先は、すっかり定着した一日の流れだ。
まずは雑務。
次に実践と生存訓練。
昼食。
アリスの監督下での基礎魔法。
再び雑務。
夕食。
そして、就寝前の自由時間。
慌ただしく、決して楽ではない。
だが――
この日課こそが、安定の象徴だった。
その日の後半、
道具の点検、境界の確認、浄化用アーティファクトの調整をして回っていると、
ある変化に気づいた。
畑だ。
かつては何もなかった土が、今では緑で埋め尽くされている。
穀物はまっすぐに伸び、果実をつける植物も重たそうに実を垂らしていた。
もう、そう遠くない。
――収穫は近い。
その場に立ち止まり、しばらく眺める。
ここにいる全員が、何かを失ってきた。
家。
家族。
確かな未来。
空腹も、恐怖も、疲労も乗り越えてきた。
皆、少しずつ張りつめている。
……たまには、息抜きが必要だな。
盛大な宴でなくていい。
それでも、少しは不安を和らげられるだろう。
問題が消えるわけじゃない。
だが――
努力が、ちゃんと実を結ぶことを思い出させることはできる。
収穫を前に、俺は静かに決めた。
その時が来たら、祝おう。
楽だからじゃない。
簡単だからでもない。
――それでも、俺たちは前に進んでいるのだから。
第20章 終




