第16章:基礎作り
俺は朝早く目を覚ました。
森はまだ静寂に包まれ、冷たい空気が肌に触れる。しばらくの間、ただ寝転んだまま、頭上の樹冠を見つめ、昨日の決断の重みを受け止めていた。
――ここに留まる。
重い決断だった。
だが、間違ってはいない。
皆を起こさぬよう静かに起き上がり、外へ出る。
淡いミアズマが木々の間をゆったりと漂い、俺の覚悟など意に介さない様子だ。
それでいい。ここが歓迎してくれる必要はない。
俺が、なんとかする。
すでにアリスは起きていた。
空き地の端に立ち、片手にワンド、もう片方にメモを持ち、目を半分閉じて周囲のマナの流れに集中している。
「早いな」
俺が声をかける。
アリスは振り返り、かすかに笑った。
「師匠が遅いだけです。」
……そうだろうな。
「周囲を調べていました」
彼女は続ける。
「場所によってミアズマが薄い所があります。それに、地形的に動きが集中しやすい場所も」
「いい情報だ」
俺は頷く。
「活かそう。」
背後で、シェルター・アーティファクトの中から小さな物音がした。
子どもたちが目をこすりながら、順番に外へ出てくる。
昨夜は皆、アリスのシェルターの中で身を寄せ合い、毛布と体温を分け合って眠っていた。
狭く、不便だっただろう。
それでも――安全だった。
簡単な朝食を済ませた後、アリスが俺を手招きした。
「もっと良い場所を見つけました。」
二人で周囲を回る。
彼女が示したのは、わずかに高くなった地形だった。
泉のそばにある発光する構造物――あのポータルからは十分距離があり、それでいて清潔な水にはアクセスできる位置。
「ポータルはまだ未知数です」
アリスは言う。
「安定しているのは確かですが……ゴブリンが出てきた事実もあります」
「同意だ」
俺は即座に答えた。
「少し移動しよう。運を試す必要はない。」
場所が決まると、俺は子どもたちを集めた。
「危険なことはさせない」
俺は念を押す。
「小枝を集める、石を運ぶ、見える範囲で動く。それだけだ。勝手に歩き回るな」
子どもたちは真剣な表情で頷いた。
作業が始まると、俺は一歩前に出て杖を掲げる。
「浄化。」
マナが地面へ流れ込み、広い円を描くようにミアズマを押し返す。
空気がわずかに軽くなり、境界がはっきりと分かる。
続けて、事前に用意していた浄化アーティファクトを設置した。
小型で簡素だが、確かな効果がある。
「ここが俺たちの境界線だ」
俺は静かに言った。
「これを越えるなら、覚悟の上ってことになる。」
昼頃には、空き地の形が整っていた。
メインのシェルターを拡張する代わりに、子どもたち専用の住処を作った。
土を固め、木と樹皮を組み合わせた、低くて横に広い小屋だ。
粗削りで歪んではいるが、しばらくは持つだろう。
「今はこれで十分だ」
額の汗を拭いながら、俺は言った。
子どもたちは嬉しそうだった。
それ以上に――自分たちだけの居場所ができたことに、安堵しているように見えた。
日が傾く頃には、全員が疲れ切っていた。
その夜は、小さなごちそうを許した。
パーシヴァルが残していった物資は思いのほか役立ち、温かい食事で腹を満たし、久しぶりに本当の笑顔がこぼれた。
残りは慎重に管理する。
種、根、植えられるもの、再生できるものはすべて分けて保管した。
無駄は出さない。
焚き火がはぜ、森が再び闇に包まれる中、俺は今日成し遂げたことを見渡す。
境界線。
空き地。
住処。
小さな一歩だ。
だが、確かな一歩でもあった。
第16章 終




