第14章:根を下ろす場所
パーシヴァルとのあの遭遇は、俺の心を大きくかき乱していた。
彼が姿を消した後も、俺はしばらく空き地に立ち尽くし、彼の言葉を何度も何度も反芻していた。
暗殺命令。内側から腐り落ちる王国。
そして、戻れという誘い――また捨てられるかもしれない場所へ。
だが、やがてもっと大切なことに気づいた。
――アリスを待たせるべきじゃない。
重い溜息をつき、俺はキャンプへと引き返した。
戻る頃には、すでに簡素な食事が用意されていた。
アリスと子どもたちは一緒に座り、静かに待っている。
「どうでしたか?」
アリスが軽い口調で尋ねる。
「何かありました?」
「……まあ……」
そう切り出した俺を遮るように、彼女は言った。
「まずは食べましょう、師匠。」
……察しがいい。くそ。
食事は、塩で軽く味付けされた薄い粥と、少量の焼き肉だけ。
質素で、量も少ない。
食料事情が確実に悪化しているのが分かる。
それでも、子どもたちは嬉しそうに器を空にした。
「ごちそうさまでした!」
声を揃えて言う。
「後片付け、お願いしてもいい?」
アリスが優しく尋ねる。
「任せてください!」
子どもたちは元気よく答え、食器を手に取った。
子どもたちが片付けに取りかかるのを見届けてから、アリスが俺のもとへ来る。
「それで……」
静かな声で言った。
「何があったんですか?」
「……ああ」
俺はすべて話した。
パーシヴァルのこと。
王国の現状。
そして、俺に出されていた“殺害命令”のこと。
何一つ隠さなかった。
話し終えた頃には、アリスは黙り込み、表情の読めない顔で情報を整理していた。
「……そうだったんですね」
小さく呟く。
俺たちは、自然と険しい表情になっていた。
「師匠」
少し間を置いて、アリスが言う。
「どんな決断をなさっても、私はそばで支えます。ですが……一つだけ、言わせてください」
「なんだ?」
「王国で何が起きていようと……もう、私たちの問題ではありません」
彼女は静かに続けた。
「私たちは、もうストーンウォルドの民ではないのですから」
――まったく、その通りだ。
「じゃあ、これからどうするべきだと思う?」
俺は尋ねた。
アリスはしばらく考え込み、やがて答えた。
「王国へ戻る選択肢がないなら……現実的な道は二つです」
「ほう?」
彼女はワンドを掲げ、足元の土を軽く操って、簡単な地図を描いた。
「ここがデモンフォレストの中心部です」
彼女は説明する。
「南にストーンウォルド王国。西の海岸沿いに自由都市群。北にエルフ王国。北東に荒廃地帯と東方王国。南東にドワーフの山岳地帯。南西には深層クリスタル洞窟があります」
「……まあ、常識だな」
俺は言った。
「で、言いたいことは?」
「ここを離れることもできます」
アリスははっきり言った。
「どこか、もっと安全な場所へ行く」
「ふむ……」
俺は頷いた。
「妥当な案だ。だが、エルフの子どもたちを連れていれば、どこに行っても狙われる。山賊、奴隷商、人狩り……」
アリスも同意する。
「そして、もう一つの選択肢があります」
彼女は続けた。
「――ここに残る。そして、ここに根を下ろす」
……
「一番危険な選択です」
彼女は静かに言った。
「それでも、私は師匠の決断に従います」
俺は土に描かれた粗い地図を見つめ、そして背後のキャンプへ視線を移した。
子どもたち。
シェルター。
そして、噴水の向こうに淡く光る、正体不明の構造物。
「少しの間、子どもたちを頼む」
俺は言った。
アリスは迷いなく頷いた。
考える時間が必要だった。
---
アリスが子どもたちのもとへ戻った後も、俺はその場に立ち尽くしていた。
森は再び静まり返っていた。
だが、それは安らぎの静けさではない。
瘴気が木々の間をゆっくりと漂い、まるで大地そのものが呼吸しているかのようだった。
俺は、この場所を自分の墓場だと思っていた。
罰として与えられ、存在を消すための地。
だが――俺はまだ生きている。
それどころか、今は
雨風をしのげる場所があり、
水があり、
食料があり、
仲間がいて、
俺を頼る子どもたちがいる。
森の外へ続く道を思い浮かべる。
どの方向にも、別の形の危険が待っている。
俺を狙う王国。
子どもたちを売る都市。
書類や忠誠を要求する国境。
どこへ行っても、逃げ続けることになる。
……俺は、その生き方を知っている。
終わりは来ない。
視線は、噴水近くの淡い光へと向かう。
まだ正体の分からない、不思議な構造物。
危険だ。だが、安定している。予測できる。
そして今のところ、森の最悪を押し留めている。
この土地は敵対的だ。
だが、正直でもある。
宮廷もない。
貴族もいない。
偽りの慈悲もない。
あるのは――
努力で勝ち取る、生存だけだ。
俺は杖を強く握りしめた。
「……もう逃げない」
そう呟き、キャンプへと歩き出す。
アリスのいる場所へ。
子どもたちのいる場所へ。
もし根を下ろす場所を選ぶのなら――
ここしかない。
---
第14章 終




