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『サボりの美学は雪杉さんに学べ』  作者: 白隅 みえい
第8章:それでも働く理由
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Lesson37「深夜のだし差し入れ」

Lesson37「深夜のだし差し入れ」


木曜日の夕方、東都電器の件が無事解決したと安心していたのも束の間、新たな問題が発生した。


「皆さん、申し訳ございません」本山課長が深刻な表情で現れた。「明日のプレゼンテーション、資料に大幅な修正が必要になりました」


僕たちは顔を見合わせた。明日は大手商社のタカギコーポレーションへの新商品提案プレゼンの日だった。


「修正って、どのくらいの規模ですか?」佐々木が恐る恐る尋ねる。


「先方から『競合他社の動向も含めた市場分析を追加してほしい』という要望が今日の16時に入りました」


市場分析の追加。それは一から資料を作り直すのと同じレベルの作業量だった。


「プレゼンは明日の14時からです」課長が時計を見る。「つまり、今夜中に完成させなければなりません」


僕は頭を抱えた。すでに18時を回っている。徹夜作業は確実だ。


「分担して作業しましょう」蓮見さんが提案する。「私は競合分析を担当します」


「僕は市場データの収集をやります」佐々木が手を上げる。


「私はグラフとチャートの作成を」碓氷さんも協力を申し出る。


「僕はプレゼン資料の構成と最終調整をします」


分担が決まると、僕たちは本格的な徹夜モードに入った。


「雪杉さんはどうされますか?」蓮見さんが雪杉さんに声をかける。


「私...何かお手伝いできることはありますか?」


「そうですね...」僕が考える。「資料の誤字脱字チェックをお願いできますか?」


「分かりました」雪杉さんがうなずく。


20時頃、僕たちは各自の作業に集中していた。オフィスには僕たち5人だけが残り、外は既に真っ暗になっている。


「佐々木さん、市場データはどうですか?」


「まだ半分くらいです。思ったより時間がかかってます」


蓮見さんも苦戦している様子だった。


「競合他社のデータが予想以上に多くて...これ、本当に今夜中に終わるかな」


22時を過ぎると、みんなの疲れが見え始めた。


「ちょっと休憩しませんか?」碓氷さんが提案する。


「そうですね」僕もパソコンから目を離す。


その時、雪杉さんが立ち上がった。


「皆さん、お疲れ様です。ちょっと外出してきます」


「外出?この時間に?」


「はい。すぐ戻ります」


雪杉さんがそう言って、大きなバッグを持って出て行った。


(この時間に一体何をしに?)


30分ほどして、雪杉さんが戻ってきた。手には大きな保温ポットとマグカップがいくつか入った袋を持っている。


「皆さん、お疲れ様です」


雪杉さんがポットからマグカップに何かを注ぎ始める。湯気が立ち上り、とても良い香りが漂ってくる。


「これは...」


「覚醒だしスープです」雪杉さんが嬉しそうに説明する。「徹夜作業の時に最適なレシピを考えました」


覚醒だしスープ?僕は首をかしげた。


「普通のだしと何が違うんですか?」


「昆布とかつおぶしのベースに、しょうがと少量の味噌を加えました。脳を活性化させる効果があります」


雪杉さんが僕たちにマグカップを配ってくれる。


「あと、カフェインの代わりにビタミンBが豊富な煮干しも使いました」


僕は恐る恐る一口飲んでみた。


「おお...これは美味しい」


確かに、普通のだしより深いコクがある。しょうがのピリッとした刺激が心地よく、疲れた体に染み渡る感じがする。


「すごく美味しいです」蓮見さんが感激している。


「しょうがが効いて、体が温まりますね」佐々木も満足そうだ。


「これなら徹夜作業も乗り切れそうです」碓氷さんがガッツポーズをする。


雪杉さんが嬉しそうに微笑む。


「良かったです。実は、前の会社で徹夜が多かった時に開発したレシピなんです」


「前の会社でも徹夜してたんですか?」


「はい。でも、その時はコーヒーばかり飲んでて、体調を崩してしまって」


雪杉さんが少し遠い目をする。


「それで、体に優しくて集中力も上がる飲み物を作りたくて、色々試行錯誤したんです」


(雪杉さんなりに、働く人のことを考えてくれてたんだ)


覚醒だしスープの効果は抜群だった。23時を過ぎても、みんなの集中力は衰えない。


「データ分析、順調に進んでます」佐々木が報告する。


「私の競合調査も予定より早く進んでます」蓮見さんも好調だ。


僕も資料の構成作業が捗っている。頭がクリアで、アイデアがどんどん浮かんでくる。


0時頃、雪杉さんが再び立ち上がった。


「おかわりはいかがですか?」


「ぜひお願いします」


雪杉さんが2杯目を注いでくれる。今度は少し味が違うような気がする。


「今度は何を加えたんですか?」


「梅干しを少し加えました。疲労回復効果があります」


確かに、ほのかな酸味が疲れを癒してくれる感じがする。


「雪杉さんって、すごいですね」碓氷さんが感心している。「栄養学の知識もあるんですか?」


「ヨガの先生に教えてもらったり、自分で調べたりして」


「へえ、ヨガって栄養学も学ぶんですね」


「体と心の両方を整えるためには、食事も大切だって」


雪杉さんの話を聞いていると、彼女のサボりや健康志向の背景が見えてくる。単なる怠惰ではなく、しっかりとした哲学があるのだ。


1時頃、僕たちの作業は大きく進展していた。


「競合分析、完成しました」蓮見さんが宣言する。


「市場データも整理できました」佐々木も続く。


「グラフとチャートも仕上がりました」碓氷さんも手を上げる。


僕は各自の資料を統合して、最終的なプレゼン資料を作成していた。


「雪杉さんの誤字脱字チェックはどうですか?」


「はい、全部確認しました。修正箇所をリストアップしてあります」


雪杉さんが丁寧にまとめた修正リストを渡してくれる。


2時頃、ついにプレゼン資料が完成した。


「お疲れ様でした!」


僕たちは拍手で完成を祝った。


「本当にお疲れ様でした」雪杉さんが最後の覚醒だしスープを注いでくれる。


「今度は『完成祝いだしスープ』です」


「また違うレシピですか?」


「はい。達成感を味わうための特別ブレンドです」


今度のスープは、ほんのり甘い香りがする。


「これ、すごく優しい味ですね」


「お疲れ様の気持ちを込めて、昆布の甘みを引き出しました」


僕たちは温かいスープを飲みながら、今夜の作業を振り返った。


「雪杉さんのスープがなかったら、途中で挫折してたかもしれません」佐々木が感謝を表す。


「本当にそうですね」蓮見さんも同意する。「コーヒーだと後半きつくなるけど、だしスープは最後まで体調が良かった」


「栄養学的にも理にかなってるんでしょうね」碓氷さんが納得している。


僕は雪杉さんを見た。


「雪杉さん、今夜は本当にありがとうございました」


「いえいえ、私は何も...」


「何もじゃないですよ」僕は首を振る。「雪杉さんがいてくれたおかげで、みんな最後まで頑張れました」


「そうです」蓮見さんが続ける。「雪杉さんの気遣いがあったから、チーム一丸となって作業できました」


雪杉さんの頬が少し赤くなった。


「皆さんの役に立てて良かったです」


3時頃、僕たちは仮眠を取ることにした。会議室のソファで各自が横になる。


「明日...じゃなくて今日のプレゼン、きっと成功しますね」雪杉さんが眠る前につぶやく。


「雪杉さんの応援があるから大丈夫です」


僕はそう答えて、目を閉じた。


朝7時、僕たちは自然に目を覚ました。


「おはようございます」


みんなでシャワーを浴びて、身だしなみを整える。雪杉さんは最後の「目覚めだしスープ」を作ってくれた。


「今日のプレゼン、頑張ってください」雪杉さんが応援してくれる。


「雪杉さんも一緒に来ませんか?」僕が提案する。


「えっ?」


「今回の資料作成、雪杉さんも大きく貢献してくれましたから」


「でも、私はプレゼンとか...」


「雪杉さんがいてくれると心強いです」佐々木も同意する。


「そうですね、チーム戦ですから」蓮見さんも賛成する。


結局、雪杉さんも一緒にタカギコーポレーションのプレゼンに参加することになった。


14時、プレゼンテーション開始。


僕たちの提案は大成功だった。徹夜で作り上げた資料は完璧で、特に市場分析の詳細さが高く評価された。


「素晴らしいプレゼンテーションでした」タカギコーポレーションの部長が握手を求めてくる。


「ありがとうございます」


プレゼン後、僕たちは近くのカフェで打ち上げをした。


「本当にお疲れ様でした」


「雪杉さんのおかげです」僕が改めて感謝を伝える。


「昨夜の覚醒だしスープがなかったら、絶対に完成しませんでした」


雪杉さんが照れくさそうに笑う。


「でも、楽しかったです」


「楽しかった?」


「はい。みんなで一つの目標に向かって頑張るの、初めてでした」


雪杉さんが真剣な表情で続ける。


「前の会社では、いつも一人で作業してて。でも昨夜は、みんなと一緒に頑張れて」


「雪杉さんも大切なチームメンバーです」


「ありがとうございます」


夕方、会社に戻ると、本山課長が待っていた。


「皆さん、お疲れ様でした。タカギコーポレーションから『今期最高のプレゼンだった』と高評価をいただきました」


「やったー!」みんなで喜びを分かち合う。


「特に、短時間での資料作成は見事でした。チームワークの勝利ですね」


課長が雪杉さんを見る。


「雪杉さんも、サポート役として素晴らしい働きでした」


雪杉さんが嬉しそうに微笑む。


その夜、僕は雪杉さんと一緒に帰ることになった。


「今日は本当にありがとうございました」


「こちらこそ、貴重な体験をさせてもらいました」


駅まで歩きながら、雪杉さんが話しかけてくる。


「上村さん」


「はい?」


「徹夜作業って、一人だと辛いけど、みんなでやると楽しいですね」


「そうですね。雪杉さんがいてくれたから、みんな最後まで頑張れました」


「私も、みんなの役に立ててうれしかったです」


雪杉さんが立ち止まって、僕を見つめる。


「上村さんたちと一緒に働けて、本当に良かったです」


その言葉に、僕の心は温かくなった。


「僕たちも、雪杉さんがいてくれて良かったです」


改札前で別れる時、雪杉さんが振り返った。


「上村さん、また徹夜作業があったら、覚醒だしスープ作りますね」


「今度はもう少し余裕を持って準備したいですね」


「でも、たまには徹夜も悪くないかもしれません」


雪杉さんがクスクス笑いながら電車に乗っていく。


僕は一人でホームに立ちながら、昨夜から今日にかけての出来事を振り返っていた。


雪杉さんの気遣い、チーム一丸となった作業、そして成功したプレゼン。


すべてが特別な思い出になった。


特に、雪杉さんが「みんなの役に立ててうれしかった」と言った時の表情は、忘れられない。


彼女のサボりには、いつも人を思いやる優しさが隠れているのだと、改めて感じた。


サボりの美学は雪杉さんに学べ。


――雪杉「一人の徹夜は修行、みんなの徹夜は祭り。だしは絆のスープ」


#オフィスラブコメ #社会人 #ラブコメ #現代 #星形にんじん


※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。


※AI補助執筆(作者校正済)

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