Lesson36「大口クライアント炎上!」
Lesson36「大口クライアント炎上!」
月曜日の朝、僕が出社すると、営業三課のフロアが異様な緊張感に包まれていた。
「上村!大変だ!」
佐々木が血相を変えて僕に駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?」
「東都電器の件、完全に炎上してる」
東都電器。僕たちの会社の最大手クライアントの一つだ。家電量販店チェーンで、全国に200店舗以上展開している。
「炎上って、何が起きたんですか?」
「土曜日に納品した新商品のデモ機、全部動かないんだって」
僕の血の気が引いた。新商品のデモ機は、来週から始まる春の新生活キャンペーンの目玉商品だったはずだ。
「全部って、どのくらいの規模ですか?」
「200台。全店舗分」
(200台全部って、一体何が起きたんだ)
その時、本山課長が慌てた様子で現れた。
「上村、佐々木、すぐに会議室へ。東都電器の緊急対応ミーティングです」
会議室に入ると、丸山部長も既に到着していた。部長の表情は普段の飄々とした感じとは違って、真剣そのものだった。
「状況を説明する」部長が重い口調で話し始める。「土曜日に東都電器全店舗に納品した新型炊飯器のデモ機、『スマート・ライス・マスター3000』だが、すべて起動しない」
「すべてって...」
「200台、全部だ。しかも明日火曜日から春の新生活フェアが始まる」
課長が資料を見ながら続ける。
「東都電器の営業部長から直接クレームが入りました。『こんな状況では店頭に置けない。キャンペーンの延期も検討せざるを得ない』と」
キャンペーンの延期。それは僕たちの会社にとって致命的な損失を意味する。
「原因は分かってるんですか?」佐々木が尋ねる。
「技術部で調査中だが、初期設定に何らかの問題があった可能性が高い」
「初期設定...」僕が考え込む。
「とにかく、今日中に解決策を見つけなければならない」部長が立ち上がる。「上村と佐々木で東都電器の本社に向かってくれ」
「僕たちが?」
「営業として、まずは謝罪と状況説明をしてもらう。技術的な解決策は後から追いかける」
僕と佐々木は顔を見合わせた。この規模のトラブル対応は初めてだ。
10時、僕たちは東都電器の本社ビルに向かった。電車の中で、佐々木が作戦を練る。
「まずは誠心誠意謝罪して、問題の深刻さを理解していることを伝える」
「その後は?」
「技術部からの詳細報告を待って、具体的な解決策を提示する」
「でも、技術的なことは僕たちには分からないですよね」
「それは...会社に確認しながら進めるしかない」
東都電器本社の会議室で、僕たちは営業部長の田村さんと商品部の山田さんに向き合った。
「今回の件、本当に申し訳ございませんでした」
僕と佐々木は深く頭を下げた。
「謝罪は分かったが、問題は解決策だ」田村部長が厳しい表情で言う。「明日からキャンペーンが始まるんだぞ」
「はい、承知しております」
「で、具体的にはどうするんだ?」
佐々木が答えようとしたが、言葉に詰まる。まだ技術部からの報告が来ていないのだ。
その時、僕のスマホにメッセージが入った。会社のSlackからの通知だ。
雪杉香 11:30
上村さん、お疲れ様です。東都電器の件で資料を調べています。
雪杉香 11:31
『スマート・ライス・マスター3000』の初期設定マニュアル、問題を発見しました。
僕は驚いて佐々木に画面を見せた。
雪杉香 11:32
WiFi設定のパスワード、デフォルト設定が空白になっています。店舗のWiFiに接続する際、パスワードの手動入力が必要です。
雪杉香 11:33
おそらく納品時に、WiFi設定が完了していないため起動しない状態になっていると思われます。
(雪杉さんが技術的な分析を?)
上村優 11:34
雪杉さん、ありがとうございます!その情報、今すぐ必要でした。
雪杉香 11:35
各店舗での設定手順書も作成中です。15分後にお送りします。
僕は田村部長に向き直った。
「申し訳ございません。今、技術的な原因が判明いたしました」
「どういうことだ?」
「WiFi設定の問題のようです。店舗での初期設定が必要で、それが完了していないため起動しない状態になっています」
山田さんが身を乗り出す。
「つまり、機械自体に問題はないということか?」
「はい。設定を行えば正常に動作するはずです」
15分後、雪杉さんから詳細な設定手順書が送られてきた。PDFファイルには、画面付きで分かりやすく手順が説明されている。
「これを各店舗で実施していただければ、すぐに問題は解決いたします」
田村部長が資料を見て、表情が少し和らいだ。
「なるほど、これなら何とかなりそうだ」
「本日中に、弊社のサポートスタッフが各店舗を回って設定作業を行います」
佐々木が提案すると、山田さんがうなずいた。
「それなら明日のキャンペーンに間に合うな」
僕はホッと胸を撫で下ろした。
会社に戻ると、雪杉さんがデスクでパソコンに向かっていた。
「雪杉さん、本当にありがとうございました!」
僕が駆け寄ると、雪杉さんが振り返って微笑んだ。
「お疲れ様でした。うまくいきましたか?」
「はい、雪杉さんのおかげで問題解決の道筋が見えました」
「良かったです」
佐々木も雪杉さんに頭を下げる。
「雪杉さん、本当に助かりました。でも、どうしてあんなに詳しく調べられたんですか?」
「実は、『スマート・ライス・マスター3000』、前から気になってたんです」
「気になってた?」
「だしを炊くのに最適な炊飯器を探してて、資料を読み込んでいたら、WiFi設定の部分で気になることがあったんです」
(だしを炊くために炊飯器の資料を読み込んでた?)
「それで、今朝の騒ぎを聞いて、もしかしてと思って確認してみました」
雪杉さんのマイペースな趣味が、まさかの形で会社を救ったことになる。
午後からは、技術サポートチームと一緒に東都電器の各店舗を回る作業が始まった。僕と佐々木、それに技術部の田中さんとでチームを組んで、都内の主要店舗を回った。
最初の店舗、渋谷店。
「すみません、炊飯器の設定作業で伺いました」
店長さんが案内してくれて、デモ機の前に立つ。確かに電源は入らない状態だ。
技術部の田中さんが雪杉さんの手順書を見ながら作業を開始する。
「まず、背面のリセットボタンを3秒長押し...」
ピッという音がして、画面が点灯した。
「おお、画面が付きましたね」店長さんが驚く。
「次に、WiFi設定画面で店舗のパスワードを入力...」
田中さんが店舗のWiFiパスワードを入力すると、炊飯器が正常に起動した。
「素晴らしい!これで動きますね」
1台目の設定が完了すると、他の作業も順調に進んだ。雪杉さんの手順書が非常に分かりやすくて、迷うことがない。
新宿店、池袋店、秋葉原店...1日で都内の主要店舗10店舗を回り、すべて設定完了。
夕方6時頃、最後の店舗での作業を終えて、僕たちは会社に戻った。
「お疲れ様でした!」
営業三課のメンバーが拍手で迎えてくれる。
「どうでした?」蓮見さんが心配そうに尋ねる。
「すべて順調に完了しました」佐々木が報告する。「明日のキャンペーンには完全に間に合います」
「良かった!」碓氷さんがガッツポーズをする。
雪杉さんが僕たちに温かいだしマグカップを差し出した。
「お疲れ様でした。疲労回復のための特製だしです」
僕はマグカップを受け取りながら、改めて雪杉さんに感謝の気持ちを伝えた。
「本当にありがとうございました。雪杉さんがいなかったら、大変なことになってました」
「いえいえ、たまたま炊飯器に詳しかっただけです」
「たまたまじゃないですよ」佐々木も感謝している。「あの分析力は素晴らしかった」
その時、本山課長が現れた。
「皆さん、お疲れ様でした。東都電器の田村部長から直接お礼の電話をいただきました」
「本当ですか?」
「『迅速で的確な対応だった。特に技術分析が素晴らしかった』とのことです」
課長が雪杉さんを見る。
「雪杉さん、今回の分析レポート、技術部でも高く評価されています」
「私、技術的なことは分からないので...」雪杉さんが謙遜する。
「分からないからこそ、ユーザー目線での問題発見ができたんです」
夜8時頃、緊急対応も一段落して、僕たちは打ち上げをすることになった。
「今日は本当にお疲れ様でした」蓮見さんが乾杯の音頭を取る。
「雪杉さんに乾杯!」
「乾杯!」
みんなでビールとだしマグカップを掲げる。
「でも、雪杉さんはなんで炊飯器にそんなに詳しかったんですか?」田中くんが純粋な疑問を口にする。
「だしを炊くのに最適な炊飯器を探してたんです」雪杉さんが説明する。
「だしを炊くって...炊飯器で?」
「はい。お米を炊くのと同じ要領で、昆布とかつおぶしからだしを取ると、すごく美味しくできるんです」
(そんな使い方があるのか)
「それで、色々な炊飯器のマニュアルを読み込んでたら、WiFi機能付きの機種の設定方法も覚えてしまって」
雪杉さんのだしへの探究心が、まさかの形で会社の危機を救ったことになる。
「雪杉さんらしいですね」僕が笑いながら言う。
「そうですね。でも、本当に助かりました」佐々木も感謝している。
「上村さんと佐々木さんの営業対応も素晴らしかったです」雪杉さんが返す。「お客様の前で冷静に状況を説明されてて、すごいなって思いました」
「そんなことないですよ」
「いえ、Slackでやり取りしてる時、すごく頼もしく感じました」
雪杉さんの言葉に、僕の心は温かくなった。
翌日の火曜日、東都電器の春の新生活キャンペーンは予定通り開始された。
『スマート・ライス・マスター3000』のデモ機も全店舗で正常に稼働し、キャンペーンは大成功だった。
昼休み、僕は雪杉さんと一緒に屋上で過ごしていた。
「昨日は本当にお疲れ様でした」
「こちらこそ、上村さんのおかげで私の分析が活かされました」
「雪杉さんの分析がなかったら、僕たちは何もできませんでした」
雪杉さんがだしマグカップを両手で持ちながら言う。
「でも、面白かったです」
「面白かった?」
「普段は一人でサボってることが多いんですが、昨日は皆さんのお手伝いができて」
雪杉さんが空を見上げる。
「一人のサボりも楽しいですが、みんなで一緒に頑張るのも楽しいですね」
その言葉に、僕は雪杉さんの成長を感じた。
「雪杉さんは、僕たちにとって大切な仲間ですから」
「仲間...」雪杉さんが嬉しそうに微笑む。「いい響きですね」
午後、東都電器の田村部長から直接お礼の電話が入った。
「今回の件、本当にありがとうございました。特に技術分析をしてくれた方に、ぜひお礼を伝えてください」
僕は雪杉さんにその話を伝えると、彼女は照れくさそうに笑った。
「お客様に喜んでもらえて良かったです」
「雪杉さんのおかげで、大きなトラブルが解決しました」
「でも、これからも気をつけないといけませんね」
「どういうことですか?」
「炊飯器でだしを炊く研究、もっと深めたくなりました」
(まただしの話に戻ってる)
でも、そんな雪杉さんの一途さが、今回の解決につながったのだと思うと、とても愛おしく感じられた。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――雪杉「一人のサボりから、みんなの力へ。だしの研究は無限大」
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




